第35話 お家騒動と隷属の首輪
神斗君は無事に逃げきれている可能性がある事はわかったので、集合場所で会えるのを願うばかりだ。
でね、問題はなんでこのようなことが起きたのかだよ。
「なんで、第1王子が王様を殺したの?」
「第1王子のジルベルトは、前々から皇太子になれないことに強い苛立ちを感じていました。皇太子になれば次期国王ですから。彼にとってそれは大きな問題でした。さらに、国王が兄弟たちを競わせていたことも、ジルベルトの不満を増幅させていたのです」
「……でも、あんな大勢の貴族の前で」
大義のない反旗は、国王となっても支持が得られないじゃないだろうかと感じつつ、ロング副団長の話を聞く。
「普段は国王を殺そうと思っても、毒見役が5人もいて、簡単には手出しできません。そして、移動の際には常に15人もの近衛騎士が王の周りを守っており、つけ入る隙などありません。さらに、本城では王の側近しか帯剣を許されていないのです。だから、あの式典が剣を持つ唯一のチャンスだったのです。それに加えて、ジルベルトは私が動けないという指示を受けていることを知っていたのでしょう」
それにしたって、毒見役が5人、護衛が15人。
美味しい食べ物も楽しめず、プライベートの時間もなさそう。
常にそのような厳重な守りの中で過ごしていたなんて、王様もさぞかし大変だなぁ。
その話を聞いて、私は特に気になる言葉に反応し、「動けない指示?」と聞き返す。
「はい。私は魔人族ですから。魔人族をも統べると見せる為に立ち上がることを許されていなかったのです」
あぁ、だからあの時、ロング副団長は王様の横で跪いて、床に顔を向けていたのかと納得した。
そして、驚いたことに、王様が殺害されたにもかかわらず、王都では何の変化も起こっていないというのだ。
王都であるここでは、庶民たちの生活が何の変わりもなく、平然と続いていた。
むしろ、以前よりも活気に満ちているらしい。
「活気?」
ロング副団長はうなずき、その言葉を肯定した。
「次の国王が誰になるのかという賭け事が始まっています」
ロング副団長は少し苦笑いを浮かべながら答えた。
私は「たっくましーぃ!」と、その状況に呆れつつも感心した。
「まぁ、賭けとしては成り立たないでしょうね。次の王座に座るのは第1王子でしょう。でも何があるかわかりませんから」
「他の王子や王女たちは、王様、つまり父親を殺されたことに対して抗議したりしないの?」
「どちらかと言えば、国王を殺してくれてありがとうとさえ思っているかもしれませんよ。しばらくの間、次の国王が決まるまで城の中は大変な混乱が続くでしょうね」
なるほど、権力争い勃発ね。
あの城に残った日本人3人は大丈夫なのかな?
こんな騒動が起こるなんて思わなかっただろうけど、ミカ達が自ら決めた道なのだから頑張ってほしい。
私と神斗君は、できるだけ早く合流して国を出る。
「とはいえ、状況は瞬時に変わる可能性があるので、この国を出ようと思います」
ロング副団長は「早速で申し訳ないです」と言った。
「ヴィヴィオラの体調がよければ、今日の夜、暗闇に紛れてこの王都を出ます。神斗君を探すために南の野営場に向かい、そこで一夜を過ごしましょう。その後、国を出るためにさらに南下します」
私としては、南の野営場に行けるのであれば異存はない。
ちゃんと再会の約束を守るよ、神斗君。
「暗闇って、やっぱり私と神斗君は悪者扱いとかになってる?」
「先ほど外出していましたが、ヴィヴィオラも神斗さんもお尋ね者にはなっていませんでした。しかし、この近辺では少しでも足跡を残したくないので」
「なるほどぉ~、でも、あの高い城壁があるでしょ?」
以前、王都を見学した際に、第二城門から連なる高い城壁の存在をふと思い出した。
ざっと見た感じでは、その城壁の高さは15~20メートルはあったんだよね。
ロング副団長はニッコリと微笑み、「どこにでも抜け道はあるんですよ」と、普段から使い慣れているように言った。
「しばらくの間、馬車には乗れないことを覚悟しておいてください。そして、野営も続くことになるでしょう」
暗闇に紛れて王都を出るもう一つの理由は、この国では人族が圧倒的に多いため、魔人族の私とロング副団長は非常に目立ってしまうからだ。
彼はこの国の騎士団副団長という地位を捨ててまで、なぜ私をこの国から連れ出してくれるのだろうか。
旅が目的って本当なのだろうか?
それでも、彼の好意に甘えるしかないのが現状だ。
「そういえば、ロング副団長、声が……」
ロング副団長は、しゃべることができなかったはずだ。
ずっと身振り手振りや筆談でしか会話できなかったのだから。
「それは、国王が亡くなりましたので」
死んだから? なぜそのことで声が出るようになったのだろうか?
ロング副団長はゆっくりと服を少しはだけ、首元を見せてくれた。
その首には、少し色が白くなっている部分があり、まるで首輪の跡のように見えた。
「私は国王の奴隷だったのです。国王が死んだから奴隷契約が無効になり、隷属の首輪が外れました」
「奴隷?」
やっぱり奴隷とかがあるんだ、この世界。
「えぇ、理由があって自らお願いしたんです」
「自らお願いした?」
ん? 自らって言ったよね? 聞き間違いだよね?
私が思い描いている奴隷は、質の低い布地に裸足、栄養不足で痩せ細っているイメージなんだけどーーーー。
ロング副団長の頭頂から胸元までを観察する。
艶々で黒々とした髪、立派な体躯で筋肉質、どう考えても奴隷に当てはまらない。
ロング副団長はまんざらでもない顔をする。
う~~、今更だけど顔が良いぃぃ!
それにあの黒豹の耳っぽい丸い耳が可愛すぎる!
「はい。奴隷でも構わないので、地位をくださいとお願いしました」
「へえ? 変わってますね? あの、一緒に国を出るとなるとその地位を捨ててしまうのですが……」
「時が来たので、もうその地位は必要ないのです」
なんか、不思議な人だとも思っていたけど、ますますロング副団長のことがわからなくなってきた。
「時が来たって、何か重要な用事があるんじゃないですか? その為に国を出る感じですか?」
「それは秘密です」
「さっき『もう秘密はなしですよ』って言ったじゃないですかぁ」
ロング副団長は、「いずれお伝えしますよ」と言いながらテーブルの上を片づけ始めた。
自ら進んで奴隷になるなんて、普通では考えられない。
ロング副団長は地位を得るために奴隷となり、王様を近くで身をもって守る役割を果たしていたらしい。
その結果、魔人族でありながらも、他の騎士たちを黙らせることができたという。
いや、そんなことをしなくても、ロング副団長の実力なら黙らせることができそうだけど?
「そ、そうなんですね。何年ぐらい奴隷を?」
ヤダ、まるで趣味を聞くみたいに質問しちゃった。
「5年ぐらいですね」
「あっ、答えてくれるんですね」
「色々な命令がありました。国王の盾はもちろんの事、騎士団長の代理出征、単独で魔物狩りが主ですね。禁止事項もありました」
禁止事項、その中には声の封印も含まれていたそうだ。
奴隷だから、魔人族だからしゃべってはいけないのかな?
奴隷の身分にしては良い身なりやお金を持っていたのは、副団長の地位のおかげと、討伐した魔物を売って得た収入があったかららしい。
認定式で王様の身を守らなかったのは「跪き下を向いて動くんじゃないぞ」という最後の指示があったからで、その指示のせいで王様は命を落としたらしい。
王様の命の灯が消えた瞬間に、奴隷契約が破棄され動けるようになった。
あの記憶が途切れる瞬間、目を覆ったのはロング副団長だったのかもしれない。
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