第6話 いい話?

「それでこれから会わせたい人が、その援助をすると言っている」

「え、なんで」


「優紀ちゃんが人助けしたからだ」

「人助け……」


「そう。その人はとても感謝しているんだ。何気なく助けた人がとんでもないお金持ちだったって話。作り話みたいだけど、本当にあるんだよ」

「そんな……」

「だから、前向きに考えておいて。そう本人にも伝えておいて欲しい」


 それだけ言うと、彼はにこりと笑って写真をしまう。今日は本当に、橋渡しのための話を持ち掛けに来ただけらしい。


「それと、神矢くんから伝言。"事情は知らないが、自分を酷使しすぎるな"だって」

「? どういう意味ですか?」


 かみや……? 知らない名前だ。これまでの人生で出会っていて、名乗られたのかもしれないけれど、全く覚えがない。


「さあ? まあ確かに君、窶れてるよね。神矢くんに余計な気を使わせないでよ」

「?」

「誰かに頼ることも覚えなよってこと。じゃあ」


 ひらりと手を振って彼は教室から出ていった。生徒が何人か、彼の背中をぼうっと見つめている。


「…………」


 なんだか少しだけ、肩の荷が下りる気がした。大丈夫。何があってもいいように、これまでの生活は続ける。でも、自分しかいないというプレッシャーが弱まった。優紀にとっていいニュースだ。早く教えてあげたくて、明日の朝に話そうとだけメールを送っておいた。


 学校に行って、バイトして、また学校に行く。きついけど、優紀の為なら頑張れる。……あと少しだ。


「…………」


 バイトを終えて暗闇の中足早に家に向かう。あと一つ角を曲がったら家が見えるときに、周囲の様子がいつもと違うことを感じた。家がある方向に、人の気配がするのだ。それも、一人ではない。


 少しだけスピードを緩めて僕は角を曲がった。そして目に入ったものに大きく目を見開く。


「な……!」

 ライトを消した救急車。止まっているのは、僕の家の前だ。

「っ……!」


 すぐに家に走り寄る。周囲に集まっていた人は近所の人で、僕の顔を見るなり、中に通してくれる。みんな、僕の名前を呼ぶだけだった。


「あのっ…ここの家の者なんですが!」

「お兄さんですね! 病院に搬送します! 乗ってください!」


 ストレッチャーに乗せられているのは優紀だった。処置を受けている途中も血が出ているのが分かる。優紀から目を離さずに僕は救急車に乗っていた。周りの音は耳に入ってこない。ただ優紀の姿を見ることだけしかしていなかった。優紀は意識がないのか、車の揺れにワンテンポ遅れて無機質に身体を揺らしている。

 少しだけ開いた目から生気は感じられない。手を握り、優紀に話しかける。その声すら僕自身の耳に届かない程、動揺していた。



「優紀……優紀!!!」



 病院について僕たちはすぐに引き離された。閉じられた部屋に何人もの人が出入りしている。その足取りが、ある時を境に勢いを失ったのが分かった。それが何を意味するのか、考える勇気はない。

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