第11話 ミケの帰国 鳩山はベンチプレスでラブ注入う

「パト山さん。一番バッターですね」

「そうなんです。クリケットでもバッティングが得意なんです」

 鳩山はそういうと、ぶりっ子ポーズをしながら目をパチパチさせた。司会の古田がインタービューを行う。

「進学希望先はどちらですか?」

「瑛峰大学の経済学部狙ってます!」

「はい、特技は筋トレとありますが、どんな感じでしょうか?」

 そこで鳩山は元の男声になった。

「ベンチプレスやります」

 ステージの裾から、多数のクリケット一年生に抱えられたベンチプレス一式が運び込まれた。シャフトには右と左でそれぞれ60キロ、合計120キロ分が装着されていた。固唾をのんで見守る中、鳩山は120キロのベンチプレスを2回行い、会場から拍手が沸いた。

「おお、ベンチプレス120キロって相当ですね」

 司会は素で驚いていた。


 ノエルとイサクは観客席からその様子を眺めていたが、ノエルの背中を小突く学友がいた。

「おい、ノエル。飛び込みで参加してこいよ」

「ええ!?僕は行かないよ」

 その反応を見て、クラスの学友たちは爆笑していた。


 ステージが盛り上がる中、イサクは背後に知っている人の気配を感じて振り返った。そこに立っていた人物は油谷ミケと加納アルルであった。

 加納アルルは、油谷レオのアトリエに雇われているモデルで、瑛峰学院の美術の授業や美術部の製作でモデルを務めたことのある人物であった。ふだんは、美大生であるとも、レオの愛人であるとも言われていたが、素性は知られておらず、正体不明なミステリアスな女性であった。

「おい、ミケ。いつの間に日本に帰ってたんだよ」

 イサクは勢いよく声を掛けたが、返答したのはアルルの方であった。

「うふふ、1週間前にニューヨークから帰国したところなのよ。ちなみに、私は玄関にあるレオ先生の作品を見に来たのよ」

「やあ、久しぶりだ。まだ時差ボケで眠いから。アルルに付き添ってもらってるんだ」

「やあ、ミケ。ニューヨークのインターンはどうだった?」

「ぼちぼちだったよ」

「それはよかった。あとでゆっくり聞かせてね」

 何だかわからないが油谷ミケと加納アルルの二人は距離感が近いような気がして、イサクもノエルもそれ以上に深い話はできなかった。


 その頃、ステージでは司会の古田がミスランブリコンテストの優勝者を発表していた。

「優勝者は120キロのペンチプレスを見せてくれたパトヤマラブ子さんです」

 クリケット部の集団がわっとなった。

 しかし、キャプテンの石黒は一人、微妙な顔をしていた。もしかしたら鳩山にそっち方向の性癖があるかもしれない。そんな気配を感じたからだった。

 ステージの鳩山は両手でハートを作って、ニッコリした。


「石黒さんにラブ注入う」


 ステージのスポットライトは、一斉に会場にいた石黒へと向けられた。

「やめろ!」

 石黒が予想以上の拒否反応を示してくれたので、クリケット部員たちは再び爆笑することができた。

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