第15話 なあノエル、上半身だけでいいから脱いでみてくれないか

 その後、2学期の期末テストとなり、試験後に学内掲示板で小論文の入賞者が発表された。大賞はノエルであった。

 毎年、宗教革命を題材に論文試験を行っているが、宗教家以外をテーマに論文を執筆したのはほぼ前例がなかった。しかも、宗教革命による動乱から教会や王政の権威が低下し、宮廷で活躍していた音楽家や画家の活動の場が大衆に移っていく流れをまとめ、見事、対象となったのであった。

 論文試験でほぼ満点。ヘルプした原稿ももれなく入選。論文試験はノエルの独壇場であったが、当のノエルはなぜか浮かない顔をしていた。


 体育会の評議委員会がひと段落したイサクは久しぶりに美術部に姿を現れた。

「なんだ。シャンプー変えたか?何だかいい匂いがするな」

「シャンプーじゃないよ。トリートメントだよ」

 その日、ミケは欠席で、教室には二人だけであった。

 ノエルは普段、教室でも美術部の時でも長袖をまくって取り組むことが多い。しかし、ここ最近は長袖をまくる様子がなかった。そのことにイサクは薄々気付いていた。

「い・・・っ・・・」

 ノエルは何かの痛みを感じ、左手で持っていたパレットを落としてしまった。

「おっと、しまった。僕としたことが」

 ノエルがパレットを拾い上げる様子をイサクは静かに見つめていた。イサクは何かを確かめたい気持ちに駆られた。

「この間、モデルの人に来てもらっていたじゃない。ても、背中の一部で思うように描けなかったところがあるんだ。ちょっと、上半身だけでいいからモデルの替わりになってくれないかなあ?」

「それはちょっと」

「いいから」

 イサクは何かの不安に動かされていた。そしてその眼は何か訴えるようなものを秘めていた。そのことに気づいたノエルは悟ったように要求に従った。

 ノエルが服を脱いで素肌を露出させた。ノエルの服の下は多数の青あざで覆われていた。特に背中がひどく、逆に右腕にはほとんど青あざが見られなかった。どうやら、右腕だけは自分で守り抜いたのだ。

 これはイサクの想定を超えていた。

「いったい、これ、どうしたんだ?」

「・・・」

「親は知ってるのか?」

「・・・」

「警察に被害届を出そう」

「そんなことしたら、推薦がなくなるよ。それに、何の証拠もないし」

 被害者の推薦が無くなるわけないが、その返答が犯人の姿を浮き彫りにした。推薦が関係ある人物。それは、学院の中の誰かである。

「警察に言うと、どうして推薦権がなくなるんだ?それに、この青あざが確かな証拠じゃないか!!!」

「これは僕の問題であって君は関係ない。君に迷惑をかけるわけには・・・」

「俺は生徒会長だぞ!!」

 無二の親友のはずなのに、気づかなかった。無二の親友のはずなのに、隠された。なぜだ。かけがえのない存在ではなかったのか?ただの勘違いだったのか?イサクの中で葛藤は無限ループしていた。

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