第15話 異世界名物串焼きは大きいようです

 ジェイクさんおすすめの串焼きがある市場までやってきた。

 高身長のロング副団長に片腕抱きされているので、みんながこっち見るけど、興味はすぐに食へと移ってくれている。

 平民のランチは、市場の屋台で食べるのが普通らしく昼前なのにたくさんの人が買いに来ていた。

 

「あそこです。あの屋台。あぁ~、一か月ぶりだなぁ」


 昼前なのに肉串の焼きあがりを待つ人で混みあっている。

 甘酸っぱい香り、肉から滴り落ちた脂が炭火で焼かれ出た煙の匂い。

 その二つが相まって食欲が沸き立つ。

 地面に下ろしてもらった。

 ジェイクさんは平民でありながら城勤めの騎士なので、ランチはいつも食堂で食べているらしい。

 夜は自宅でパートナーと。

 

「私、お金貰ったので購入してみたいです。これでみんなの分買えるかな?」


 出かける前にリーナさんから渡された銀貨1枚を見せて、ロング副団長に伝える。

 ジェイクさんが横から。

 

「おつりあるかな……、ここは俺が出しますよ」

「いや、それは申し訳ないので。それに私のお金じゃないので私が」

「ここは屋台のおやじの知り合いの俺が」


 ジェイクさんとひと悶着していたら、スッと神斗君が串を差し出してきた。

 ロング副団長が買ってくれたらしく、胸には結構な量が入っている紙袋を抱えている。

 屋台のおやじさんが、こちらに向かって笑顔で手を振っている。

 

「あーーっ!、買いたかったのに!」


 ランドルーさんが向こうから飲み物を抱えて戻ってきた。

 

「ロング副団長からです」

「あーーーーっ! もう、お金使ってみたかったのに!」

「ハハハ、せっかくなので熱いうちに食べましょう」


 市場に隣接している公園の芝生広場に来た。

 最奥部は処刑場らしく誰も近寄らないが、手前は人があふれている。

 

「処刑場があるんですか? この公園に?」

「ギロチン台があるのは、もっと奥ですから。あの旗が見えますか? あの旗の根元にあります」


 ランドルーさんが指を指す。

 あー、三角の旗がはためいている……。


「一応、あそこも我々の職場です、重罪人などを見せしめの為ーー」

「ランドルー止めようか!」

「ハハハ……」


 逃げてつかまったら、あそこに一直線って事ないよね?

 ないよね!?

 気を取り直して、芝生広場はベンチに座れなかった人が、地面に直に座って食べているのでピクニックみたいだ。

 昼寝している人もいる。

 とてものどかだ。

 魔王に怯えて勇者召喚が必要なんてとても見えない。

 公園と市場の接している中央の一か所に凄い行列が出来ているところがあり、なぜかそこから一番遠くの芝生に私たちは座る事にした。

 みんなが輪になるように座る。

 私も失礼してとその輪に加わろうとした。

 

「わっ!」


 腕を引かれてポスンとロング副団長の胡坐の上に着席した。

 顔から火が出るってこういう感じなんだ。

 

「あれ? ーーっ! ロング副団長っ! 地面に座れますって!!」


 やだー! 恥ずかしい。

 神斗君はびっくりしている。

 

「ヴィヴィオラさんが恥ずかしがっているじゃないですか」


 神斗君もっと言ってください。

 足をジタバタとして立ち上がろうとする。


「ヴィヴィオラ様は、魔人族なのに不思議な人ですね」


 ランドルーさんが言うとジェイクさんも同意した。

 え~?


「特にビースト種の人は、こんな感じですよ」


 こ、こんな感じってどんな感じ?


「庇護するものを可愛がるというか、執着的というか……ま、食べましょう」


 ニッコリ笑顔で串焼きを渡してきた。

 執着って何? ニッコリ笑っていう言葉なのそれ!

 あきらめて串を握りしめる。

 

「ランチご馳走になります!」


 渡された串は厚さ2センチで5センチ角の肉が3つほど刺してある。


「すんご~いボリューム。1本でお腹いっぱいになっちゃいますね」


 一人3本づつ買ってきたらしい、計15本。

 まずは、串の一番上の肉のサイドから一口かぶり付く、噛みしめるとジュワッと肉のうまみが口の中に広がる。


「お、おいし~い! この味何だろう!」

「フルーツとトマトと、なんかを煮詰めたって言ってったけな」

「食がおいしい召喚で良かった!」

「確かにね。これ何の肉なんですか? 牛とは違う、なんだろう。少し癖がありますね」


 神斗君が言うとジェイクさんが魔物だよと教えてくれた。

 

「へぇーー。これが魔物かぁ。」


 ファンタジーあるあるだよねぇ、うん。

 食堂でランチを取っているんだけど、得体の知れない名前の肉は魔物だったかもしれない。

 この肉だって、別に緑色とか青色をしているわけではないので、違和感なく口にできている。

 

「仕入れは日によって違うからな~。ちなみにこの味はデュアルフェイスシープかな?」


 デュアルフェイスシープは大型の魔物で顔が二つある羊らしい。


「ヴィヴィオラさん、これ1串5ギリアだったよ」

「ギリア?」

「通貨の単位みたい、この四角のが1ギリアになるらしい」

「じゃあこれは、何ギリアになるの?」


 銀貨をだした。


「これは1000ギリアですね。平民1家族の半月の食費ぐらいです」

「う~ん、わかり易いようなわかり辛いような……」


 お金は、紙幣はなくてコインのみで世界共通らしい。

 四角いコイン鉄貨。

 丸いコインが銅貨・大銅貨・銀貨・金貨・白金貨の5種類。

 わぁ、王様意外に太っ腹じゃないか。

 キランと光る銀貨1枚、眺めていたら危ないので仕舞ってくださいと怒られた。

 

「ジェイクさんはおかあさんみたい」


 私のお肉の余り串2本はジェイクさんとロング副団長に渡す。

 彼らは4本も食べたのか……。

 鐘の音が1回なる、12時だ。

 先ほど沢山の人が列をなしていた行列がなくなっていた。

 

「あそこも人気の屋台だったのですか?」

「いえ、あそこは……神殿のお恵みですよ……」

「お恵み?」

「炊き出しです」

「へぇ、凄いですね」

「素晴らしい事なんですけどね。そう! 素晴らしいんですよ。でも、わざわざ、市場の一等地ですることはないんですよね! 商売の邪魔をしてるって説もあるんですよ。もらう必要のない人まで列に並ぶし、そのせいで必要な人まで回らないこともある。公園でしたいのなら奥の孤児院ですればいいし、そもそも、立地のいい神殿ですればいいんですよ」


 一気にまくし立てると肉をかみ切る。

 かなりの鬱憤が溜まっているみたいだ。

 

「ジェイクのパートナー実家は、あの近くで屋台だしていたんです」

「なるほど……」

「過去形ですね」


 神斗君は何かを悟ったようにいう。

 

「なるほど……」

「ですから、今ではくず魔石屋など生活用品売り場になってます」


 あの神官長の装いからして善意だけじゃない気もする。

 うん、偏見だけどね。

 女神さまは勇者召喚なんて変なお告げだすよりも、少し奥まった所で神官長のポケットマネーを吐き出させるお告げの方がよかったんじゃない?

 私は「まぁ、まぁ」とジェイクさんにドリンクを勧める、ロング副団長の膝の上から。

 ロング副団長にジェイクさんに差し出したドリンクは掴まれて却下されたけど。

 とその時、炊き出しがあった所で「ぅ゛ぅぃぅぃぅぅぅぉぁぁんんんん」と叫びながら走っている人がいた。


「どうしたんだろう?」

「なんでしょう?」

「……?」

「あれ、ここに向かってません?」

「ええ? 神斗君怖いこと言わないでよ。アハ……ハ?」


 んん?


「「「「「ーー!!!!」」」」」


こっちに向かってきてる!?

みんながザッと立ち上がって、腰の帯剣に手を添える。

走ってきているのは神官服を着た男だ。後ろに騎士も走ってきている。


「ヴィヴィオラサァァァアンンンン!!!」


 へっ!?


「あたしぃぃ!?」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る