第8話 訓練を始めるようです
《レンギア王国2日目ーケルンジリア2日目ー》
長い夜があけた……。
応接室の空気は少しひんやりしているけど、ブランケットがかけられていたから、私は暖かかった。
明け方、知らない間に私は寝ちゃったらしい。
リーナさんか神斗君のどちらかが、ブランケットをかけてくれたみたい。
神斗君は一睡も寝ていないみたいな顔をしている。
「俺も少しは寝ましたよ」
「召喚されて、色々あったから寝ちゃうよね! ブランケットありがとう」
「うん、こちらこそ、一緒に居てくれてありがとうございます」
年齢的先輩なのに……先に寝ちゃうなんて、2時までは記憶があるんだけど。
身体はソファで寝たにのまったくダメージがない。
種族的なものなのかな? ビーストだったっけ。
猫だし、どこでも寝れる身体なのかも。
他の日本人の話題をお互い出さず、他愛もない会話をしていたら朝食が運ばれてきた。
どう見ても2人分だ。
神斗君と私の朝食だろうね。
神斗君のメイドさんに「他の人は?」と聞いてもお答えできませんの一言だけ。
冷たい!
でも、これが本来の関係かも、リーナさんが優しすぎるだけで。
そのリーナさんにも聞いたけど、「メイド長に聞いたのですが、教えてもらえなかったんです」と小声で伝えてくれた。
ワインの飲みすぎで判断がつかないところを、不安を煽られて応じてしまった、ありえる話。
王族の人に「戦わなくても良い」って言われたらねぇ、9割はうなずくんじゃない?
私が頷かなかったのは、虎さまとの記憶があるから、心の準備が程よくできているから。
どうせ、逃げるし!!
「今日から何があるかわからないから、しっかり食べよう?」
「そうですね、ヴィヴィオラさん」
神斗君はどこかであの二人なら仕方がないと思っていそうだった。
それでも、断って帰ってきてくれる事を願っていたんだろう。
私はサッとナイフとフォークを構える。
目の前に置いてある皿には、ステーキ!!
「おーいしい!」
朝から贅沢にもステーキが出てくるとは、肉好きの私のささやかな夢が叶った。
肉厚はちょっと薄めだけどちゃんとミディアムに焼いてある。
赤身肉なのでそんなにこってりしてないのも朝にもってこいじゃない!
添えてあるのはアスパラガスとマッシュポテト。
少し硬めのパン。
フルーツ
睡眠不足の朝なのに気持ち的にも胃もたれせずに食べれるのはビーストだからだよね。
ちょっと神斗君にジィーっと見られている気もしたけど気にしないとこう。
昨日、第五王子の提案を断った事と自分の種族の事でどんな扱いをされるかと思ったけどまだ客人として扱ってくれるらしい。
食事が終わって手持無沙汰となったので部屋に戻ろうとした時、一人の男性が応接室に入ってきた。
この人は宰相だったかな。
遅れて後ろから二人の男性が入ってきて宰相の後ろにたった。
「お二方、おはようございます。どうですかな? よく眠れましたかな?」
「えぇ、お陰様で……」
……あまりよく眠ってません!
「あの、ミカとマナミと男の人はどこへ?」
「それは、あなた方の方が分かっているのでは?」
宰相は少し、ヘラっとした顔で言う。
何! この人!
「いうなれば、彼女らは護衛のお仕事ですな。ですから訓練も過ごす場所も別々になります。心配ですかな? おや? 先ほど彼女たちと会いましたが、彼女たちからは、あなた方の事を聞かれなかったものですから。知り合いではないかと思ってましたよ」
「……ハァ……もう、いいや……」
「神斗君大丈夫? ……彼女達に護衛させるんですか?」
「まぁ、せっかくのスキル持ちですので護衛任務しても罰があたらんでしょう。わははは」
宰相は「役に立ってもらわないと」と後ろに控えている片方の男性に話しかけた。
神斗君は唇を噛む。
宰相の話を鵜呑みにするわけではないけど、こっちは心配して徹夜していたというのに――少し寝たけどね。
「早速ですが、今日から魔王討伐の為の訓練をしていただきます」
早速過ぎるな、おい!
宰相の後ろの二人は、一人は人族の騎士、もう一人は魔人族の騎士と紹介された。
一人ひとりに騎士という訓練官が付くみたい。
もちろん、私には魔人族の騎士。
私と同じ魔人族でビースト!
身長高いな。
黒髪に褐色の肌、金色の目、そして、黒い少し小さめな丸い耳がついている!
会いたかった! 同じ魔人族の人に!
ここに来て胸の鼓動が高鳴る。
やっぱり、みんなと姿が違うことに寂しさを感じていたみたい。
初めてディ〇ニーのミッ〇ーを見た子供みたいに、目をキラキラしていたように思う。
落ち着け、私!
それにしても訓練かぁ。
第五王子から逃げるためとはいえ、自ら魔王討伐すると言ったので訓練は避けられない。
もちろん、今のところ本気で魔王討伐なんてする気はない。
本当に魔王なんて存在してるんだろうか?
王族達の言葉なんて信じられないからね。
それにジョブ空欄だし、戦えるのか不安。
戦わずに逃げ出すにもこの世界の事わからないと辛いのでこの人からも情報を得ようじゃないか。
神斗君の方をチラッと見る。
彼は美少年ならぬ、美青年なんだけど、今は徹夜明けと不信感まみれの顔になってますね。
ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー
動きやすい服装に着替えている。
またここでも、尻尾の穴をあけるのに時間がかかった。
仕方がないこととはいえリーナさんには苦労を掛けてる。
まだ、服の穴に自分のしっぽを通すのに慣れない。
それにしてもリーナさんや他の人も私の首にかかっている鍵にはふれない。
見えていないのかな?
今日の夜にでも鍵を使ってみよう。
「あっ、そうだ。昨日お借りしていたアクセサリーでピアスがまだつけたままなのでお返ししますね」
リーナさんに伝える。
歓迎パーティーから戻ってきて着替えを手伝っている時、ネックレスを外してくれたのにピアスは外し忘れていたみたい。
「えぇ……と。そちらは国王陛下からの下賜品でございまして、常につけておいてほしいとの事です」
「こんな高そうなものを? ルビーかな?」
「多分、そうだと思うのですが……。うーん、ルビーだと思うのですが、魔石? いや、ルビー?」
なんか、引っかかるものがあるのか、悩んでいる。
真っ赤なルビーのような石がついたピアス。
素敵な色ではあると思うのだけど、王様や王族、特に第五王子の髪色を思い出すのでケチがついた。
そうだ、逃亡資金にしよう、そうと思うとありがたく感じる。
着替えて自室からでると魔人族の騎士さまが待っていた。
目を細めて笑顔でいてくれてる。
この世界にきて、こんなに手放しで喜んでくれたのは彼が初めてで涙がでちゃう、惚れちゃう。
多分なんだけど? 彼も人族しかいないこの城では肩身の狭い思いをしているから、嬉しいのだろうか?
手を目の前に出してきた。
なんとなく反射神経で手を乗せてしまった。
私、犬だったかな?
手を乗せるであっていたみたいだ。
その手にスッと騎士さまの顔が近づき手の甲にキスをする。
わわわわわーお。
異世界なんだな、ここは。
ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー
王宮の端、広い野外訓練場。
真ん中では剣の訓練が行われており、外周の端ではいわゆるこの世界の障害物競争のような場所になっていて、体育器具の代わりによじ登りようの石壁とか水濠などがあった。
一部の騎士達は黙々と訓練を行っている。
多くの騎士達は休憩中なのだろう、訓練場に設置されている観客席のような階段に座って、こちらを見て笑っている。
なんとなく、わかる反応だぞ。
さて、私の体力がどれほどなのか基礎的な運動能力の確認が待っていた。
転生前の自分だと床に突っ伏してしまうほどの運動量でも、魔人族の身体を得た今、軽々と行える。
素敵な身体ありがとぉぉぉ。
管理者さんグッジョブ! HPが少ないけどまぁ、良い身体でラッキー!
逃げるには体力は絶対必要だからね。
それにしても私と神斗君以外の三人はこの訓練場にも来ていないね。
本当に別々の場所で過ごしていくんだ……。
討伐にいかなくて、それはよかったね!
過去に戻っても私は愛妾なんか承諾しない。
それはそうと魔王討伐ってさすがに二人じゃないよね?
逃げるにしても勇者の神斗君はどうしようか……。
一人置いて逃げるなんて私にできるだろうか?
そんな事を考えながら階段を上り下りして、走って、3メートルほどの石壁をよじ登り水濠に着地する。
2週目は、水と泥で滑るようになり、靴の中の水がぐちゅぐちゅと音をだして不快で苦痛になってくる。
これをあと1週……。
靴もスニーカーではなく皮だし、靴擦れがすぐにできそうだ。
ちなみに、神斗君はもうゴールをしたみたいだなぁ、若いって素晴らしい。
ううぅ……痛い、やっぱり擦れてしまったかも。
階段を上ろうとした時、騎士さまがストップをかけた。
「あと一回ならいけますよ」
騎士さまは首を振り、向こうの階段に座るようにジェスチャーをした。
彼は声が出せないらしい。
私の靴を脱がすと綺麗な布で足を拭いたのち、靴擦れができそうなヒリヒリした踵を見ている。
そして、おもむろに私を抱きかかえた。
「ふえええええぇぇぇ!」
身体が硬直したようにまっすぐになる。
お姫様抱っこでここまで無様なのを見たことないよね?
騎士さまは、くくっ……と笑っているような顔をする。
突然の事で万歳したような腕を首に回すように誘導してくる。
「まだ、歩けますもん! 大丈夫ですって!」
顔から火が出るほど恥ずかしい。
他の騎士さんがこっちを見て「ちゃんと教育してくださいよ?」とか「愛人にして養ってやろうか?」とか好き好きに言ってくる。
でも、騎士さまはどこ吹く風でスタスタと歩いていく。
神斗君もこっちを心配そうに「ヴィヴィオラさーん、大丈夫?」と叫んでいる。
ああぁぁ、神斗君。助けてぇぇぇ! まだ、なんにも怪我してないのぉぉ! 恥ずかしくて死にそうですぅぅ!!!
サボり騎士がいない階段に下ろされた。
するとリーナさんが走って駆け寄ってきた。
靴下と新しい靴を持ってきてくれたみたいだ。
「包帯巻きましょうか?」
「大袈裟ですよ。見てください。少し赤くなってるだけじゃないですかぁ。恥ずかしい……」
「あら、本当ですね。副団長! びっくりするじゃないですか!」
リーナさん、今なんて?
副団長?
「リーナさん、副団長ってもしかして?」
「あら? 伝えられてませんでしたか?」
「この国で? 魔人族で? 副団長なんですか?」
魔人族の騎士さまは、なんと王国騎士団副団長だった。
そして副団長なのに騎士たちに下に見られているみたいなんだよね。。
不思議だな。
この少しの期間でも魔人族への好感は低いことはわかっている。
それなのに副団長の地位を与えられているんだよ?
兵をまとめる騎士団のナンバー2なんだよ?
本当に不思議。
こんなに紳士な副団長さまなのに!
基礎体力のテストは、なんとなく終わったのだけど、副団長さまは何か考えていた。
声に出さないからもちろん考えていることはわからないけどね。
副団長さまは、着いてきてとジェスチャーで伝える。
ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー
「たくさん武器がありますね」
着いた先は、先ほどの野外訓練場に併設されている城の武器庫だった。
それにしても流石、ファンタジーの武器庫。
様々な武器がある。
「大剣だ! すっごーい! 私の身長ぐらいあるよ。えぇ、160センチ? なんだ。これを振ることができるなんて異世界人のフィジカルすごい! わぁ、これは死神が持っていそうな鎌だ。これどうやって戦うんだろう」
片手剣が多めだけど、ランス、盾、槍や弓、それ以外に騎士団ではあまり使わなさそうなモーニングスター、アックス、メイスや大鎌、吹き矢?
攻城武器などもおいてある。
ゲームや小説の中でしか見たことのないものが確かにそこにある、しかも、大量に。
ふと一番奥のガラス棚に保管されている片手剣が目に入った。
「なんか、大切な剣なのかな? いや、違うか」
確かに棚に鍵がかっていて、他の剣よりは大切なんだろうな~と思うが、なぜ違うと思ったかというと、それは同じ剣が10本ほどあったからだ。
「レプリカなのかな? 神斗君用の武器だったりして」
副団長さまは頷いている。
え、本当に? 神斗君用というか、勇者用なのか。
副団長さまは、考えた末ある武器を手に取った。
先ほどから悩んでいたのは、自分に合う武器を考えていてくれたみたい……。
彼は、弓と手袋とダガーを渡してくれた。
弓って、漫画やアニメなんかは無限に撃てるイメージがあるけど、実際は矢の補給が大変そうな気もするんだけどな。
でも、黙って彼に従うことした。
勇者君が前衛、私は後衛とパーティ編成を考えたかもしれない。
ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー
早速、野外訓練場とは反対の弓の訓練場へ行き訓練を始めた。
人型の的が遠くに立っている。
いつか、人に向けて射る事になるのだろうか……。
魔王も第五王子の口ぶりからすると魔人族かもしれないからーーう~ん、悪いこと何にもしてないのに射るの? 気が重いなぁ。
こんな感じかな? と弓を構えて、右手で矢と弦を持つ。
弓の弦は、キリキリとちゃんと引けた。
矢はビヨ~ンと情けない音をだして、極度な放物線を描いて的まで半分の距離で地面にささる。
まっすぐには飛んでいった、褒めて。
「意外に難しい!」
何本射っても、同じ距離に落ちる。
ある意味凄くない?
「見本を見せてもらってもいいですか?」
副団長さまにお手本を見せてもらった。
シュッバン!! バァァン!! バラバラバラ……。
粉々の木片が宙を舞う。
的の人型頭の部分をきれいさっぱり粉砕した。
「うひゃぁんん!!!! マジです!?」
恐ろしい……、弓ってそんな威力でるの? 嘘ですよね?
周りを見ると野外訓練場と同じくサボリっぽい人達が目を見開いている。
やっぱり、普通じゃないんですよね!?
威力・スピード、あと正確性。
身体能力高そうな種族でも私ではどうにもならないことあるよね……。
やはり練習あるのみかぁ。
これは真剣に練習しないと、神斗君の背に矢が刺さるかもしれない。
返された弓を構える。
すると副団長さまの大きな手が私の手を覆った。
一緒に弦を引く、先ほど自分が満足していた以上にもっと力強く。
シュバッ! カコン!
人型の胴体部分の当たって、矢の角度が悪いのかはじかれて地面に落ちた。
副団長さまが真剣に射るとそんなに固い的を粉砕する……。
背中が副団長さまと密接しているのに寒さを感じている私は間違っていない。
余り怒らせないようにしないとと誓った。
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