第7話 呼び出されたようです

 歓迎パーティーという食事会が終わり部屋に戻った。

 ドレスを全てを脱ぎ、寝間着のロングワンピースに着替え、部屋に一つあるバルコニーに出てみる。

 日本は、春だった。

 桜も散り終わって葉桜になっていた。

 新しい環境に胸をワクワクさせている人が多い中、私はバクバクさせられてる。

 こちらにも季節はあるのだろうか?

 

「濃い一日だったなぁ。なんとか乗り切ったのかな?」


 月のようなものは見えないけど、満天の星空が広がっていて今にも掴めそうだ。


「配信してみようかな」


 首からかかっている鍵を握りしめた。

 う~ん、でも今じゃない気がする。

 初日から変な行動して、これ以上目をつけられるのもいけない。

 明日にしよう。

 もっといろんな情報を手に入れてリスナーさんに助言を貰おう。

 でも、今日はというか虎さまから得られた情報も足すと満足満足。


「はぁ、早く旅してみたいな」


 家のお金に余裕がなく旅といえば、修学旅行とかしか行ったことがなかった。

 社会人になってからは仕事が忙しく、旅をする事を忘れていた。

 この異世界に転移は、私にとってラッキーだったかも。

 日本で生きていく上で不安だったものを全て超える不安だからこそ、もういいや、旅しちゃおうってなった。

 他の日本人のみんなは、みんなで協力して強く生きていけるよね。

 その中には、魔人族の姿の私は多分入ることはできない。

 みんな、ワインの飲みすぎでフラフラしていたけど大丈夫かな?

 酔いたくなるのもわかる気がする。

 私は他の日本人のみんなとは違って特殊な立場、種族的に嫌われているという意味なんだけど、だからこそ、召喚目的がしっかりわからないうちは酔いに身を任せる気にはならなかった。


 コンコンとノックが部屋に響き渡る。

 ……なんだろう?

 バルコニーにから部屋に戻り、扉の前に立つ前に開いた。

 そこには顔色が悪いリーナさんが立っていた。


「ヴィヴィオラ様、お休みのところ申し訳ございません。少しお話があるとの事でして。ついてきていただけますでしょうか?」


 メイド長からの命令なんだろうか?

 申し訳なく話すリーナさんは、目線を下にして目を合わしてくれない。

 うむむむ、行きたくない!

 どうせ、ろくなことじゃないんでしょ。

 でも、ここで断るとリーナさんに迷惑がかかっちゃう。


「……はい。リーナさん他の人たちは?」

「それぞれ、個別でお話があります。ほっ、本当に申し訳ございません。私ではどうにもならなくて」


 えぇぇ、そんなに謝ることなの?

 しかも、個別……わぁ、嫌な予感がする。

 私だけ城を追い出されるとかありうる。

 願ってもないことだけどよく考えたら、今、無一文じゃない。

 うわん。どうしよう……。

 でも、断るすべはないし、おとなしくリーナさんについていくことにした。



ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー



 うーん、動かないな。

 豪華な扉の前に案内されたまま、リーナさんが固まってる。


「リ、リーナさん、大丈夫?」

「え!? はい。ヴィヴィオラ様、逃げましょう!」

「はい?」


 いずれ逃げるつもりではあるけど、今逃げてもどうやって生きていけばわからない。

 無一文で放り出された人って小説ではどうやってたっけ?

 ラッキー発動で助けてくれる人が来るのを待つしかない。

 やっぱ、不確定すぎる。


「リーナさん、落ち着いて……。そんな事したらリーナさんの責任になってしまうよ」

「わ、私はこの国から出ても大丈夫なので」


 メイド服を強く握りしめている。

 国を出るほど、そんな重大な話なの?

 こんな夜遅くに?

 リーナさんを落ち着かせて、部屋の主に会いに行くと伝えた。


 通された部屋は、私たちの部屋とはくらべもののならないほどの豪華さ。

 先ほどの歓迎パーティーの場所と同じくらいキラキラしている。

 この王国は裕福なのかな?

 全て黄金なのか金色で埋め尽くされていてかなり落ち着かないなこの部屋……。

 いつの間にかリーナさんは部屋にいない。

 リーナさん!?


「お呼びして悪かったね。まぁ、座って」


 ソファを指す。

 私はおずおずと指示された3人掛けのソファに座った。

 うーんとこの人は第五王子だったはず?

 王様と同じ赤色の髪に黒い目、ちょっと細身のイケメン風の30代ぐらいだろうか。

 王族の中では一番若かった気がする。

 なぜかその第五王子は隣に腰かけてきた。

 んんん!!??

 話し辛いんですけど!?


「今回の召喚なんだけどね。目的聞いてなかったよね?」


 第五王子は言いながら私の髪を触る。

 リーナさんに綺麗にしてもらった髪がぁ!

 ちょっと何? 最近、髪を触るのが流行っているの?

 特に知らない人から触られるのって気持ち悪い。

 触らないでと言いたい言葉を飲み込みつつ笑顔で話を促す。


「聞かされてません……でも、目的がなければ召喚なんてしないでしょうし」

「そうだね。この世界には魔王がいるんだ」

「魔王ですか?」


 うわぁ…魔王いるんだ、魔王倒すとか?

 いやだぁと素直に思う。

 でも、大陸統一の野望はどこへいった?


「そう、単純に魔王を倒してほしいだけなんだ。人族は魔人族には力ではかなわないのさ。そこで強力なスキルをもった人族を呼び出したんだ。君は――人族でなさそうだけどね」


 なるほど、ありきたりな王道召喚話だ。

 でも、魔物の王では無く、魔人族の王を魔王と呼んでいるようだ。


「魔王はどんな悪い事してるのですか?」

「うーん、特に……」


 この口ぶりは本当に渇望しているわけでもなく、自分たちで働かず、私達を戦わせて、でも自分たちの手柄としてこき使うつもりだ。

 よし、逃げよう。

 方針は決まった。

 すでに決まっていたのが マシマシで確定したといったところ。

 第五王子の侍従さんが、ワイングラスを目の前のテーブルに置く。

 そして、コックリとした深みのある赤ワインがグラスに注がれる。


「でも、君たち討伐とかしたくないでしょ?」

「え? えぇ、まぁ……?」


 うん?

 何をいいだすの?

 さぁ、どうぞとばかりに赤ワインを勧めてくる。

 それに今度はしっぽを撫で始めた。

 ふわぁぁぁ、キモイィィィ!

 ゾワゾワと背筋に何かが這いづるような感覚が走る。


「戦いたくないといえば、戦わなくていいのですか?」

「そうだね。僕の愛妾になれば、討伐に行かなくてもいいようにしてあげるよ。宝石もきれいな服もすべて満たしてあげる」


 はあぁぁぁ!?!?!? 愛妾!!

 本当に魔王なんかどうでもいいみたい。

 行かなくていいって困ってないじゃん!


「え、何をおっしゃっているか……」

「たまには、魔人族もいいだろう。身体が弱いと聞いてるから討伐・遠征にはきついだろう? 魔人族の君にとって、これほど良い案はないと思うけどね」


 ニヤニヤする王子の顔にパンチをしたい。

 私の腕をさすり上げながら、全身を見ながら舌なめずりする、このゲス王子。

 ちょっとイケメンだとしても無理じゃぁぁぁ。

 だが、ここは敵地(認定)食い気味に拒否した。


「わ、私はこの国……のために魔王討伐に出たいと思います!」


 言い終わると同時に立ち上がり、「では!」と礼をして部屋を飛び出した。

 これは、やばい召喚だわ。

 みんな大丈夫かな……。

 部屋の外に待機していたリーナさんを見るとホッとした。

 リーナさんは駆け寄ってくれて、何度も謝りながら自室まで案内してもらった。


 自室に入る前に応接室をチラッと見やった。

 ソファに座っている後ろ姿が見える。

 誰だろう?

 私は部屋に案内してくれたリーナさんにお礼を言って通路の先の応接室に向かった。

 そこにはカミト君がいた。

 ちょっとうつむきがちなのが気になる。


「大丈夫?」

「ミカ達が戻ってこないんです……」


 幼馴染のことが心配みたいだ。

 勇者ジョブをセレクトする子は、やはり主人公になりうる素質を備えているのかな?

 見捨てないとか、親しみやすいとか、顔がカッコイイとか、顔がちいさいとか、身長がたかいとか……、同い年だったらときめくんだけどな。


「まだ、話をしているんじゃないかな? もしかしたら部屋に先に戻って…」

「いませんでした」

「あっ、そうなのね……」


 ああ、確認済みなのね、そこは。

 気休めかも知れないけど「待てば戻ってくるよ、ねっ」となだめる。

 ミカが帰ってくるのを待つ間、カミト君が呼び出された時、どんな話をされたのかを聞いてみたが内容はほぼ同じ。


「王妃様でした……」

「王妃様って、あの真っ赤な宝石まみれの……おばあ……女性だよね?」


 この国の王族の頭の中はピンクに染まっているのか?

 王妃の周りには、ほぼ全裸の男性が3人ほど侍っていたらしい。

 そのメンバーに入れと……。


「うわ……なんてものを見せられたの……」


 こんないたいけな若者に70代の王妃。

 こっちもキモイわ。

 70代とは勝手にそう思っただけなんだけど。

 ほぼ全裸の男性が人間ソファをして、その上で寝間着の王妃様が寝そべっていたと聞いて、あれ? 第五王子まともじゃない? って勘違いしちゃいそうになる。


「ここにいるってことはカミト君も断ったんだね」


 カミト君はうなずく。


「私は、う~ん、アブノーマル王妃様の話をカミト君から聞いたら少し冷静になれたかも。こっちの世界は愛妾が普通かもしれない」

「いや、変な風に染まらないでくださいよ」


 彼は少し考えて口を開いた。


「ん? どうしたの?」

「神斗です、望月神斗です。自己紹介してませんでしたね」


 そういえば、勝手に名前呼んでた。

 カミト君はソファから立ち上がり、近くの執務デスクからメモとペンを持ってきて、漢字で名前を書いてくれる。


「俺の名前です」

「素敵な名前だね」


 しっかりしている子だ。


「えぇぇっと、私の名前はーさくら……いや、ヴィヴィオラです。よろしくね、えへへ」


 どっちの名前がいいのかわからなくて困ってしまった。

 一瞬ほんわかした空気がただよった。

 でも、すぐに元の悲壮感ただよう空気に戻る。

 まだ戻ってきてない人達は3人、ミカ・マナミ・ツトムさん。

 神斗君と話始めてから15分は立っている。

 誰か来たと思ったら、気が利くリーナさんが温かい飲み物を持ってきてくれた。

 リーナさんは「申し訳ございません」と神斗君にも何度も謝っている。


「リーナさんが悪いわけでもないんだし、もう大丈夫。それに選択権はあったんだよ? 魔人族の私でもあったんだもん」

「そうです。それにあの二人は嫌な事とかすぐに口に出すんで。リーナさんは気にしないでください」


 リーナさんは、何か用事があればいつでも呼んでくださいと言いながら下がっていった。

 それにしても誰も帰ってくる気配がないよ。

 いや、まだ夜も更けてないし、22時過ぎってところ。

 カチカチと柱時計が刻む音が響く。

 しかし、その夜、私と神斗君以外は戻ってこなかった。

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