第13話 温厚な川崎がブチ切れる「豚ゴリラとは何だ!!」

 川崎は『保護者面談』の対象となったご家庭に連絡した甲斐あってか、朝から気分がすぐれなかった。川崎の担当教科は地理である。その日、教室の後ろの方の生徒が授業と関係のない雑談を続けていた。内容は他愛もないゲームキャラクターの話であったが、思わず川崎は強く反応した。

「おい、そこ!ブタとかゴリラとは何だ!!!」

 普段、温厚な川崎がブチ切れた。これにより、クラスは静まり返った。

 そこで、ミケが教室に入ってきた。ミケは遅刻してきたのである。

「ああ、ミケか」

「すいません。授業遅れました」

 ミケが教室に入り、自分の席に着くころにはいつもの冷静な川崎にもどっていた。

「ああ、豚ゴリラって、あれですね。キテレツ大百科のやつですね。月曜日の19時半からのやつですよね」

 川崎は何事もなかったかのようにうまくごまかして、授業を再開つもりだったが、クラス内からは失笑が漏れた。



 その日の放課後、グラウンドでクリケット部が練習を行っていた。ノエルとミケはその様子を教室の内側から眺めていた。

 ミケは普段、授業には遅刻しがちだったものの、美術部にはよく顔を出すようになっていた。一方、その時期イサクは生徒会の仕事が忙しくなり、美術部は欠席が続くようになっていた。

 窓の外のフィールドでは石黒が放ったボールを鳩山が打った。長打となるが、俊足の織部が追い付き、アウトとなった。織部が捕球したところにはあと数メートルにラグビーゴールの柱が立っていた。

「ナイキャーチ」

「もお!」

 それを聞いた石黒が嫌悪感を露わにした。

「おい、鳩山。そのオカマ声やめろ。マジでキモイ」

 石黒はフィールド内に残されていたラグビーゴールが練習の邪魔になっていると感じ始めていた。



 美術部の秋の製作は油絵である。二人で黙々と作業を続けた。そんな日が続いたある日、油谷ミケの作品が完成した。

 『和装のイレーヌ嬢』であった。ルノワールと同じ画風で、描かれていたのはまとめ髪にかんざしを指した着物の少女であった。

「わあ、すごい。和装のルノワールなんて君にしか描けないよ」

 完成した絵画を目にしてノエルは感嘆の声を上げた。描かれた少女の横顔は加納アルルに似ているような気もした。

「この人って、なんだかアルルさんに似ているね。ここ顔の輪郭のあたりとか」

「ううう」

 ミケは、両手で頭を抱えて、苦しみだしていた。

「どうしたの?気分が悪いの?」

 ミケは、普通の頭痛からはあり得ないような苦悶の表情を浮かべていた。


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