第39話 武器準備ヨーシ!

 武器屋の多くは冒険者ギルドの近くにあった。

 その中で比較的大きな一軒の店のドアを開けて中を覗くと、武器屋のおやじさんは暇そうに剣を磨いていた。

 武器屋が忙しいのは朝一と夕方遅くの時間帯らしく、マントを着たガタイの良い男と小さめの女が、武器を求めて店に入ってくると、おやじさんの目が輝いた。


「ウィル、私30枚の金貨あるんですけど、どれか買えます?」


 出来れば、金貨9枚ほどだと嬉しい。

 樽の中に無造作に詰め込まれた剣や槍。

 壁に立てかけられた大剣。

 買取も行っているのか、誰かの使い古した剣もたくさんあった。

 城の武器庫よりも煩雑に置かれており、ワクワクする。

 物価も商品価値もわからないので、そっと耳打ちしながらバッグから金貨を出した。

 

「出さなくていいですよ。あとでお金について教えましょう」

「いや、お金あるから使いたいのに」

「いつか必要な時のためにとっておきましょう、ね」


 もう! 「ね」じゃない、それが今じゃない!

 ウィルは店内をザッと見渡し、おやじさんに欲しいものを伝えた。

 

「弓とダガーを見せてもらいたい。使うのは彼女」

「手のひらを見せてくれ」


 おやじさんは私と私の手をじっくりと見つめた後、店奥に下がっていった。

 数分後、おやじさんは、両腕に武器を抱えて戻ってきた。


「ここら辺りが合うんじゃないか」


 おやじさんは自信満々に言いながら、数本の弓とシンプルなダガーをカウンターの上に並べた。


「こっちの弓と違うの?」


 私は壁に飾ってある見事な弓を指さして尋ねた。

 その弓には特別な何かがあるように思えた。


「そっちは、もうお飾りだよ。とあるエルフが使っていた1本だ。国のお偉いさんが売れ売れってうるさくてな」

「サリアの弓ですね」

「サリア?」


 有名な冒険者なんだろうか?


「レンギア王国の初代国王を振ったエルフの女性だよ。まぁ、俺だって振るわな」

「へぇ~、ろくでもなさそうな話なのはわかった」


 国王を振ったエルフ女性の使用していた弓を欲しがるって、意味わからないなぁ。

 エルフって魔人族だし、買い取って、燃やしたいのかな?


「国王に献上するんですよ」

「何考えているのかわかったの?」

「まぁ、なんとなくですが。国王が死ぬその瞬間まで求めていた女性ですからね」

「あれ? 少しロマンティック?」


 ウィルとおやじさんの顔を見る限り、ロマンティックではないらしい。


「あの弓はな、いいものではあったけどもう実用はできないほど朽ちているのさ。それが見抜けないのを見るとお嬢ちゃんは魔人族だけど思った通り戦闘はからっきしな感じだな」

「魔人族ってバレてるじゃん……」

「まぁ、そんなデカイ兄ちゃんは人族であんまり見ないからな」

「やっぱり、ウィルでばれてるじゃん」

「それと、お嬢ちゃんの目の色。そんな綺麗な色は見たことがないよ。はじめ魔物だろうかと思ったよ」

「魔物ーー!」


 やはり、髪色だけでなく目の色もこの世界にはないみたい。

 虎さま、なんでこんなに馴染めない姿に変えたの……。


「まぁ、じっと見ないとばれないと思いますよ、ヴィヴィ」

「本当に?」

「……兄ちゃん、本当にそう思ってるのか?」


 おやじさんがため息つきながら、ホレと追加で矢のサンプルを出す。

 弓は材質、重さ、しなりと色々な要素があり、同じように作られていても1本1本に癖があるみたいだ。

 一番しっくりするものを探すんだけど、城で使っていた弓と同じバランスのものを求めちゃった。

 私は城での訓練の際に使用していたものと同様のしなりが良い2本を選び、あとはウィルに任せることにした。


「武器はもう少し上達したらオリジナルで作りましょう」


 矢も、オリジナルで作成できるそうだ。

 矢尻の鋭さ、矢軸のしなやかさ、そして矢羽の色合いまでも、すべて自分好みに仕上げられるらしい。

 でも、矢って消耗品じゃない?

 今回は汎用品を購入したけれど、これからも汎用品で十分な気がする。


「一番重要な事は、矢に刻印をすることです」

「刻印?」

「えぇ、魔法刻印をします。ほとんどのアーチャーはしませんが、何に巻き込まれるかわかりませんのでしたほうがよいでしょう」

「消耗品に金をかけたくないから、しないんだけどな。誰がその矢を最後に射ったかわかるって魔法だ。お嬢ちゃんの矢が盗まれてお偉いさまの暗殺に使われたら、一発でーーヒユッ!」


 おやじさんは、首を切る動作をしてみせた。

 もう、首切りは勘弁してほしい!!


「ヒィェ! 次、矢を作るときは絶対にオリジナルにする! もちろん、刻印も」

「是非、うちで頼んでくれよ。ジゼニアがこの1年この国に滞在しているからな。ドワーフが矢尻、エルフが軸と羽。いいものだろう?」

「ジゼニア?」

「えぇ、キャラバン・ジゼニアの事です」

「そんなことも知らんのか? 移動国家だな。領土は持たず。商を主に生業としている国だな」


 知らんのよね! そんなこと!

 この世界の事、まったく教えてもらってないんだもん。

 魔王討伐を笠に、大陸統一とかいっていたけど他の国家の事なんてなーんにも教えてもらってない。

 ウィルは、ふむと少し考えている。

 そして、口を開いた。


「今、ジゼニアはどの辺りにいますか?」

「あーそうだな、キリス伯爵領だな。次の移動はもっと離れるって聞いたな。この国にいるのもあと3か月ぐらいだったかな」

「なるほど。ありがとうございます」


 最終的に選んだのは、飾り彫りが少ないシンプルな弓と矢筒、矢20本、そして無駄のないシンプルなダガー。


「私の武器! キャッホー!」


 これでこの世界を生きていくんだ!

 ウィルは優しく微笑みながら、私の姿を見守っている。


「兄ちゃん、お嬢ちゃんに武器持たせて本当に大丈夫かい?」


 おやじさん、聞こえてるぞ。

 ウィルがまたも不思議リュックに購入武器を入れそうになったので、それを阻止して、すぐに店で装備させてもらうことにした。

 鏡に映る冒険者っぽい自分の姿にテンションが上がる。

 最後に、おやじさんにお礼を言ってから、店を後にした。



ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー



 とっぷりと陽が沈み、1回の鐘の音が鳴り終わった頃にようやく下着を受け取ることができ、買い物がやっと終わった。

 20時になると、帰宅を急ぐ平民もまばらになり、道行く人は冒険者ばかりになってきた。

 大通りを歩いていると、時折警備隊士とすれ違うことがあった。

 フードを深めにかぶっている2人組なんて怪しさ満点なのに、誰一人声をかけてこない。

 と思っていたら、冒険者の10人に1人はフードを被っていることに気づいた。

 警備隊士は王様が亡くなった事をしらないかのように普通に町の店や路地を見回って、時には冒険者たちと歓談しながら歩いている。

 王様が亡くなったら、国をあげて喪に服すとかありそうなのにな。

 城は今、どんな様子なんだろう。

 よくあるミステリー小説の家元が亡くなったあとの遺産相続みたいな駆け引きが城で行われているのかと思うと、ちょっと見てみたい気がする。

 数人いた王子の中で、誰が新しい国王になるんだろうか?

 私もウィルと同じで、第1王子が国王になるんじゃないかと思う。

 どうでもいいけどさ。

 それより、夕食が楽しみだ。

 今日は宿の1階にある食堂で夕食を食べるらしい。

 

「ウィル、今日の夕食って何かな!」

「食欲が出てきてよかったです。あの宿の名物料理はファイヤーリザードのワイン煮ですね」

「……火トカゲかぁ」


 ここに来て、爬虫類みたいな名前の食べ物を口にするのかぁ。

 カナヘビみたいなのを想像しちゃうからだめなんだ。

 どちらかと言えば、恐竜みたいなやつだろう、そうに違いない。

 

「そのファイヤーリザードって、どんな生き物ですか?」

「うーん、そうですね。体長50センチぐらいで、火属性のリザードです。火を吐くんですよ。スライム討伐の時にアッジが討伐訓練していたリザードの上位版ですね」

「あの、自慢していたリザードの上位版か……」

「あとはリザード同様、四足歩行。頭が悪いので、火を吐きながら突進してきます。それを避けると森に引火するので、倒すのが面倒くさいですね」


 ウィルは本当に面倒くさそうに言ったので、本当に厄介なやつなんだろう。

 生息地は、いつも焼け森になってしまうそうだ。

 焼け森の範囲を増やさないように、生息地域を広げないようにと、討伐依頼が頻繁にあるらしい。


「それで、倒すときはどうやるの?」

「普通に倒すか、土をかぶせて上から剣で刺します。ただ、数が多いんですよね」


 ふふふ。

 面倒くさそうに剣で刺すウィルの姿を思い浮かべたら、なんだか面白い。


「食べるの楽しみ!」


 宿へ戻る足取りが軽くなった。

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