第9話 その日に限ってタクシーに乗れなかった。なんで?
そして、古文の小テストの日がやってきた。
その日、駅構内で急病人が発生した。救急車が呼ばれたがなかなか来ない。それを脇で見ながら、クリケット部の石黒、鳩山、織部はタクシー乗り場に向かっていいた。
朝の渋滞に巻き込まれて救急車はなかなかたどり着かなかった。タクシーは裏道を知っている。なので、病院に行くにしても、瑛峰学院に行くにしてもタクシーなら間に合うのである。
3人がタクシーに乗り込むと、タクシーの運転手はいつもと違う対応であった。
「ごめんね。今日は君たちを運べないよ」
タクシーの外では、老婆が駅構内から担架に横になって運ばれていた。
タクシーから3人は降ろされた。代わりに老婆が乗せられタクシーは出発した。
三人は駅前のロータリーを見渡したが、他にタクシーはいなかった。
「どうしよう。バスでも使うか・・・」
その路線バスはちょうど目の前で発車したところであった。そのバスはその先で右折待ちで止まっているが、ドアは固く閉められていて乗れる状態ではない。いっそのこと、バンパーによじ登れば間に合うかもしれない。
さすがにそのくらいの羞恥心は持ち合わせていた。
「・・・」
石黒、鳩山、織部の三人はしばらく固まっていたが、こんな状況でも織部の脳裏にふとした冗談が思いついた。
「ようよう白くなりゆく答案・・・」
「いとおかし!」
ふとした織部の発言に鳩山が鋭く反応。二人は顔を見合わせながら爆笑したところで石黒はブチ切れた。
「ぜんぜん、おかしくない!!走るぞ!!!」
そして、三人は走り始めた。部活のバプテスマは往復であっても下り坂から始まる。だから気持ちとしては少し楽だ。今回は上り坂だ。しかも、部活の用具や鞄などの学用品を持参している。
唐突に始まった朝のバプテスマ。必死に山登りした結果、ワイシャツは汗だくとなった。まさに本来のバプテスマの意味の通り水浸し状態になりつつも、三人は何とか古文の授業開始に間に合うことができた。
古文の試験後、石黒、織部と鳩山が集まって会話をしていた時だった。織部は真新しい新品同然の教科書を広げた。
「え、『せいしょうなごん』って、『清』、『小納言』なの?」
石黒がすかさずこの発言を打ち消した。
「違う。違う。漢字が違う」
「大納言は大きいのに、少納言は少ないの?この教科書間違ってない?」
しかし、織部はなおも腑に落ちないようであったが、返却された答案を受け取るとき、点数を見ながら悪態をついた。
「清少納言なんて、ブスに決まってる」
日下の古文は相変わらずの難易度であったが、生徒たちはその後の音楽のカラオケで憂さを晴らすように熱唱した。音楽と古文を足すと二科目の科目平均は何とか60点程度であったそうだ。
そんな古文の小テストが行われた日。油谷ミケの席は空席のままであった。クラスメートたちは、短期留学中の油谷ミケについて話題にした。
「ミケはいいよな。古文の小テスト受けなくて済んで」
「俺も画家の息子に生まれたかったわ」
そろそろ、ミケが帰国する時期であった。
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