俺が変えたい人生
第17話 目
深夜のコンビニにまたあいつがいる。うちの校風に似合わない弱そうな面で、淡白な接客をしている学生バイトだ。確か名前は瀬川満澄。目立たないうちの一年生だった。
瀬川は俺の顔を見ながら受け答えこそするが、一切顔は認識していないだろう。ここ数日、着崩した制服で決まった時間に訪れているが、毎日抜け殻のようにただ仕事をしている。もちろん目の前に立つ俺が通っている不良校の頭であることすら知らないだろう。そして知ったところできっと反応すら示さない。
「いらっしゃいませ」
齢十五、六にしてどのような人生を歩んだらこんな表情に仕上がるのだろうか? こんなに何も恐れないような死んだ目ができるのか。そう興味を持ったのが最初だったかもしれない。
親友の凱に奴を調べさせた。次の日に分かったことだが、瀬川の家庭環境は二年前から終わっていた。最近は毎日のように母親からの暴力に耐え、眠らずに深夜に働き、学校の休憩中に泥のように眠っている。クラスでも当然浮いていた。そうまでして身体や精神をすり減らすのは何故か。答えは単純だった。
瀬川はなんのために生きているのか、それはたった一人の妹のためだった。
「ええ、珍し〜い。神矢くんがあんな子を気にかけるなんて」
「目がな」
「め?」
凱が自分の目を指差して首を傾げる。自然と凱の目に視線が吸い寄せられた。夜になったらニコニコしながら喧嘩に参加してくるくせに、やけに澄んだ目をしている。あいつとは大違いだ。
「頭ん中で色々考えてそうだが、空っぽの目をしている。……気になるんだ」
「へぇ……じゃあこのままだと珍しく助けちゃう流れ?」
「かもな」
借りのない他人を助ける柄ではない。慕ってくれる仲間や助けてくれた人に手を貸すことはあれど、俺の役に立つわけでもない、こんなたまたま出会っただけの弱そうな他人を助けようと思ったのは、大変珍しいことだった。
捨てられたペットを助ける感覚でもない。うまく言語化できない気持ちが俺の中に漂っている。
「ねぇねぇ、神矢くん。ちょっと」
「どうした?」
そこからまた日が経ち、俺の元に息を切らした凱がやってきた。彼が見せてきたスマホの画面にはセーラー服姿と杖をついた老人が写っている。
「誰だ?」
「瀬川くんの妹。駅前でちょーっとヤバめのことに首突っ込んじゃったみたい。フォローはしたけど、どうかな……」
「一緒に写っているのは篠崎の旦那か」
「そー。篠崎さんは妹さんをすごく気に入っててね、行きたい学校の資金を集めるためにバイト探してるとか言うからその金持つって言ってるんだ」
「へぇ、じゃあ何がヤバめなんだ?」
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