第5話 猫耳女性のようです

 今は部屋に案内されている途中。

 最後尾に顔も尻尾もしょんぼりしながら歩いてる。

 尻尾もしっかり生えてました。

 あまり歓迎されていないのはわかる、ジョブも空欄だしね。

 扱いに困るやつが来たとでも思ってるんだろうなぁ。

 これからどうしよう。

 虎さまは自由に生きていいと言っていたけど、ここの人たちは目的があって召喚したみたい。

 王様が『大陸統一ぅ』ってうっかり口を滑らしてた。

 一先ず、様子見だけど歓迎されていないので逃げよう、そうしよう。

 しょんぼりな尻尾を抱きかかえながらみんなの後ろをついていった。


「いつまで、歩くの?」

「疲れた」

「あれは、さっきの城かな? 本当に日本じゃない……」

「ほ、ほんとだねぇ。僕……おじさんは疲れたよ」


 召喚場所の地下から3・4階分ぐらい階段を上り、客室みたいな部屋に出たかと思うと扉を開け廊下にでる。

 今度は1階に下りて長い回廊を通って別館にたどり着いた。

 平屋建ての別館の中に入っていく。


「こちらの部屋をお使いください」


 補佐官がそういうと騎士に扉を開ける合図を送る。

 豪華な扉を開けると、これまた両側にドアがたくさんある廊下が続いていた。

 その廊下の先には、明るい日差しが入る大きな窓がある広い部屋が見えた。

 広い部屋は、本棚に囲まれたソファと会議をするような大きいダイニングテーブルが置いてあった。

 ソファにどうぞと言われたので、私は上座から一番遠い一人席のソファにおとなしく座った。

 三人席に高校生達、その向かいの三人席にバイト戦士。

 座ると同時に紅茶が運ばれてきた。

 とても香りがいい。

 心が少し落ち着いた。


「冷たい飲み物ないの? フラッペとかさぁ」

「ん」

「マナミ、あんまりわがまま言うなよ」


 マナミが恐れ知らずに言う、ミカは同意の相槌、カミト君の説教。

 この三人なんで一緒に行動してたんだろう。

 補佐官は、「フラッペってなんでしょう? え? フラッペチーノ? 今度メイドにお伝えください。作れるものであれば」と苦笑いしながら、自分の仕事であるこれからのことを伝えてきた。


①部屋を選ぶ

 部屋は、通路の両側にあるドアが客室だった。

 各々お好きな部屋を選ぶようにと言われたのでほっとした。

 一人だけ別の場所に通されなくて!


②メイドを選ぶ

 この城で過ごすために一人ひとりにメイドをつけもらえる。

 24時間いつでも呼び出せるらしい。ブラック!


③本日歓迎パーティーがある

 今日の夜の歓迎パーティーに出席の準備がある


 話が終わるとみんなぞろぞろと部屋を選びにいった。

 私は、余り部屋の中で応接室から三つ目の右側の部屋を選び中に入った。

 右側は、空き部屋を挟んでバイト戦士改めツトムさんの部屋がある。

 部屋の中は、大きなベッド、クローゼット、執務デスク、衝立で区切られた区画に猫足バスタブ、トイレがある広い部屋だ。


「まず、私がみたい!」


 姿見鏡が目に入った。

 駆け足で近づく。


「あぁあああああああ、やっぱり!」


 目は透き通ったターコイズブルーにラベンダーの刺し色

 髪の毛は艶のあるくすみピンクで腰下まであるストレート。

 猫耳が生えてる

 尻尾も生えてる


「はぁ、派手すぎる。目立ちたくないのに目立つ」


 思いっきりため息をついた。

 私を見て『魔人族でしょうな』と神官が言った言葉を思い出した。

 ということはだよ?

 同じような容姿の人がいるんだよね?

 ここの城にいないだけだよね?

 この城の人族も異世界よろしくカラフルな髪色していると思う。

 王様は赤毛。

 他に緑、金、茶、青髪の人がいたなぁ。

 でもパキッとしたビビットトーンではなく、原色に黒をちょんと混ぜたなじみのいいディープトーン。


「髪色染めれるなら染めるか……でも、耳もシッポも?」


 ベッドにダイブする。

 靴はもちろん脱いで。

 程よい硬さのベットにしっとりとした布のキルトケット、寝ちゃいそう。

 少し頭を整理してみる。

 みんなはジョブを選んだ記憶がなさそうだよね。

 それならば、おっちょこテロリストに身体を木端微塵に爆破されたことも知らないはず。

 地球に戻るにも身体はないのでこの世界で生きていかないといけないこと。

 自由に生きていいと星の管理者の虎さまが言っていたこと。

 伝える?

 伝えない?

 この姿で伝えても信用を得られなさそうだよね。

 私は独り身だからいい。

 突然、猫耳の人にあなたは死にました。

 元の地球には戻れないなんて伝えたら信じてもらえないし、私が恨まれそう……。

 私だって巻き込まれて召喚されてるんだから、損な役回りしなくてもいいはずよね。


 コンコンと扉をノックする音がなった。

 ひぃ~ん、ゆっくりさせてよ~!


「ヴィヴィオラ様、応接室へおこしください」


 扉越しに伝えられる。

 ズルズルとベッドから降りて部屋をでた。


「わからないってどういうこと!!?」

「えと、私ではということでして……、召喚した者に聞いてもらえ、ばっ」


 争う声とバシッ、ドサッ、バシッ、バシッ、ドサッ、ドサッと何か音がする。


「それって、どいつだよ!!

「落ち着けよ。マナミ! この人は多分伝えるだけの人だよ。この人じゃわからない」

「帰れないなんて、ママがなんていうと思う? おばさん困るよ? そうなったらカミトも困るでしょ? また、おばさん家からでれなくなるよ?」


 応接室につくと高校生の3人は部屋から早々と出て補佐官に詰め寄っていたらしい。

 本が床にたくさん落ちているのを見るに、先ほどの音は本を補佐官に投げつけていたのか。

 怒ったりと忙しそうだったようすが見受けられた。

 遅れて出てきたツトムさんは、スッと高校生の近くに寄った。

 私はなんとなく他の人と距離をあけて立つ。

 補佐官はなんとかその場を納めて、歓迎パーティーの準備について話をすすめた。

 パーティーは夜に行われるらしいと聞いたけど流石に今から準備?

 日本と同じなら窓から入る日差しで正午頃なんだろうけど早くないかい?

 むう~、面倒くさいと思っていたらいつの間にメイドさんがあてがわれてた。


 コロコロと衣装のラックが運ばれてくる。

 ここから衣装を選ぶらしい。

 女子高校生の二人は、普段きれないようなフリルがたくさんついたドレスに目を奪われている。

 意外に女の子だった。

 二人は、早々とドレスと共にウキウキと部屋に戻っていった。

 意外に逞しい、先ほどの荒れ具合はどこへ?

 私は……少しタイトで濃紺がポイントの白基調なドレスにした。

 ドレスを決めると、担当のメイドさんと助っ人メイドさんの二人と共に部屋に戻った。


「湯あみの用意をしますので、お待ちくださいませ」

「見学してもいいですか?」

「見学ですか? ヴィヴィオラ様は他の方と違って知っている事だと思うのですが……」


 いや、私も日本人なんだが? こんな姿しているけど!


「実は私も違う世界から来たんですよ。みんな勘違いしそうなのは、なんとなくわかりますけどーー」

「そ、そうでした。そうですよね。つい、魔人族の方が間違って来ちゃったと……でも、確かに見たことがないお色というか……はっ、私としたことが時間がありませんので」


 メイドさんが空のバスタブの中に、水色のつるっとしたビー玉ぐらいの石を置いた。

 するとゴポゴポとあら不思議、水が湧き出てきた。


「これですか? 水魔石でございます」


 水が出る魔法を込めた魔石らしい。

 魔石の魔力分の水を、魔力が少ない人でさらに適正属性がなくても取出せる優れものみたい。

 魔力が皆無の人は使えないのか、厳しい。

 水がある程度たまると今度はもっと小さな赤い石をいれた。

 今度は火魔石。

 これで風呂を沸かすのかぁと感心した。

 もちろん風呂を沸かすということは風呂に入るということ。

 メイドさんがガシッと私のパーカーの裾を握る。


「あぁ! 自分で! ぬぎぃ、ぬぎまーすぅ!」

「準備時間が3時間しかございません。お急ぎしないといけませんので!」


 他人の目の前で裸になるのが恥ずかしかったので「でも、嫌です」泣いたけど、強引に服をはぎとられた。

 グスン……。


「我々のお仕事ですので、ご安心ください」

「は、はい」


 ニッコリ笑顔を見せてくるが、安心できない。

 まずね、この身体に変わってから自分の裸をみるのがはじめてなんですよ。 

 それに大人になって下着まで脱がしてもらう。

 うぅぅ、は、恥ずかしい。

 私は人形、そしてメイドさんはお仕事と言い聞かせ感情に蓋をした。

 ほどよい温度になった湯に浸かるように言われ、滑らないように支えて貰いながらバスタブの中に足を入れる。


「ふわぁ、気持ちいーー。この温度、これがメイドさんの力……」


 湯加減が熱すぎずで最高だ。

 おっ、忘れてないけど忘れてた。

 パーカーで隠れていたのでわからなかったけど、身体は人間の女性とさほど変わらないかも。

 獣のように毛深くあるわけでもない、お胸も同じ。

 違うのは、人間の耳は無くなり猫耳になったのと尻尾が生えてるぐらい。

 配信で使用していたアバターが元だから、ボンキュッボンのナイスバディ。

 ナイス。

 素晴らしいですね。

 元の身体は……そんなに大きくなかったなお胸が。

 その身体の髪からつま先まで丁寧に洗われる。

 石鹸があるけど、シャンプーはないようだ。


「あの、髪の色を変える何かあります?」

「髪の色……かえる何か? かえるとはなんでしょうか?」

「えと、色を黒に染めるとか。何色でもいいんですけど」


 メイドさんは「髪の色をかえるなんてきいたことありません、申し訳ございません」との事。


「そちらの世界には髪の色をかえる魔法があるのですね。何のために変えるのですか?」


 意味……、身だしなみとかファッション……。


「なんでしょうね、たいして意味はなかったような。アハハ」

「見たことのない綺麗な髪色なのでそのままがよろしいかとーーそういえば、以前、国家転覆を狙った賊が、実在する貴族そっくりに変身していたのであるかもですね」


 助っ人メイドさんも「【変身トランスフォーム】魔法って聞いたわ」と。

 そんな魔法もあるんだ……。


「聞いておきましょうか?」

「えっ? いや、大丈夫です、大丈夫です。国家転覆しようとしてるとか疑われたら困るので」


 これ以上、怪しい奴になったら困る。

 今すぐ派手な容姿をかえるのは無理か。

 髪を切るのが一番かなぁ、ゴクリと喉がなる。

 お気に入りなアバターなのに……髪を切るのは命にかかわるぐらいの時にしよう。

 髪を乾かす間にオイルマッサージ。

 顔はパックして化粧を施す。

 お姫様体験だった。

 ドレスに、尻尾を出す穴をあけるのもできるメイドさん有能!

 この二人のメイドさんはあまり私に忌避観はないように見える。

 単なるプロフェッショナルなだけかもしれないけど。


「お名前聞いてもいいですか?」


 メイドさんの名前はリーナさん。助っ人メイドさんはベニカさんと言うらしい。

 彼女たちは見下すこともなく、普通に接してくれたのが嬉しくてこの城にいる間仲良くできたらいいなと思う。

 仲良くなったら、今日のようにコルセットをギューと絞られる事はなかったのかもしれない。

 口からひしゃげた蛙のような声をだすほどに辛かった。

 リーナさんに「何があろうともコルセットは緩めません」と言われたけど。

 コルセット締めに命をかけてるの?

 最後に、今日のドレスに合わないけど……アクセサリーも用意してくれた。

 赤い石が埋め込まれたピアス、ネックレス。

 元のアバター通りちゃんと猫耳にピアスホールが開いている。

 準備が終わる頃には、そんなこんなで日は落ちて遠くで鐘の音が6回聞こえた。

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