第18話 寄付金で免罪符を買おう

 体育教官室に連行されたミケは大城の説教を受けていた。

「おい、ミケ。なんでこんなことをした?」

 ミケは事務用の丸椅子に座らされたまま、ふてぶてしい態度で答えていた。

「僕の方が西洋美術に向いているんだ。それだけの話だ」

「これがどう関係あるんだ。これは暴力だ。君の親が寄付金いくら払っているか知らないが、こんなはこと許されることじゃないぞ」

 大城が全力で叱責しているにも関わらず、ミケはまだまだ余裕のある表情のままであった。

「おい、少しは反省しているのか?」

「まあ、いくらでもわめくがいいさ。こうやって、思うままに怒鳴ることができるのもいまのうちだからな・・・」

「どういう意味だ」

 ミケは教官室の扉を指さした。

「そのうち、そこの扉が開いて理事長が迎えに来るだろうなあ・・・」

 扉の外から革靴の音が聞こえた。体育教師が息を殺して、近づいてくる足音に集中していたところ、扉が開かれた。扉を開けたのは理事長と教務部長の金倉であった。

 グルテン金貨が箱の中でチャリンと音を立てるやいなや、学校関係者の魂は天国に飛びあがるのだった。


 3学期、教室には油谷ミケと瀬戸ノエルの姿がなかった。教室内の学友たちはこのことの噂話で盛り上がっていた。

「おい、油谷ミケが停学になったらしいぞ」

「何があったんだ?」

「西洋美術科の推薦枠が1名で、ノエルにむりやり撤回させようとしたらしいぞ。ノエルは成績良かったからな」

「なんか、父親から『力づくにでも奪ってこい』とか言われてたらしいぞ」

「さすがに推薦権はなくなったらしい」

「そもそも、入院するほどの怪我なのに、なんで停学程度なんだよ・・・」。

「それは、寄付金パワーだな」

「はは、まさに、免罪符だな」

 寄付金がATMに振り込まれ、札束を数え始めるやいなや、学校関係者の魂は天国に飛びあがるのであった。

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