第2話 木端微塵にされたようです

「うわぁ! 眩しぃぃぃ! あつぅぅぅ……、……?、…………??」


 目を閉じていても瞼の裏からもわかる強烈な光ーーが和らいできた。

 そっと目を開く。

 ……。

 …………。

 ………………えっと、白いな……。

 私は目をぱちぱちと瞬きした。

 確かコンビニエンスストアにいたはずなんだけどな。

 目の前には素敵な庭園が広がっている。

 だが、花も生垣も噴水も芝生も東屋も、何もかもすべてが真珠のように温かみのある白くて不思議な場所だった。

 あとデカイ。

 一つ一つが大きい。

 椅子も座るのによじ登ることもできなさそうな大きさだ。


「誰の椅子だ!」


 つっこみもむなしい。


「それにしても、ここは……どこなんだろう? 私の体はある……な」


 両手でペタペタと頭、顔から上半身まで一通りさわって確認をした。

 ちょっと頬もつねってみて感覚があることにホッとし、目線を下に向けて足があることも視認した。


「生きている? んん? 死んでいる?」


 白い、私の肌が。

 ここにある白い世界のものと同じ色をしている。

 それにしても、先ほどの光はなんだったんだろうか?

 閃光といえばいいのか、あまりにも強い光。

 目の前にいたあの女子高校生や冷蔵ケース、雑誌ラックなどの物すべてが、一瞬にして見えなくなるほどの強烈な光。

 それと……爆風なのか熱風なのかが吹き荒れた……ような。

 初めての経験でわからない、これが正しい感想。


「じゃあ、なんかわからないけど死んでしまって天国なのかな? うわぁ、死んでしまったかぁ。う~ん……」


 痛みは感じなくてよかった。

 一瞬、熱は感じたけどね。

 やっぱり死んだと考えてしまう要因はこの白い世界。

 どう考えても現実的な場所じゃないんだもの。

 うん。

 ……。

 …………。

 ………………もうそろそろ、声がかかるんじゃない?

 ……………………神様の前へ天使が連れて行ってくれるとか?

 …………………………もしかして私、忘れられてるんじゃないよね?

 ずっとこの場所で一人なんておかしくなりそうと思うと同時に声を張り上げた。


「あ、あのー! だ、誰かぁー! いませんかー!! すいませーん!!!」



ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー



 目の前の噴水の水も白いなぁ。


 「はぁ、何もかもまっしろ」


 どれだけの時間がたったんだろう。

 しばらく、助けを求めながらこの庭園を歩いていたけど、動いているものは噴水の音のしない水だけ。

 人もいない、動物もいない、ない、ない、ない!


「どーしよう」


 白い芝生の上に座って葉の先を手のひらでクルクルと撫でていた。

 その時、スッと暗くなった。

 影が差したのにびっくりして顔をあげると黄金の毛色の虎がそこにいた。


「ぎゃぁぁぁぁぁ!」

「お待たせしてーー」

「トラっ! 虎! えっ虎? とらぁ……? ……人? いや虎だわ! でっかっ……」


 普通の動物園でみるような虎ではなかった。

 人間のように二本の足で立っている虎だ。

 片肩から足首まで届く長いたっぷりの白い布から作られているドレープを、腰下のベルトで締めているだけの服を着ている。


 「もふもふだぁ~」

 「モフモフですか?」


 虎の黄金の毛皮よりも薄い金色だがキロッっとこっちを鋭く見る。

 おっと……心の声が漏れてた。

 危うくクンカクンカしたいなんて言うところだった。

 あの毛皮の触り心地はどうなんだろう?

 あぁー、うぅん、今はそれどころでない。

 私の身長が160センチなんだけど、ざっと20メートルほどの身長はありそう。

 この虎は、多分、待ちに待った神様天使様に違いない。


「ようやく起きましたね。大丈夫ですか?……君で最後ですね」


 響く声が頭上から降り注いでくる。

 先ほどの鋭いから生暖かい目でみてたはずが、今はオロオロとした目に変化しているのと感じるのは気のせいだよね。

 視界がにじんでいる事に気づいた。


「あぁ、申し訳ない。泣かないでください。ここには大勢の人がいたのですが、他の人が起こしても君はまったく起きなくて……」


 あぁ、私、泣いていたんだ。

 理解すると「う……ぅっ……」と嗚咽もでてくる。


「なん、か、ホッと、したみたいでぇ。うぅ……最、後?」


 周りを見回してみても私とこの虎しかいない。

 だけど最後って言うことは、他の人がいたのかな。

 渡されたバカでかいハンカチと思われる布で涙拭き、思いっきり鼻をズビィィっとかむ。

 

「それにしても、あまり驚かないのですね、この姿に」

「えぇ? 姿ですか? まぁ、でも、少しは驚きました! だって、だって、現実にはいませんから!」


 20メートル上に顔があるんだもの、震える声でも頑張って大声を張る。

 私は、バーチャルな猫耳女性・猫獣人の動くイラスト、アバターで配信していた。

 顔が獣な人間、もしくは獣そのものな姿、可愛い動物、実際にいないエルフやヴァンパイアなどファンタジーな容姿、エイリアンなど千差万別生りたい姿になれる配信業界にいたので慣れているといえば慣れてるのかな。

 今はVRとか没入型だとなおさら。

 虎はフムと目を細めている。

 笑っているのだろうか? 大きな猫みたい……。


「あ、あの、あなたは、神さまですか?」

「いいえ違いますよ。私は〖星の管理者〗です」

「星の管理者?」


 ちゃんと聞こえるので大声で話さなくてもいいと伝えてきた。

 大声過ぎたのかな? ごめんなさい。

 彼は、声からして男性だと思う。

 かなり身長が高く…じゃなくデカイ、ガッシリとした体躯をしている。


「私は〖ケルンジリア〗という星を管理しています」

「ケルンなんですか?」

「ケルンジリアです……」


 虎さまは少し悲しそうにいう。


「すいません。聞きなれない名前で……」

「いえ、大丈夫ですよ」


 虎さまは、外見は虎なので威圧的な感じもするけど、話し方はどこまでも丁寧で紳士だ。

 彼は、ケルンジリアという星の管理者らしい。

 なんとなく心の中で様付けで呼ぶことにする。

 神は別にいるし、神は基本的に星を生み出しては壊しているだけらしい。

 私の思っている神さまとは違うな!


「今回、私の星ケルンジリアで、人族が召喚の儀式を行いまして……。ここでは召喚された人にまぁ……なんというかお詫びをするような場所ですね」


 借りたハンカチを虎さまに返す。

 

「お詫びですか……わ、わ、わ! 何?」


 目の前に光の玉が現れてそれがつややかな光沢のある羊皮紙に変化した。

 驚きつつも反射神経でしっかりと手に持つ。

 そこにはびっしりと文字が書いてあった。

 文字は見知らぬ文字だけど読める。

 地球の文字でいうとルーン文字に近い。直線的な質実な字が並んでいる。

 その書かれている文字を見たら、かすかに光っている文字と暗くなっている文字がある。

 

「こちらから、なりたいジョブを選んでください」

「なりたいジョブ? あ~、職業の事ね」


 虎さまはうなずく。


「ケルンジリアでは、能力なしで生きるには辛い環境ですから、お詫びとして能力を付加させていただこうと」

「辛い環境……なるほど。勇者、聖者、聖女、拳聖、賢者、剣聖。光っているところは魔剣士、狂戦士、神官、商人、学者……どれだけあるの」


 ロールプレイングゲームの常連強ジョブを表す文字は、ほぼ明かりが消えて暗くなっている。その他の光っているジョブはざっと数十個あるね。


「申し訳ありませんが……暗くなっているところは選べません。影響力の強いジョブは世界に一人づつしか生まれさせれないのです」


 勇者100人という小説があった気もする。

 勇者100人で魔王を瞬殺して、最後は世界が廃れる話。

 船頭がたくさんいるのは良くない。


「なるほど~、確かに勇者が100人いたら困りますもんね、多分?」


 ここでジョブを選択してケルンジリアという星に召喚されるのかぁ。

 ゲームの中でよく見るジョブから察した。

 ケルンジリアという星は、ゲームや小説ででてくるファンタジー世界なんだろうね。

 星は管理者によっておおまかに進化の方向性を決めれるらしく、科学が発展した地球のような星は星の中でもまれだと。

 地球は他星のお手本になるほど完成度が高く素晴らしい星みたいで、今回は地球への恩返しの為の召喚らしい。

 地球優秀だね!

 でも、ケルンジリアの人族が地球に恩返しをする事、なぜそれが召喚に繋がるかわからない。


「ケルンジリアは、剣と魔法、魔物がいるごく普通の世界なので。最近アース……地球でよくある召喚ですからーー」

「え? いやいやいや。よくある召喚ってなんですか! あれは架空の話で物語の中だけでしょう? 確かに転生とか異世界とか小説多いですけど。ちょっと現実逃避の為の娯楽ですよ」


 虎さまは首をかしげる。

 おかしいな? とでも思っているみたいで少し可愛い。

 いや、可愛いな、じゃない。

 確かに、虎が首をかしげているのは可愛い。猫だったら最高なのに!

 違う、そこじゃない。

 平和を満喫している日本人の私が、実際そんな世界で生きていける?

 しかも、やりたいことをできている今の状況を捨てて。

 

「えっと……ちょっと考えたのですが、私、その星に行きたくないです」


 恐る恐る言ってみた。

 だって、最近ようやく配信者として配信が楽しくなってきたし、収益化したのをリスナーが喜んでくれた。

 もっと、配信活動したい!


「考えなくても、それが普通の感覚ですよね……」

「他の人はどうだったのですか?」

「私の星に行く4人はノリノリでジョブを選んで召喚されていきました」


 他の人達、チャレンジャーだね。

 なんか私が往生際が悪いみたい……。


「配信ができないなら行きません」


 せっかく毎日配信を楽しみにしてくれてるリスナーとのかかわりを消したくない。


「はいしんですか?」

「はい。私、配信者だったので」


 虎さまはすごい悩んでいる。


「困りましたね」

「元の場所に戻してくれるだけでもいいですから」

「それが、地球のあなたの身体は木端微塵になってしまったので」

「こっぱみじん……えっ!」


 この場所に来る前、確かに強烈な光と熱風を感じたけど。

 こっぱみじん……。

 木っ端みじん……。

 木端微塵って何!? 私の身体に何が起こってたの?

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