引退配信は365日後! 配信者はリスナーの力を(ちょっとだけ)借りて冒険します
ヴィオレッタvioletta
1ー3話 白い世界 虎さまと配信者
第1話 ヴィヴィオラは配信者です
「今日もご視聴ありがとう 次回の配信は……そうだな、雑談でもしようね! じゃあ、またねぇ! バイバイにーにー!」
遮光カーテンによって陽の光が妨げられた暗い部屋、モニターと虹色に輝くパソコンやデバイスの明かりが顔を照らしている。
一呼吸置いたのち、配信をOFFにクリックしてマイクをミュートに、そして誰にでもなく呟いた。
「今日もおつかれ」
ふぅ、腰が凝ったなぁ、4時間も椅子に座りっぱなしだもの。
手を天井に伸ばして片方手首をを掴みグググッと背伸びをする。
そして、すぐさまゲーミングチェアから立ちあがった。
私の名前は桜子。
会社員の傍ら、
リアルな姿ではなく猫耳女性のバーチャルな姿、わかりやすく表すとアニメキャラクターのような動くイラスト、アバターで配信活動中だ。
活動場所のyouLIVE-siteとは動画投稿、配信、視聴、ショッピング、SNSなど一括で楽しめる配信総時間世界一という記録をだしている人気サイト。
残念ながら私は人気配信者でないんだよね。
今のご時世、配信はやる気があれば誰でもできる人気職業なので、日本だけでも配信者は10万人ほどいるから仕方がない。
逆に10万人もいるのに、その中から私を見つけてくれるなんて凄いことよね。
そんなリスナーさん達がいるから配信を続けてられる。
誇れることは3年の配信歴を持っている中堅ということだけなんだけど、……配信者の職業平均寿命は1年と考えると凄いことなんだ。
でも、リスナー人数は鳴かず飛ばずなので配信は趣味の延長となっている。
配信業を専業なんて夢のまた夢とちゃんと解っている。
いつも配信が終わった後はのんびりと次遊ぶゲームやら、次回のサムネイル=動画・配信のトップ画像、本で言ういわゆる表紙みたいなものを作成して過ごしている。
でも、今日の配信後は急がなくてはいけない事があるんだ。
「さぁ、行こうか! 久しぶりの甘いものゲットしに」
コンビニエンスストアのラーソン99周年記念に発売された記念商品の一つ、99パーセント
甘いお菓子をたくさん作ってくれたお母さんが亡くなってから、お菓子を食べる気がおきなかったのに。なぜかSNSで流れてきたPR動画で「食べないと」と思ってしまった。
パソコンデスクの時計を見やる。
「大丈夫! 入荷時間はあと10分後」
私はパーカーを羽織り、スマートフォンと財布だけを握りしめて颯爽と部屋を飛び出した。
ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー
「はぁ、はぁ、はぁ、たまには運動しないと……ね……」
息が上がって苦しい。
多分、酸素不足に陥ったのか気持ち悪く、くらくらする。
最近まったく運動していなかったのに、ここにきての全力ダッシュは辛かった。
ラーソンに無事に着いたはいいけど、産まれたての小鹿のように膝がガクガクするのが止まらない。
ラーソン99周年記念販売に間に合ったよね?
スマートフォンをチラッと見て時間に間に合ったことにホッとした。
「ラーソン本部に確認したところ14時前に入荷準備らしい……」
ラーソン本部にさらに確認したところシフォンケーキは1店舗4つ入荷なはずなので、多分大丈夫はず、私も一つは買えるはず。
この記念販売の中で一番人気は、ラーソン自慢のからあげ箱のあげ底を99パーセント
みんなそっちを狙ってるに違いない。
ちなみに味はセレブレーション味という謎の味付けである。
セレブレーション味=祝賀味…どんな味なんだろう?
一足早く食べたPRを受け持った配信者達の感想はハジケルだそうで?
単純にジューシーな鶏肉ではなくハジケル鶏肉。
うーん、食べてみたいようなそうでないような。
それはそうと私はシフォンケーキ狙いなので、今か今かと冷蔵ケースの近くで立って待つことにした。
暫くすると、ラーソンの店員が冷蔵ケースに並べ入れるためにシフォンケーキが入ったパレットらしき物をもって歩いてくるのが見えた。
やっと来た!
待ってたんだよぉ。
品補充、レジ打ちなど忙しいランチ時間のあとだから疲れているんだろうなぁ。
のろのろと歩く30代ぐらいの店員が待ち遠しくてたまらない。
「ごめーん、どいてくれます?」
突然、声をかけられたと思ったら後からきた女子高校生が、自分を突き飛ばした。
実際はぶつかっただけの可能性もある。
えっ? 何? と思った次の瞬間目の前には床が近づいてーーーーベチン。
「いっったぁあ!」
とっさに手をついたけど、床についた手から衝撃がズーンと手首の骨に伝わる。
ダッシュで疲れたフラフラな足は耐え切れず、よろけて倒れてしまったので手首にかなりの負荷がかかったみたい。
汚れた床に顔を打ち付けなくてセーフ。
イヤイヤ、ちゃうちゃう。
誰なの!? と床から視線を上にあげた。
「ああぁ、すいません。大丈夫ですか? ーーミカ! なにやってるんだよ」
親切な男子高校生が手を差し伸べてくれた。
え? この男子高校生がぶつかったの? と思いきやミカって子かぁ。
床から立ち上がらしてくれ、そしてペコペコと頭を下げて謝ってくれてる。
彼が良い子なので心情的に大丈夫じゃなかったけど、ついつい自然と口から「大丈夫です」と、伝える途中に低音ボイスの女子高校生が口をひらいた。
「何ってさ。シフォンケーキ欲しいんだもん。ねぇ、ミカ」
ミカって呼ばれた子の横に立っている女子高校生がケラケラと笑いながら悪気もなく答える。
「ん? 何かあった?」
「甘いもの食べる歳じゃないでしょ? そんな所に立っているのが悪いんだよ。お・ば・さ・ん。」
ミカと呼ばれた女子高校生は、スマートフォンをいじるのに一生懸命なのかこちらをチラリとも見ない。
低音ボイス女子高校生はさらに性格の悪い言葉を吐いた。
やだ、何? この子達、感じ悪い。
それに! まだ! 25歳なんですけどぉ?
横に立っている助けてくれた男子高校生もドン引きしてるじゃない。
君たち、友達? 友達なんだよね? 名前呼んでたしーーふぁっ!?
思い巡らしていたら、目の前で店員の抱えたパレットから2人の女子高生がシフォンケーキを4個持ち上げようとする。
「えっ……嘘! 4個しか入荷しないのに!」
「早い者勝ちに決まってるじゃん」
冷蔵ケースに並べてもいないのに早い者勝ちとは!
酷いよ! 私も欲しいんだけど! 1個でいいからと手を伸ばした瞬間だった。
女子高校生の後ろのガラス張りの壁が、カッと白んだ。
とてつもない衝撃波と共に。
「うわぁ! 眩しぃぃぃ! あつぅぅぅ……」
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