第18話 人を助ける方法
差し出された写真を見て、俺は首を傾げる。
「誰だ?」
「瀬川くんの妹。駅前でちょーっとヤバめのことに首突っ込んじゃったみたい。フォローはしたけど、どうかな……」
「一緒に写っているのは篠崎の旦那か」
「そー。篠崎さんは妹さんをすごく気に入っててね、行きたい学校の資金を集めるためにバイト探してるとか言うからその金持つって言ってるんだ」
「へぇ、じゃあ何がヤバめなんだ?」
聞いた話ではそこまでまずい組み合わせには見えない。確かに篠崎の旦那は世間的には気軽に肩書きを語れないけれど、一般人を巻き込むようなことは絶対にしないだろう。それにお礼のために金銭を援助するだけなら瀬川の負担も減るのではないだろうか。
「これ、篠崎さんが言い合いしてるところを彼女が止めに入ったんだけどさ。相手が五島(いつしま)なんだよね」
「は?」
「普通の子にはガラの悪い男が老人を責めてるように見えたんだと思う。彼女が止めに入って、周りから注目されちゃって、五島は怒ったまま退散」
「……なるほどな」
五島といえば、最近数多くのチンピラをかき集めて勢力を広げている男だ。若手ながらその手口は巧妙で多くの金を動かしている。ここの卒業生もフラフラしているところを取り込まれている話をよく聞く。
彼の活動時間は主に深夜なので明るい時間から出歩くなんて珍しいとは思ったが、さらに運悪く犬猿の仲である篠崎と鉢合わせてしまったのだろう。絡んでいたところを女子中学生に割って入られ、一般人の人目もあり撤退を余儀なくされた。
自分の言動を棚に上げ、恥をかかされたと思っただろうか。どうせ派手で悪趣味なシャツを着て、下品に声を荒げていたのだろう。
その辺は篠崎の方が上手くやれている印象だった。彼は上品に振る舞い、言葉も綺麗なものを選ぶ。何より一般人には特別優しくする。人が好きなのだと以前そう話していた。
「五島が酔っててくれればよかったけど、シラフっぽかったし。妹ちゃんのことは覚えられちゃってたよ」
「お前。直接五島と話したのか」
「フォロー入れたって言ったっしょ? ほんのちょっとだけね」
「はあ……次からは控えろよ。流石に庇いきれないこともある」
「は〜い」
凱は明日瀬川に、篠崎と妹のことを話に行くらしい。瀬川が金銭援助の件を簡単に信じるかは疑問だが、そこは凱が上手くやるだろう。問題は……。
「ねぇ、神矢くん」
「どうした?」
「人を助ける方法っていろいろあるな〜ってオレ最近よく思うんだよね」
写真を見つめる俺に凱がそう告げる。視線を上げると、その顔からはいつもの笑みは消えていた。
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