第6話 キン肉マンOPテーマとともに始まるイサクの学校改革

 芸術系の科目は音楽と美術の選択であるが、イサクとノエルは音楽を選択していた。所属が美術部で選択科目も美術だとさすがに美術だらけになってしまうからである。

 二学期の課題はカラオケの発表であった。ある日の音楽の授業で、各生徒の課題曲のくじびきが行われた。藤井フミヤ、尾崎豊、米米CLUBやスピッツなどが次々とひかれていく中、イサクはくじを引いた。

「うおお・・・こい!!!!」

 どんな楽曲が来ようとも、全力で歌って見せる。そんな気合とともにイサクは紙を開いて書かれていた文字を凝視した。

「なに?『キン肉マン・ゴーファイト』だと・・・」

 生徒会長がほぼ唯一の外れくじを引いたのである。しかもイサクの陰のあだ名はキン肉マン。キン肉マンがキン肉マンを引いたのである。その様子を見た他の学友たちは失笑していた。

 授業後、音楽室から戻る途中、難しそうな顔のイサクの元にノエルが寄ってきた。

「よかったじゃないか。ぼくなんか『踊るポンポコリン』だったよ」

 それを聞いてイサクは思わずニヤリとしてしまった。ふだん、おとなしく、女子みたいな雰囲気のノエルが緊張しながら『踊るポンポコリン』を歌う。そんな姿を想像してしまったのだ。

「ぷぷ、そ、そうか、それは大変そうだな」

「ちなみに、余ったくじにはシューベルトだったらしいよ。そっちの方がよかったな」

「人数分のくじが作られて、同じ人数の人間が引いているのに、何でクジが余るんだ?」

「あ、さすが、イサク。よく気付いたね。よく考えると不思議だね」

 不思議な事はもう一つある。桜木町で補導が行われるとか事前情報を流している割には、高校生同士でカラオケに行くという大義名分を与えていることである。


 ある日、イサクは生徒会室で一冊の文庫本を読み終えた。小論文課題のためにルターの『キリスト者の自由』の解説書であった。イサクの傾向として読んだ本に簡単に感化されることがある。

「俺は学院を改革するぞ。俺はルターだ」

 イサクはその場で立ち上がり、その様子をノエルは丸い目をしながら眺めていた。

「俺、朝立をするよ」

 イサクはルターの『我、ここに立つ』のフレーズをマネして使ったつもりだった。

 しかし、これを聞いてノエルの顔は赤くなった。

「何のことなの?ひょっとして、何か下ネタなのかな?」

「違う違う。朝、校門のところに立つんだよ。下ネタじゃない。下ネタはお前だ。朝、校門のところに立って、学院生に挨拶するんだ。そうすれば、学院生の目も覚めて、一限から授業を聞くようになるんじゃないのかな」

 ノエルは目を丸くして、イサクの話を聞いていた。イサクは猪突猛進タイプである。ノエルはそのことをよく知っていたのである。

「待って、僕も一緒に行くよ」

 ノエルはイサクの朝立ちに同行した。ノエルが心配した通り、学院生への朝の挨拶は奇異の目で見られた。最終的にイサクが朝立していた場所はオハヨーゾーンと呼ばれるようになり、二週間程度で終了となった。


 イサクはめげずに次の方策を打ち出した。

「この間、和歌山県で大地震があったので、義援金の募金活動をしようと思う。今度は学年の各学級委員に声を掛けた」

「だいじょうぶかな・・・」

「大丈夫だ。全部の教室に行って直接声を掛けたんだぞ」

「待って、僕も行くよ」

 休日、街頭での募金活動であるが、例によってノエルはイサクに同行することとなった。

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