第12話 読む、書く、話す

《レンギア王国4日目ーケルンジリア4日目ー》


 カーン……、カーン……、カーン……。

 午後、3回の鐘の音がなると今日の訓練が終わる。

 なぜか副団長さまと一緒にティータイムをする時間だ。

 3回だから3時のおやつと覚えた。

 

 ヴィヴィオラの一日

 起床        6回の鐘の音が鳴る

 朝食(応接室)

 訓練        3回の鐘の音が鳴る

 軽いティータイム

 昼食(食堂)    1回の鐘の音が鳴る

 訓練

 ティータイム    3回の鐘の音が鳴る

 夕食(応接室)   6回の鐘の音が鳴る

 自室で自由時間   1回の鐘の音が鳴る

 就寝

 

 1時間ほどのティータイムが終わると自由時間だ。

 ただ、湯あみや着替え、その後のディナーなどでリーナさんや給仕係が忙しなく動いていて、実質の自由時間は就寝前の時間だけ。

 それにしても、魔王討伐の訓練がこんなに緩くてよいのだろうかと不安になるけど、副団長さまが教えてくれるのだから問題ないはず。

 騎士団って、トップに騎士団長がいてその補佐が副団長なんだよね?

 戦闘のプロフェッショナルだと思うんだ。

 だから、問題はないはず。

 だけど、しっかりとこの世界で生きるすべ、特にここでは戦い方を学んでおきたい、逃走するために。

 矢は、的に少し当たるようになったけど、基本どこに飛んでいくかわからないものを射るのはちょっとなぁ。

 前衛の人が死んじゃう……。

 もう少し厳しめにお願いする?

 訓練時間延長してもらう?

 そんなことを考えているうちにリーナさんが、ワゴンでデザートとティーセットを持ってきた。

 今日のデザートはフルーツと焼き菓子、マカロン。

 

「はぁ~~、ん~~、おいしいですね」


 頬を手包み幸せを噛みしめた。

 すっかり、訓練延長の事を忘れている自分がいる。

 副団長さまも優雅にカップを持ち上げながら頷いてくれる。

 

「リーナさんも座りませんか?」

「座りたいのは山々なのですが、メイド長が怖いので……というか同席してはいけない決まりなのです」


 仕事ですからと笑う。


「なるほどーー、決まりなら仕方がないですね。困らせてごめんなさい」

「ヴィヴィオラさまの自室の時にご一緒しましょう」


 リーナさんから色々聞きだすチャンスができそう。

 神斗君も呼んじゃう?


 訓練2日目から、ホテルでアフタヌーンティーを頂くみたいに贅沢な日々を送っている。

 ちなみに午前中の軽いティータイムは、ミニサンドイッチと紅茶を野外訓練場のサボリ騎士たちがいた階段で食べているんだよね。

 朝食からお肉を食べているので、さすがにフルーツを挟んだミニサンドイッチを1個だけ、口にしている。

 食べてるだけじゃないよ!

 この時間は、大切な情報収集の時間でもある、ことにした!

 今日は筆談するために、応接室に置いてあったノートとペン、インクを勝手に持ってきたんだ。

 差しさわりのないところから始めよう。


「私の名前を書いてもらってもよいですか?」


 突然の申し出にも関わらず、副団長さまはカリカリカリと綺麗な字で[ヴィヴィオラ]と書いてくれた。

 字はステータスを確認した時と同じで直線的な形をしている。

 

「やっぱり読める!」


 ルーン文字的な直線の線で構成された字。

 本来ならまったく読める気がしない。

 

「これがこの世界の私の名前かぁ。改めて見ても不思議だなぁ。じゃあ読めるなら書ける?」


 ヴィヴィオラとお手本を元に書いてみる。

 ペンを受け取って、書くと決めたらお手本を見ずにカリカリカリ。

 ちょっと直線がふにゃっとしているけど違和感なく書けた。


「書けるよ! 凄い! じゃあ、文章は……[私の名前はヴィヴィオラです]」


 ペンを持つ手が、この世界ではじめから暮らしていたように文字を書いていく。

 読める、書ける、話せる。

 めっちゃ、ラッキーじゃない!

 ほぼ、日本語しか話すことができない私としては、海外旅行へ行くよりも異世界転移の方が楽になっている、ラッキー!

 全てできない異世界転移なんて地獄だよね!

 ならば記憶ゼロでいいから、転生にしてくれと泣き叫ぶぐらい。

 ちなみに、日本語で書くこともできる。

 でも、無意識ではもうこのケルンジリア文字? で書いてしまう。

 もしかして、読めない、書けないって思いこんでいたのかもしれないのか……。

 応接室に本棚があった。

 今思えば、歴史書とか色々書いてあった。

 読めてたんじゃん。

 

「私、読めるみたいなので、これで会話しましょう!」


 副団長さまは、なぜか話すことができない。

 神斗君を訓練する人族の騎士さまは普通に話をしていたから、なにか理由があって話せない副団長さまを私につけたわけではなさそうだ。

 私は副団長さまにノートとペンを渡し、自分の椅子を持ち上げた。

 ふぬーーーーーー!!

 おもーーい、この椅子なんて重さだ。

 何で出来てるんだ!

 副団長さまはスッと立ち上がり、軽々と椅子を運んでくれた。

 魔人族ってすごい、いや男性だからか?

 

「ありがとうございます。あと隣、失礼します」


 これで、この世界の事を知ることができる!

 

「えぇっと 今一番知りたいこととしては魔王討伐っていつ行くのですか?」


 まずは、城を出る日にちが知りたい。

 討伐の際に、迷子のように行方をくらましたら自然かなぁと思ったのだけなんだけどね。

 

[私はまだ、いつ出立するか聞いていません。ですが、数か月後ぐらい先ではないでしょうか 多分私も付き添うはずですので安心してください]


 なるほど……数か月もある、数か月しかない。

 そして、副団長さまもついてくると。

 遠征中に逃げれるのか不安になってきたぞ……、この副団長さまから逃げれるのか?

 逃げたら、的が木っ端みじんになったみたいに私もならない?

 木っ端みじんって二回も味わうものじゃないよね。

 次に城の外を軽く見てみたい。

 

「城の外、この世界の町とか見に行けますか?」


[多分、無理だと思います。許可が取れたとしてもこの国は魔人族には少し優しくないので不快な思いをするかもしれませんのでおすすめはしません]


「そうなんですね。でも行ってみたいのでその時は付き添いお願いしますね」


 異世界の町を純粋に見たいというのと逃走するにはやはり見ることが重要だもの。

 なんとかして、説得できるといいんだけど。

 ちなみに私がいる別館の周りは森が広がっていて、城下がどんなものか見ることができない。

 紅茶に手をのばし、マカロンを口に放り込む。

 最後に副団長さまの名前を教えてもらった。

 

 [ロング]

 

 ロング副団長はノートとペンを片手に立ち上がった。

 もう、ティータイムの時間が終わりなんだろう。

 筆談していると時間が過ぎるのが早く感じた。

 ロング副団長は手を差し出した。

 その大きな手に自分の手を重ねる。

 今日も紳士なロング副団長は素敵である。

 

 ロング副団長は漆黒の艶髪をもち、褐色の肌と丸めの耳、そして金色の目をした魔人族だった。

 耳の形をみるに私は猫耳よりも小さく丸めの耳は、黒豹なのかな。

 彼はしゃべれないがとてもとーーっても優しい。

 10時と15時のお茶の時間には必ずエスコートしてくれるし、終われば部屋まで見送ってくれる。

 監視も兼ねているのだろうけど。

 いつもお別れのキスを手の甲にしてくれる。

 軽度のスキンシップがあるのは、異世界なのか獣の特性なのか?

 貴族のマナーはわからない。

 でも、第5王子に抱いた嫌な思いもロング副団長にはおきない。

 不思議だ……。

 恥ずかしいけどね。

 この居心地の悪い城の中での癒しは、ロング副団長とリーナさんと神斗君である。

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