第27話 元々関係は壊れていたよ
《レンギア王国12日目ーケルンジリア12日目ー》
召喚から12日たった。
神斗君は城の騎士たちとの訓練、私は魔人族であるロング副団長との訓練。
スライム討伐訓練以外は、ずっと別々で行っていた。
連携とかないのですか? とか思ったことは内緒。
多分これから始まるのだろうね。
神斗君とは、かなり仲良くなった。
まぁ、朝食とディナー、自由時間とほぼ一緒にいたらね、そりゃぁ、仲良くもなりますよ。
それにしても12日ちょっとでよくこの状況を高校生の彼は受け入れたと思う。
私は星の管理者の虎さまとの記憶が残っているので、いろいろ受け入れているのかもしれない。
この召喚を楽しもうと思ってる自分にびっくりもする。
唯一の肉親であるお母さんがこの世からいなくなり、友達もいない。
心残りだった配信に関することは、多分期間限定かもしれないが、ここでも出来てる。
それに、だってテロリストに身体を木端微塵って言われたらさ、どうにもならないじゃない。
「おはよう、神斗君。訓練がないのでゆっくりできるね」
「おはようございます。流石に休みが欲しかったのでよかった」
神斗君は深い息を吐き出し、その肩がわずかに震えた。
ジョブ勇者という重くのしかかるプレッシャーが、彼の表情に影を落としているのだろうか?
「訓練辛い? 大丈夫?」
「まぁ、そうですね……」
「神斗君は第1騎士団と訓練しているんだよね?」
神斗君は静かに首を縦に振り、私の問いに肯定の意を示す。
「私がしてる訓練とは大幅に違うの?」
神斗君は一瞬考え込むように、自分の手を眺めている。
「手がどうかした?」
私は神斗君のしっかりとした大きな手を見て、剣だこに彼の努力と訓練の厳しさを感じた。
神斗君はふと自分の手を握りしめ、少し考え込んだ後、言葉を絞り出すように話し始めた。
「訓練の内容も大変ですが、精神的にもかなりキツいです。第1騎士団との訓練は実戦さながらなので……命のやり取りのようなと言えばいいのかーー」
「命のやり取り、そうか……。じゃあ、今日はしっかり休みを取らないとね。私は乗馬の訓練をしようかなと思ってーー」
神斗君は私の「乗馬」という言葉に反応してなのか、すぐに目を輝かせて「あっ、俺も行きます!」と勢いよく答えた。
今日は呼出があって訓練はない。
呼出は朝一で伝えられたんだけどね。
たまにはこうしてゆっくり過ごすのもいいものだ。
神斗君と一緒に呼び出されたので前回のような展開にはならないはず。
少しホッとした。
第五王子が勝手にシッポやら髪やらを触ってくるのを思い出しただけでも身震いする。
「そうだ……、謝ろうと思ってたことがあるんだけどーー」
「ん? なんですか?」
「えとね? なんか、あの件」
神斗君はなんだろうと頭をひねっている。
リーナさんと神斗君付きメイドさんは朝食の準備の為にいないので、今がチャンスとばかりに話を切り出す。
「あの神斗君と寝たって偽装工作した件!」
「あ~、アレですか。どうしました?」
「実は、ミカさんとマナミさんが本気に受け取っちゃった……。嘘だよって言わなくてはいけなかったんだけど、言えそうもない状況でして」
食堂での一部始終を簡潔にまとめて神斗君に伝えた。
それを聞いた神斗君は屈託のない笑顔を見せ、優しい声で言葉を返した。
「あーーハハッ。俺が本当だったら? って言ったので。逆に俺のせいです。いや~、ミカ達本当って信じたんだ」
「ちょっとぉ! 話を本当に聞かなくて。結構、大変だったんだからね! 元といえば私のせいだけどさ」
神斗君は「信じようと信じまいと関係ないんで。ほっとけばいいですよ」と誤解を解かなくてもいいそうだ。
「それより、あいつ、ミカ。おかしいと思ってたんですよ。学力的に受かるはずがないって思っていたのに。そうか、裏口なのか。裏口って本当にあるんですね……」
神斗君が「そんなに俺や母さんを苦しめたいなんてな」と呟くのを聞いた。
ミカが神斗君と彼のお母さんを苦しめていた?
苦しめるために他人の弱点を探し出してまで同じ高校に通うなんて普通じゃない。
「刺されると怖いから、いや、もう刺されそうだけど。一応聞いておくね? 高校生3人は恋愛関係とかないんだよね?」
「ない、ない、ない!! あの二人とだなんて無理だよ!」
「あとで、実は好きでしたとかのカミングアウトしないよね?」
「まったく、ミリもないです……そうですね、ハッキリと伝えた方がいいですよね」
「無理には言わなくてーー」
「嫌いです」
私は黙って神斗君が言葉を吐き出すのを聞く。
神斗君の表情と声には強い決意と怒りが感じられ、彼の本音がひしひしと伝わってきた。
「こんな事をいうとヴィヴィオラさんに怖がられるかもしれませんが、彼女達は嫌いです。ミカにおいては同じ空気を吸うのが嫌なぐらい嫌いです」
「そう……」
「この王国に残ったら日本に帰れるって言われても、ミカも一緒に日本に帰るぐらいなら俺はこの世界で生きます」
「えぇぇ……」
「ヴィヴィオラさんは勘違いしてましたよね? 幼馴染だから仲が良いとか」
「ちょっと思春期の拗れかなぁって思っていたのは否めない」
苦手な人間関係修復頑張ると決意した矢先。
神斗君は柔らかな笑みを浮かべ「ヴィヴィオラさんもその姿では日本には帰れないので、一緒に残りますよね」と。
私は帰れないのを知っているので「まぁ、そうね。一緒に残ろうね」と約束する。
ここまで嫌がるなんて答えが出てるけど、はっきりした方が良い。
「なるほど……。私達以外の3人についてなんだけど……今更なんだけど連れて行かなくてもいいってことで良いかな? あぁ、えとツトムさんとかぁ」
私の戦闘がどれほど使えるのかわからないので、負担が神斗君に圧し掛かるだろう。
彼女たちはジョブ名剣聖や狂戦士ということは戦闘特化に間違いない。
ツトムさんは聖者だから、ヒーラーなんじゃないだろうか。
確実に私より、神斗君の力になるはずだ。
でも、神斗君の先ほどの話から彼女達と一緒は望んでない。
「確かに今更ですね。俺としてはツトムさんは連れて行っても……あっ、スーー……。やっぱり二人で! 二人でが良いですね」
「わかった。でも、私ジョブなしだよ? ジョブありの人がいた方が安心じゃない? も、もちろん彼女達は、うん」
「どうせ他の人達は魔王討伐に行かないだろうし、行く気もなさそうだから逃走の話はしないくださいね」
かなり強く釘を刺された。
「とにかく今度、何か言われたらすぐ俺に言ってください。彼女達に俺達のことをとやかく言われる理由はないので」
「わ、わかった……」
極力、食堂で食べるのはやめよ……う。
そしたら、ミカ達に会うことはないだろうから。
訓練場では、一度も見たことがない。
リーナさんに頼んで、鐘が3回鳴るティータイムをする場所で簡単な昼食を持ってきてもらおう。
「二人なら私も戦闘で役に立てるようにしなくちゃ」
「近距離は危ないので、絶対安全な所から射れる弓にしてください。できれば防御魔法が使えればいいんですけど。ロング副団長から魔法について聞いてます?」
「そういえば魔法について何にも聞いてない!」
「じゃぁ、適正がないって事なのかな」
「私のMPは宝の持ち腐れってこと!?」
そんな話をしていたら、リーナさん達が朝食と共に、服と2つの小さな小袋らしきものを持ってきた。
神斗君付のメイドさんが「こちらで装備を整え、謁見の間へ向かっていただくことになります」と、冷たい目つきでツンとした態度で言う。
目の前に置かれた服というか隣の防具が目に入った。
えっ? 防具?
ここで着るの? 訓練休みなのに?
いつもは訓練前に防具整備係が常駐している部屋で着けるものだ。
それをなぜここで……。
リーナさんが「城の方が騒がしくてーー、絶対良くない事がありますわ。それに……貴族の方々が集まっております」とスープを置くときにこそっと伝えてくれた。
彼女の目線は、防具に注がれており、状況の緊迫感を物語っていた。
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