第3話 キャプテン石黒が率いるクリケット部 今日のバプテスマは鳩山
夕方、運動部の部活が終わる時間。グラウンドではクリケット部員たちが終礼のために集合していた。クリケット部の練習の最後では、その日、不真面目だったり、エラーが多かった部員に走り込みを行わせることが慣習になっていた。
キャプテンの石黒が対象者を発表した。
「今日の『バプテスマ』は田中、鈴木と鳩山。この三名だ」
「まじかよ〜」
バプテスマは元々、キリスト教の洗礼の意味である。男子高校生たちは、語呂だけでバプテスマという用語を『走り込み』の意味として使っていた。
そもそも、バプテスマに指名されるのは一年生であるが、この日は二年生の鳩山も含まれていた。鳩山は茶目っ気を入れながら『まじかよ~』と言っていたが、まじめに練習していたかどうか石黒はちゃんと見ていたのだった。
鳩山は身長183cm、体重92kgの巨漢。もともと、走り込みは苦手である。なかなか走り出さない鳩山を見て、石黒は問答無用に追い立てた。
「とっとと行って来いよ。5分以内に戻ってこなかったら、またバプテスマだからな」
走り込みは、山の急斜面のコースである。これは、朝はタクシーで移動した道とおなじなのだが、部活の最後ではクールダウンのコースとなっていた。
一年生の二人と二年生の鳩山がダッシュに出かけていくと山の麓の中間地点では、田中と鈴木が先に到達。折り返し地点では、車止めの鉄柱にタッチするのがルールであったが、鳩山はかなり手前の方で引き返そうとしていた。すかさず田中が声を掛けた。
「先輩。ショートカット禁止っす。石黒先輩に言いますよ」
鳩山は『石黒』というキーワードに鋭く反応。振り返って、折り返し地点まで走りきって、折り返していった。しかし、鳩山の視界から一年生の背中がだんだんと遠ざかっていった。
「ひー、ひー、タクシー、タクシー」
鳩山は弱音をこぼしながらも必死に山頂を目指して走っていった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます