第14話 王都見学のようです
《レンギア王国7日目ーケルンジリア7日目ー》
今日は待ちに待った外出日。
リーナさんにお願いした時、『うーん、無理だと思いますが……頑張ってみますね!』と言われて期待はしてなかったんだけど、なんと外出許可がでた! ラッキー!
6回の鐘の音でベッドから飛び出した。
「はぁぁん、楽しみぃーー!!!」
前日にリーナさんから貰った新品の平民服なるものを自分で着た。
髪はおろしたまま、櫛でとかすだけにしてもらう。
猫耳は、帽子ほど遮音しない、通気性が優れている〖カチーフ〗という三角巾で隠す事になってる。
カチーフって何? って思ったけど、あ~見たことあるってなった。
ヨーロッパで農村の女性がかぶっているスカーフだ。
耳は押し折ることになるけど、白色のレースが可愛くてよきよき。
そして、人族の耳があるところはおろした髪でカバー。
ロング副団長が『この国は魔人族には少し優しくないので不快な思いをするかもしれませんのでおすすめはしません』と言っていたので、少しでも魔人族要素を消すことを重点に考える。
尻尾はスカートから出さなければ問題ない。
これで、立派な人族だ、髪色以外。
今日は、私、神斗君、ロング副団長に平民の騎士2人の5人で行くらしい。
リーナさんは『なんでぇ、私は仕事なんですかぁ』って泣いていた。
私もリーナさんと行きたかったけど、仕事ならね……。
ごめん、リーナさん! リーナさんの分まで楽しんでくるね!
神斗君も一緒に外出できたのはよかった。
一緒に逃げる予定なので、城の外を見学しておいて損はないはず。
奥の応接室のダイニングテーブルで朝食を頂き、鐘の音が3回なるまでここで待機!
「楽しそうですね」
「まぁね。7日間、ずぅーっと城にいるんだよ。困りごとはないけど流石にね?」
「毎日訓練でこちらも疲れてましたので助かりました。ヴィヴィオラさんは楽しそうに食べてましたけど」
「なんでか、ティータイムがあるんだよね。神斗君は[異世界召喚はブラックでした]ってタイトルつけれるね、ハハハ」
そうなんだよね。
城の外はわからないけど、定休はない。
騎士の人達は許可制でお願いしないと休みはないらしい。
楽しく談笑していると私服のロング副団長と騎士が入ってきた。
丁度、3回鐘の音がなる。
「おはようございます。今日はよろしくお願いします」
3人に頭を下げる。
部屋に入ってきたロング副団長は少し不満げな顔をしていた。
多分、忠告どおり城の外へ行かない方がよかったんだろうな。
「私はジェイクです、彼はランドルー。本日、王都をご案内させていただきます。それにしても、平民服ですよね? 貴族のお忍びみたいになってますね。ロング副団長が後ろにいると……さらに。まぁ、あながちお忍びは間違いないので。それでは参りましょう」
ジェイクさんは、訓練を休めるのでラッキーですってさ。
ぞろぞろと5人固まって歩く。
言われるままついていった先は、馬小屋だった。
小屋ってレベルではないけど。
朝のお世話をしている馬番の人が、ロング副団長やジェイクさんとランドルーさんを見ると頭をさげた。
彼は、モフモフの白い毛を蓄えた魔人族ビースト種、犬さんだ。
おおぉ、ケモナーだぁ。
「王都中心街までは馬で行きます」
馬! 見たことしかない! 競馬中継で……。
ここで待ちましょうとジェイクさんは言い、他のみんなが中に入っていく。
しばらくすると、ロング副団長が大きい馬を1頭、ランドルーさんが馬を2頭、神斗君が1頭引き連れてきた。
「神斗君は馬乗ったことある?」
「訓練で毎日乗ってますよ?」
「えっ?」
乗ったことが一度もない……。大丈夫かな。
というか、私馬乗れなかったら魔王討伐にいけないんじゃぁ?
あ、そうか! 馬車に乗っていくのか! 多分、魔王がいるところって遠いよね? 荷馬車の荷台とか~かな?
「ヴィヴィオラ様は私と一緒にのりーー」
ジェイクさんが言いかけた時に、私の足が地面を離れた。
ストンと馬の背、鞍に乗せられた。
黒毛の大きい馬。
そしてその後ろにロング副団長が乗る。
「……それでは参りましょうか」
ランドルーさんが言うと各馬がゆっくりと歩を進め始めた。
「ありがとうございます。ヒャッ」
体勢が崩れて焦る。
ロング副団長が片腕を腰に回して落ちないようにしてくれた。
この距離感ドキドキしてしまう。
それにしても、どこに力を入れればいいわけ?
鞍の先に持ち手があるけどこれだけで身体を支えるのは無理だ。
いろんな意味で身体がガチガチになってしまう。
「副団長……私も馬習いたい、ふわぁ!」
訓練場近くの門から出た瞬間に、少し下り坂になるのもあいまって馬のスピードがあがった。
「うぎゃぁぁあぁんんん!!!」
高い、揺れる、落ちる、こわぃぃぃーー。
ロング副団長はアハハと笑って楽しそうだった、声は聞こえないけどね。
黒馬も楽しそうに走ってる。
乗るのはまだ早いって事なのかなぁぁぁーー。
もう、ロング副団長の胸に身体を預ける事にした。
無理して落ちたくない。
大きな城門が見える。
先ほどの門とは違い城壁と一体になった門まで来るとまた、馬はゆっくりとした足取りになった。
門番とランドルーさんが言葉をかわし門が開く。
「城の外!」
城の外を出ると貴族屋敷が立ち並んでいる。
その先がいわゆる王都なのだが、そこまでいくのに馬の歩く早さでかなりの時間がかかった。
大きな貴族の屋敷を見るだけでも面白い。
異世界なんだなぁと改めて思う。
貴族街を抜けると幅2メートルの堀があり、橋を渡ると目的地だ。
橋には門はないが、衛兵が立っている。衛兵に何か書類を見せるとすんなりと通れた。
結構、逃げるの不可能じゃない?
徒歩でここにくるまでにつかまるのが目に見えてる。
やはり、討伐に向かうときに行方不明が一番現実的だ。
王都に入ると高級な店舗が並び、人通りが少なかったが、城から離れるにつれ、にぎやかさが増してきた。
服装に使用している色味で中流階級ぐらいの人達なのかな。
他には今帰ってきたばかりの冒険者っぽい人も歩いている。
「ここあたりで、馬を預けましょう」
ランドルーさんは、慣れた感じで大きな公園に隣接している馬番屋へ向かう。
馬番屋さんという立派な仕事らしい。
日本でいう駐車場みたいなもので、違うのは生き物なので水や餌やりをしてくれる。
オプションで洗ったりブラッシングしたり、泊まりの預かりとペットホテルの方が正しいかもしれない。
ちなみに、馬以外もOKらしい。
今は馬しかいなかった、残念!
「どこへ行きたいですか? ヴィヴィオラ様」
「ジェイクさん、様付けなくていいですよ。堅苦しいのは苦手なので」
「あぁ、そうなのですね。ヒィ! いえ、やはり私はヴィヴィオラ様と」
?
ヒィ?
何かいた?
「……そうなんですね。ところで私、魔人族みたいなのですが、なんというか申し訳ないです。無理をいいまして」
「あぁ、そのことなら私とランドルーは大丈夫ですよ。パートナーが魔人族なので。なので今回は私達二人が選ばれました」
この国にも魔人族に忌避感を持たない人族もそれなりにいるんだなぁ。
「ランドルーは魔人族の妻を迎えるにあたって、廃嫡されて貴族籍を抹消されましたけどね。ハッハッハッ」
「ええぇ? ……そこまで愛されているなんて素敵ですよねぇ」
身分が高くなるにつれ、魔人族に対して嫌悪値があがっていくのかもしれない。
ジェイクさんがそっと耳打ちする。
「国に何かあれば、パートナーと共に真っ先に逃げてやりますとも」
ジェイクさんもランドルーさんも国への忠誠は低いらしいぞ。
そんな話をしているジェイクさんと私の間にズズズィーとロング副団長が入ってきた。
いつものように手を差し出してきたので癖で乗せる。
「……ロング副団長。平民はそんなことしませんよ……」
「神斗様、いいのですか? あの、その、ヴィヴィオラ様とお付き合いしているんじゃぁ」
「あっ! な、な、なんでそんな話になってるんだろう? ねぇ? 神斗君とは何にもないよねぇ?」
馬番に支払いをすましたランドルーさんは「二日前にディーンが言いふらしていました。」と会話に入ってきた。
ディーンって誰よ! もしかして、あの『素晴らしい身体』とか軽薄そうな発言した男?!
「俺の事は遊びだったのですか? あの日の事は忘れらないと思っているのは自分だけなんですね」
そんなうるうるした目で見ないで!!
涙を手で拭う動作をする神斗君、絶対わざとしているでしょ!
ジェイクさんとランドルーさんが可愛そうな目で神斗君を見てる。
うわぁぁぁぁぁぁん!!! めっちゃ誤解される!!!
いだだだだだだっ!!
痛いっ! 手が! ロング副団長?!
「神斗君? さすがに? ね!!」
もう演技しなくても大丈夫じゃないと耳打ちする。
「ーーではないですが、今日は、俺では役に立たないので仕方がないですね」
暫しの沈黙のが流れる。
ランドルーさんは空気をよんだ!
ジェイクさんは空気をよんだ!
私も空気をよんだ?
あの日の出来事が、広まっているのか……神斗君ごめん、まだ演技してくれるなんて。
本当に高校生に手を出した獣みたいになっちゃった。
「あ~、あっ! あれを見てください! ヴィヴィオラ様、あれがどの町に行ってもあるギルドです。どの町に行っても同じ建物なので覚えておくと良いですよ。目印になりますからね。赤い垂れ幕が冒険者ギルド。青い垂れ幕は商人ギルド」
ジェイクさんは無理くり話をかえてくれた。
指をさした方向を見ると立派な石づくりの建物に赤い垂れ幕が2本かかっている。
おおぉ、これがギルド!!
「冒険者ギルドって何するところですか?」
「えーと、冒険者の仕事斡旋ですね。仕事はどぶ掃除から魔物退治まで多岐にわたりますね」
うん、私が知っているギルドで間違いなさそうだ。
知っているっていうのも変だな……。
スッと近づいて「討伐なら、俺の担当ですね。癒し担当のヴィヴィオラさん」とコソッと神斗君が言う。
役割分担は置いておいて、神斗君も逃走後の生活の事をしっかり考えているみたいだ。
「青い垂れ幕の商人ギルドは、その名の通り商売、商人でなけば関わりありません。どのみちギルドは、神斗様やヴィヴィオラ様が関係することはございませんので」
ロイド副団長も頷いている。
私はお金を稼ぐためには関わりたいのだけど!
他にギルドがあるらしいけど、関わりあってはいけないのでと教えてくれなかった。
関わりあってはいけないギルドって何ぞや。
「この大通りをまっすぐ、あそこに見えるのが第二城壁です」
ランドルーさんが教えてくれた。
この大通りは城の正門から王都外までまっすぐに敷いてあるらしい。
それにしても、また壁と門……。
「すごい高いですね、あの壁」
「ここは王都ですから、やはり防衛のためです。国の中心まで攻められたのは30年前でしょうか」
「他国と?」
「えぇ、隣国のアガルメテとの戦争ですね。あの時も国王陛下がお告げを受けたって言っていたらしいなぁ……なんせ生まれる前なもんで」
「確か、俺たちの召喚も女神様のお告げっていってましたね」
「女神かぁ……どんな姿かな」
「見たいですか? その女神様のお告げで、国土の4分の1が無くなりましたけどね」
虎さまは神じゃないし、ましては女性ではないと思う。
女装してお告げを出しているとか?
虎さま + カツラ + ボイン + 化粧 = ???
ムフー! 絶対違うわ。
第二城壁の外には街道が敷かれており、すべての領都まで続いているらしい。
なるほど、逃走するときは街道と平行して歩いていけばいいのか。
森の中とか歩くのは不安すぎるもん。
「領都は37、町はうーん100ぐらい。村なんてもう数えきれないですね」
日本でいえば1都37道府県ある感じなのかな
あと数か月ののちこの第二城門を通って魔王討伐へいくのか。
逃亡は討伐の時にスルーッといなくなるのが一番いいだろうね、というかそれしか思い浮かばない。
私と神斗君が、ロング副団長と他の騎士さんをうまく撒けるのだろうか。
神斗君はなんか上手くやりそうよね……やはり足手まといは私だな。
今は、第二城門近くまで歩いてきている。
ロング副団長がいるので、自然と避けてくれるのだがこの辺りになると凄い人ごみだ。
服装も生成りの色合いでレースなど凝った服装は珍しくなってくる。
下流階級の人の生活圏らしい。
大通りから一本入るとお店の窓もガラスを使われるのがグッと減り、オープンスタイルで売り子が声をかける形式になる。
布地、食べ物、アクセサリー、武器、銭湯、家具と見ているだけで楽しい。
呼び込みも激しいけど。
ジェイクさんがパンパンと手をたたいて提案してきた。
「さぁ、少し早いですがお昼にしましょう。今日は屋台飯なんてどうですか? 自分のおすすめの店があるんです」
「屋台飯! いいですね」
私が率先して賛同する。
「この近くに市場があるんです。そこの串焼きが王都
「ヴィヴィオラさんはお肉が好きですもんね」
「朝のステーキの事言ってる? 出てくるんだもん、そりゃあ食べるよね! おいしいし」
「ランチもお肉の割合高そうですけどね」
「お肉以外にしますか?」
「え? い、いや! お、お、お肉、好きですーー! お肉がいいですーー!」
「量もあるので満足してもらえますよ」
食べる量は普通なんで……、肉が好きなだけなんで……。
って、みんな早歩きになってるじゃん。
「うっわん!」
ロング副団長が、私を子供を抱くように片腕抱きをする。
どんなパワーしているの。
私の体重をものともせず、みんなの早歩きの歩調に合わせて大股で歩いていく。
え? そんなに早く食べに行きたいの?
王都
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます