第3話 コネコネされるようです
「えぇ、あのラーソンというお店を中心に近隣のショッピングモ、モール? やらマンション? は、自称世直しテローリスト? に爆破されてしまったらしいです」
「へ? テロリスト?」
虎さまはなれない単語に戸惑いながら、簡単に説明してくれた。
そうか、テロリストとかマンションとかあんまりファンタジーでは、使わなさそうだもんね。
あくまでも自分の知っている王道ファンタジーではなんだけど。
私の住んでいたところは、政令指定都市ではあったけど、狙われるほどの何かがあるとは思えないほどの特徴のない市であった。
それなのに降って湧いた自称世直しテロリストである。
「テローリスト? が犯行声明を伝える前に、間違ってうっかり起爆したらしいとなって……いる……」
「なんか歯切れ悪くないです? 何か隠してます?」
やっぱり、テロリストって変だよ。
いや、そうでもないか。日本でも過去に何件かあったわけだから。
「……私は聞いただけなので……」
小さな声で「もっと穏便な方法かと思っていました」と虎さまは、申し訳なさそうにしている。
穏便? 何でこうなったか理由があるみたいな……
それにしてもおっちょこちょいのテロリストのせいでって!
爆弾の規模もバグっているじゃない。
核でも持ち込んだの?
爆破した後に電波ジャックして犯行予告したらしい。
テロ犯行予告した人は、電波ジャック中に仲間が間違って起爆してしまったと聞いて、目が泳いで情けない様子だったそうだ。
顔を赤く染めながら「今度はちゃんと間違いなく予告するんだからねっ」だってさ。
なにやってくれたんだ! いや犯行予告した人は悪くないか。
うーん、でも仲間なので同罪!
あの日は休日いうこともあり、ショッピングモールや周辺のマンションも含めたら数千人はいたんじゃない?
「他の人は? みんなここに?」
「はい、まずはここに集まっていただきました。その後、星に振り分けられました。私の星に来てもらうのは君を含めた5人です」
老若男女問わず異世界に召喚という名目で飛ばされたらしい。
赤ちゃんも? 嘘でしょ? 酷すぎる……。
「ちゃんと保護者となる人とセットにしてあります」
「うわぁ、私の思考読みましたね!」
「ちゃんと訂正しとこうと……ゴホン、あんまり私も召喚……は乗り気ではなくてですね。最後に残った君たちを押し付けられたわけです」
起きるのが遅くて……売れ残りってことね。
ともかく、そのまま生き返ることもそのまま消滅することもできないと説明をうけた。
やっぱり「他の星には行けるのに?」とつついたけど。苦笑いされた。
う~ん、それならば。
「二つ条件があります」
①配信活動は続けたい!
②ラッキー全振りで!
ラッキー全振りは最近していたゲームでのブームだ。
ラッキー全振りしたら、こんな不運に今後巻き込まれないでしょ!
これが許されないならここに居座ってやる。
強い意志で虎さまを見る。
深いため息を吐いた虎さまは、めんどくさそうに眼をつぶった。
「他の召喚者達も不満は表明してましたが、最終的には嬉々として転移していったのに。居座るって……」
「また私の思考を読みました!?」
虎さまは「ハハハ」と笑って流した。
「わかりました……基本的に要望は聞かなくてはいけないルールなので」
「え? そうなの? やった! 虎さま素敵!」
「虎さまって私の事ですか?」
私も「ハハハ」と笑って流す。名前、勝手に付けてたのバレたや。
ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー
〖ジョブ〗
話を聞くとジョブは、テンプレートのようなもので、勇者を選ぶと属性が自動的に光とか決まるらしい。
不満を言っている人たちもいたけど、渋々ジョブを選んで召喚されていったらしい。
同じ星に召喚される人たちは、ノリノリに選んだそうだけど。
召喚されたくない、配信したい、居座るなど、クレーマーみたいになっているの自覚ある。
ごめんなさい。
ところでそれぞれの星の人気ジョブは、勇者・聖女・剣聖・賢者とかオーソドックスで主人公的な強さを持っているジョブ。
確かにどうせなら「勇者様!我が国をお救いください!」ってされたいもんね。
あと生きるためには純粋に強さが自分の身を守るだろうし。
でも、私は嫌だな。
そんな責任があるジョブ。
「今回の召喚に目的とか使命とか……あるんです?」
「管理者としては、ないですよ」
管理者としてはない。
しかしながら、召喚した人達は目的はあるといったところだろうか。
虎さまは首を横に振った。
「そういうものはなく自由に生きてもらえばいいです」
「へぇ~、じゃあ、世界を見てみたい! 旅とかしても?」
「えぇ、大丈夫です。お好きに生きてください」
よかった! 怖い思いしなくてもいいみたい。
少し気が楽になった。
魔王とか悪者とか戦えって言われたら泣いちゃうよね。
虎さまが宙に向けて手をせわしなく動かしている。
私からは、体の前で手の平黒い肉球がフニフニ動いている、眼福。
何にも見えないけど……タッチパネルのシステムとかタブレットのようなものとかが、あるんだろうな。
よく異世界転生した小説や漫画ででてくるステータスを見る場面、かなりのオーバーテクノロジーよね。ご都合主義だけど、ぜひ虎さまの星にも導入していただきたい。
わかりやすい、見やすい、正義。
突然、カチリと音がした。
虎さまの身体がぽわっと光っている。
いや、元から黄金みたいな金糸の毛皮持ちさんだったので気のせいか。
すると、とても大きな虎の手が目の前に降りてきた。
ぷっくりとした黒い肉球が可愛い。
グッパッと手を開いて閉じてを繰り返したのち、ぐっと私をお尻から虎さまの胸元まで。
「うわぁゃぁ! 高いっ! 高いっ!」
水以外のすべてのもの、空気さえも時が止まっているような場所で、Gを感じるほどの加速で持ち上げた。
虎さまの胸元まで持ち上げられ、人形を触るかのごとく撫でまわしてくる。
「や、や、やめ!」
「……」
「んんふふぅ。本当にどうしたんですか?」
肉球の周りに生えているやわらかめの毛がちょっとくすぐったい。
「……あぁ、ごめんなさい。先に謝っておきます」
「何かありました?」
目を細めた虎さまはつぶやき何かを考えながら、ゴロゴロと喉を鳴らしている。
返事はかえってこない。
「ぷっ、ゴロゴロしてデカイ猫みたい……」
なんでこんなに機嫌が良いのだろう。
無理難題を吹っ掛けたのにと思っているとどことなく声がした。
「あらあら、優等生のあなたが悩んでいるみたいだから見に来たのに。そんな顔してーー。あたくしにはそんな顔見せたことがないのに妬いちゃうわ。…………まだ、あの事を怒っているの? あなた真面目過ぎてつまらないんだもの。仕方がないでしょ」
ウフフと笑う女性と対比して一瞬にして無表情になった虎さま。
目の前の虎さまとは違って人の姿。
真っ赤でふわふわのロングヘアーの妖艶な美女が突然現れた。
やはり、デカイ。
胸もバイーンとデカイ。
虎さまの首に腕を回しわざとらしく、そのバイーンとした胸を背中に押し付けていると思われる。
私から見えないけどね。
フワフワと浮いているけど人間の姿の管理者さんなのかな。
「なんのようです」
虎さまの明らかに低く不機嫌な声。
ボフッ
その美女を見せないようになのか、虎さまの胸元に優しく押さえつけられた。
胸毛ふっかふっか……猫……。
手の隙間から、二人の様子を伺う。
うーん、喧嘩した友達とか?
美女が虎さまの頬に顔を寄せてきた。
おっ、キスをするのか? ……元だか現だかわからないけど彼女や奥さんだ!
私はとっさに目をそらし小さい声で「私は空気です」と呪文を唱える。
気まずいので別の場所でしてくれませんかね?
巻き込まないで欲しいと思ったその時、虎さまは抱き着いてきた女性を突き放した。
多分、元の方ね……。
「相も変わらず面白くないわ。ふーん……そう。あたくしはあなたの中で女神なのに冷たいわね……」
「いつでもーー」
「そうかしら? あなたはできないわ」
一瞬、美女とバチッと目が合った気がしたけど気のせいか。
美女の姿はパッと消えた。
何しに来たの……あの人。
虎さまは少しいらだちが見えるし。
大勢の人と同じ行動して、さっさと召喚に応じていれば、わがまま言ったら虎さまのプライベートを見てしまった。
これは私のせいじゃないよね?
「「あの」」
言葉が重なった。
「あっ、虎さまどうぞお先に」
「えぇ、お見苦しい所を……彼女も管理者です。ざっくり同期みたいなものです」
「なるほどぉ」
私は大丈夫ですか?と言いたかっただけ。
私と虎さまはしばし、口を閉じた。
気まずさから心を無にして、虎さまの胸毛に包まれているうちに温かくなって眠くなってきた。
「あっかーん……、やわらかくて……、温かくて眠りそう……」
フッフッフッと笑われたけど、猫に抱かれるなんて猫好きには夢の時間だ。
あぁ、虎だった。
虎さまの機嫌が元に戻ったのは良かった。
少し時間がたったところで今度は私の身体がぽやっと光り始めた。
わわわ、綺麗。
「……君の要望はかなえました。た……だ、少し色々無理があって子を成すことができなくなってしまった」
「へ? 子を成す?」
「なんといえばいいのかーー。ちゃんと伝えるので時間をください」
虎さまは何言ってるんだ。
「さぁ、この鍵をお持ちなさい。どこでも回せば配信部屋が開きます」
虎さまの手にあった黄金色に輝く〖鍵〗。
私の手のひらにスーッと飛んできた時には十センチほどになっていた。虎さまの目と同じ色の黄色の宝石が埋め込まれている。
「あんなに大きかったのに 小さくなった不思議な鍵」
「あなたの記憶の中で必要そうな物は、揃えられてると思います」
「配信機材ですか?」
「えぇ、何に使うものかわかりませんが……、多く記憶にでてくるものが大切なものだと」
確かに間違っていない。
「もっと、高級機材を記憶に刻めばよかった! っていうのは冗談で。ここまでしてくれて、ありがとうございます」
私は冗談をいいつつ、虎さまにお礼を伝えた。
虎さまは、また頭を撫で、その流れで髪をスルスルとさわる。
髪を撫でるではなく触られるって恥ずかしい。
「ん?」
あれ、なんか違和感を感じた。
私って髪長かったっけ?
「さぁ、良い旅を。それから、君をーーーーーーーーーーーー」
最後に虎さまが何か言っていたけど、聞き取れなかったのは私の目が自然に、いや強制的に閉じたからだ。
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