第8話 妹の視界
「みつ……けたぁ……」
「あっ……」
先生はいない。次の授業が始まるまであと数分なのに。狂った目は僕を捉えたまま近づいてくる。手に持っているナイフが移動するたびに蛍光灯を反射して、その存在を知らしめていた。
「もうおしまいよ!!!」
乱暴にナイフが空を切り、避けた僕は床に尻もちをついた。頬が傷ついてチリッと痛む。振り上げられたナイフを見て僕は全身が固まったように動けなくなった。
同時に優紀は母にやられたのだと悟る。
あの日、優紀も今の俺と同じ光景を見ていたのだろうか。恐怖で動けないまま、自分の最期を察していたのだろうか。
母はさらに声を張り上げて、奇声を発しながら僕をナイフで切りつけた。
「っ!」
遅れて痛みがやってくる。首に手を当てると、ぬるっとしたものに触れた。それは溢れるように僕の手を濡らしていく。
……切られている。
「お、おい! 押さえろ!!!」
「わかってる!」
生徒が何人か母に掴みかかり、すぐにナイフが床に落ちる音がした。僕の身体は後ろから引っ張られ、首に何かを当てられる。
「血、止めるぞ! 保健室!」
「早くしろ!!!」
瞬間、優紀が死んだ日みたいに、音が周りから消えた。聞こえるのは僕の不規則な息遣いだけ。グラグラと頭が揺れる感覚と浮遊感に身を任せ、僕はそのまま意識を手放した。
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