第19話 最悪な未来

「ねぇ、神矢くん」

「どうした?」

「人を助ける方法っていろいろあるな〜ってオレ最近よく思うんだよね」



「話が見えない」

「何も起こらないならそれはそれでハッピーかもだけどさ。凝り固まった考えをぶっ壊して、もう一度考え直すのも悪くないと思うんだ。全部崩れちゃってもそうでなくても、最終的に救われれば正解ってことだよ」


 凱はそれだけ言って出て行ってしまった。結局何が言いたかったのかわからないまま取り残される。


「…………」


 死んだように生きている瀬川は、たった一人の妹のために生きている。妹を失えば唯一の生きがいを失うことになるだろう。生きている理由が無くなったら、あいつはどうするだろうか?


「そんなことは容易に想像ができる」


 まずは明日の瀬川の返答を待つ。五島の監視は彼の近くにいる知り合いに頼んだ。五島の近くにいながら奴をよく思っていない人間は多い。よく愚痴を聞かされたものだった。

 篠崎と同じで、俺と五島も折り合いが悪い。さらに機嫌を悪くさせないためには、接触は避けなければならない。むしろ接触して俺の印象を悪くしようかとも考えたが、殺しに躊躇いのない五島には効かない上に、瀬川の妹を守るための行動であることくらいは、いくらあの間抜けでも見抜くだろう。最悪俺と凱、瀬川の妹まで殺られる。



ーーーーー


「まずい。五島の奴、もう手を出したみたいだ」


 朝方、そう連絡をしてきたのは監視役の知り合いだった。瀬川がバイト中の深夜に家に押し入り、妹は襲われたらしい。凱にだって瀬川の家は調べられたのだから、五島もそれくらいできるだろう。状況を聞いたところ、妹の安否は不明だと。


 五島は母親には何もしなかったようだった。深夜は薬で眠っているらしいので、騒がなかったから放置したのだろう。それにこの状況なら、精神を病んで虐待をする母親は、犯人に仕立てるのに打って付けだ。またスマホが鳴る。


「神矢くん、もしかして話行ってる?」

「ああ。妹が襲われて安否不明というところまでは」

「そっか……妹さん、さっき亡くなったよ。瀬川くんが帰ってきて、救急車で運ばれた病院で」


 ざっと血の気が引いた。予想していた最悪が起こったからだ。それを予想していたのに、俺は何もできなかった。


「神矢くん。……オレが言ったこと、覚えてる?」

「?」

「”人を助ける方法っていろいろある”。瀬川くんはまだ死んでない。今からでも間に合うんだよ」

「お前……」

「ギリギリまで迷ってた。でも、今のオレじゃ……瀬川くんと妹さんを助けるどころか、神矢くんまで危険に晒しちゃう」


 意味がわからなかった凱の言葉。あれはこの未来を危惧した、俺へのフォローだったのだと今更わかった。あの日、五島と直接会話した凱にはこの未来が見えていたのだ。瀬川の妹が助からない、この最悪な未来が。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る