第18話 スライムは地味に痛いようです
剣で指し示した先はうっそうとした深い藪で薄暗くなっている。
「ロング副団長? 何かいるんですか?」
聞きながらサッと立ち上がってダガーを握る。
耳を澄ませると微かだがガチャガチャと鎧の擦れる音と男女の話声がする。
「冒険者?」
「かもしれませんね。でも、ここは余り人が来ないところなんですよ」
「騎士団の新人訓練をここでよくするので、面倒をさけて一般冒険者は来ないんです」
「人数が多そうだから、冒険者パーティじゃないかも」
神斗君の言う通り、木の枝や草を踏みしめる足音は10人はいるように思う。
鎧の音が大きくなるにつれ、会話が鮮明に聞こえる。
「あっ……」
「どうしたの? 神斗君」
「もしかしたら、ミカとマナミかもしれません」
宰相が『彼女らは護衛のお仕事ですな。ですから訓練も過ごす場所も別々になります』って言っていた事を思い出した。
彼女たちも訓練かな? 会えてラッキーだねと言う言葉を飲み込んだ。
神斗君は、なぜかあまり嬉しそうな顔をしていない。
確かに、初めから仲良し3人組って感じでもなかったよね。
思春期の難しい年頃だろうかと思っているんだけど違ったのかな。
「ココ道じゃない」
「ねぇ、ちゃんとしたさ~、道作ってよ!」
「お前たち、きちんと踏み均せ! 枝は切り落とせ! ササッ、ゆっくりお進みください。今日の事はなにとぞ第一王子にお伝え頂けると……ハハハ、次回はしっかりもっと楽にいけるように整備しておきます。私は第一王子派閥でしてーー」
私以外、「はぁ~」と緊張をといた。
騎士団の人だったのかな? よかった!
「あぁ、俺。男性の声もわかった気がする」
「うわぁ、ロング副団長こっちに彼らきますよ」
みんなは男性の声に聞き覚えがあるようだ。
その時、目の前の藪が刈り取られ相手の顔が見えた。
「ロング!」
「……」
ロング副団長は、表情からみて無言だ。
「あっ! 神斗じゃん!」
「よく顔出したよね」
「……」
神斗君も無言だ。
顔出したのはそっちなんだけどなと私は思ったんだけど、間違ってないよね?
「「アッジ副団長、お疲れ様です!」」
ランドルーさんとジェイクさんは、声を合わせる。
この人もロング副団長と同じ副団長みたいだ。
私と変わらない身長で、少し小太りな体形。
沢山の略綬を胸に身に着けているのをみると凄い人みたいだ!
かたやロング副団長は、何も付けていない。
ということは、アッジ副団長の方が上の階級なのかな?
副団長は何人いるんだろう?
「お前たちは、平民の寄せ集め第5騎士団……。スライムと遊んでいたのか? お似合いだな。ハッハッハッ! こちらは洞窟でリザードだ」
「リザード!?」
「んん? 魔人族の異世界人か。ふ~~ん。ジョブ無しなんだろう? 身体能力だけで生き残れるほど甘くないと思うけどな。同族とはいえ、獣と一緒に訓練とはかわいそうだな」
「……獣」
「……」
獣……言い方よ!! 私の周りを歩きながら嫌な奴!
ロング副団長は、少し悲しそうな顔をでこっちを見てくる。
たまに距離感おかしいけど、とっても優しくて私はラッキーと思ってますけど!
ジョブ無しがなんだ! 私、ラッキー全振りですけどね。
「精々頑張るんだな」
アッジ副団長は、バッと振り返りミカとマナミの方を向く。
「ササッ、こんなのは放っておいて城に帰りましょう」
神斗君はミカとマナミと何か話をしていたようだ、というか詰め寄られてる?
マナミが神斗君の胸を突いているのを見るに、あまり良い話ではなさそうだね。
私はロング副団長の後ろにスーッと隠れた。
「ロング! 何笑ってるんだ! くそっ! 首輪が付いた獣の癖に」
アッジ副団長はなんでこんなに怒っているんだろう?
首輪……?
ロング副団長を見ると確かに首輪をしているように見える。
いつもきちんとした立襟の服を着ているから気づかなかった。
「イーーーーダ!、スライムを頭からかぶってしまえ!」
小さい声で言ってやったわ!
「うわぁぁぁあぁぁあ!!!!」
アッジ副団長は、本当に頭からスライムの死骸をかぶった。
ジタバタしているのを見て、ジェイクさんが「アレを引っ剥がすんですよ」と耳打ちしてくる。
部下の騎士達が、暴れるアッジ副団長からスライムを剝がすのに苦労している。
ロング副団長が、ゆっくりと近づき頭頂部のスライムをむんずと掴み投げ捨てた。
嫌味を言ってくるやつにも手を差し伸べる、流石!
「あのスライム、多分、俺が切り上げた奴だ。忘れてた。木の上で死んでたのか……」
ナイス! グッジョブ! 神斗君!
でも、次回からは危ないので切り上げるのは止めようね!
魔石から水を出してもらい顔を洗ってるアッジ副団長。
ところどころ、肌が赤くなっていて「おおぉぉ、いたたぁ、うぅぅ」と唸っている。
顔の皮膚は薄いとはいえ、あの数秒であんなにダメージがあるのか……。
ちょっと、可愛そうになってきた。
それに髪も薄くなっているのは気のせいかな?
「ポーションか傷薬だせ! うぅぅ……」
「持ってません! 今回必要ないってーー。他の騎士も怪我したままです」
確かに、後ろからついてきている騎士は、腕を抑えていたり、足を怪我していたりと満身創痍みたい。
リザードって強いんだ……。
「おい! 第5騎士団、出せ! 持ってるだろう!」
「えぇ! もちろん持っております! 討伐任務には必ず携帯! と規定で決まってますので!」
言われるまで出さないランドルーさん、面白いな。
わざとなのか、ノロノロとポーチからポーションを出す。
「第5騎士団の備品ですので、必ずお返しください! 予算が少ないので。少し融通していただけると報告書には書きません!」
「あぁ、わかった! わかったから! 早く渡せ!!」
「「ありがとうございます! アッジ副団長に感謝します!」」
ランドルーさんが部下にポーションを投げる。
「ザニックスに言うなよ! あとで届けるーーぅいたた、早くかけろ!!」
アッジ副団長の部下は瓶の蓋を急いで取って、頭からトプトプトプとかける。
肌がみるみる赤から元の色に戻っていく。
速攻で効力あるポーションって凄い!
「だっさぁ!」
「さっさと行こう」
お嬢様方に飽きられてますよ? アッジ副団長。
彼らが去ってすぐ、鐘の音が1回なった。
「あ、お昼だ。……彼女たち帰るの早いね」
「2匹ぐらい倒して、散歩してたんだよ。アッジ副団長はよく迷子になるから」
「でしょうね。あそこは洞窟ですが、出入口が数か所あるので、討伐場所につく前に他の出入口から出てしまったのでしょう」
「洞窟に戻ればいいのでは?」
「だよね」
「部下とミカ様とマナミ様の手前、迷子で洞窟を出てしまったって言えないじゃないかな? 部下は迷子ってわかっているけどさ」
「部下も大変だぁ」
「ロング副団長! 我々は何時帰城ですか?」
3時ぐらいかなと思ったら、ロング副団長は手で6を表す。
「鐘の音が6回、もしくは6時。どっちにしても18時? 俺は何時でもいいけどね」
「ヴィヴィオラさん、なんとか言ってくださいよぉ」
ジェイクさんが泣きつくけど、私に言われても……。
この後、めちゃくちゃスライムを倒しまくった、主に私以外。
スライムが近辺の森からいなくなったと報告があがるのは、まだ先の話。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます