第12話 巨匠レオの介入「力付くにでも奪ってくるんだ」
学園祭の前、ミケが帰国した直後に話はさかのぼる。
自宅のアトリエでミケはアルルにポーズを取らせながらデッサンをしていると、そこにレオが現れた。レオは米国で描いたミケの絵を手にしていた。
「これは何だ?何で水彩画なんだ?どういうつもりだ?」
「ああ、それね。初めは油絵を描いていたんだけど、何だか仕上がりが平面的な気がして、イマイチだったんだ。先生は悪くないと言っていたけど、水彩画も描いたら、こっちは絶賛されたよ。ブラボーとかエクセレントとか・・・」
「お前は一体、何しに行ったんだ」
レオは目の前で水彩画を破り捨てた。固まるミケとアルル。レオは容赦なく畳み掛けた。
「お前は雪舟か?こんなんでは米国には行かせられない。お前は瑛峰大学に行け」
「父さん、俺は宗教画は描かないよ。俺には信仰心がない。それに、成績もいいわけじゃないから西洋美術科には行けないよ。俺は大学に行けなくても、父さんのアトリエで絵が描ければそれだけで・・・」
レオはミケを平手打ちした。
「力付くにでも奪ってくるんだ」
痛みに耐えるミケを一人残して、レオとアルルは作業場をあとにした。
レオはアルルを呼んで耳打ちをした。
「おい、アルル。ちょっと学園祭に行ってミケの様子を見てこい。ミケにどんな友人がいるか確かめて、後で報告しろ」
「あんまり手荒なことはやめましょうね」
「だいじょうぶだ。さっきは厳しいことを言ったが、最終的には理事長に話をつければ済む話だ」
瑛峰学院系列の付属校は、瑛峰学院高校、セントマリーゴールド、セントヨルダの三校である。各校の校長は他の学校の教頭を兼務しており、実務の統制は難しい。一方で実務を取り仕切る教務部長にはあらゆる権限が集中していた。
学園祭が行われている間、中間テストの成績処理が行われ、成績会議が行われようとしていた。
成績会議も例によって教務部長の金倉が議長であった。会議が始まると学年主任の川崎が金倉にリストを手渡した。
「成績不良者のリストがこちらです」
成績不良者、それは、瑛峰大学への推薦基準を割り込んだ生徒という意味である。金倉はそれを見ながらよだれを垂らしていた。
「保護者面談いたしましょう」
『保護者面談』という言葉に川崎は鋭く反応した。
「そ、それよりも補修授業の予定を組んだ方が良いかと・・・。それに、会社員のご家庭も多いようですので・・・」
「ほほほ、もうすぐ冬のボーナスが近いじゃないですか。新図書館の建設にお金がかかりますよね。そんなこと気にしていたら駄目ですよ。だって、お金が必要なんですから」
10月下旬にも関わらず川崎は額の汗を拭っていた。
その頃、レオのアトリエではアルルとレオが会話をしていた。アルルが報告しているのは学園祭で調査したミケの身辺と交友関係であった。アルルはスマホで撮影した美術部メンバーの写真を見せていた。
「これが美術部のメンバーか。成績がいいのはどっちだ」
「どっちもミケより成績上位です。こっちの背の高い方は法学部希望。こっちの男の子が神学部希望みたいです」
「なんか女の子みたいだな。で、絵の実力は?」
「こちらです」
アルルは展示されていた作品の写真を見せた。学園祭で展示されていたものをスマホで撮影したものであった。
「なんだこれは?随分と下手くそだな。小学生か?」
「あ、ごめんなさい。これはイサク君の作品。ノエルのはこっちです」
レオはスマホに映ったノエルの作品を凝視した。
「ふむ・・・。なるほど。なかなかの実力だな。この作風、気に入らなくともないな」
アルルはレオの肩に手をのせ、ほくそ笑んだ。
「巨匠レオが褒めるだなんて、珍しいわね」
「ふふ、いずれにせよ。ミケのために西洋美術科の席は空けてもらわないと困るんだがな。しかし、すぐに手を打つ必要はないだろう・・・」
レオは立ち上がって窓の外を見つめた。
「しかし、この実力なら・・・もう少し、競わせておいた方がよさそうだな。ミケとこのノエルという子を・・・」
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