第16話 選んだ答え

「こ、この間はありがとう。おかげで助かりました……!」


 彼らとは母が乗り込んできた時に助けてもらって以来だった。その日の夕方にまた母に襲われてずっと病院にいたから。血だらけになった体操着は保健室の先生が洗って返してくれたらしい。お見舞いに来てくれた先生から誰のものだったか教えてもらっていた。



「もう大丈夫なのかよ」

「うん。元気になった」

「そ、そか、よかったな」



 ほとんど名前も覚えていないクラスメイトたちは僕が想像するより何倍も優しくて仲間思いだった。ガラは悪いけど、人情に熱くてすごく気転が効く。控えめに母親のことについて聞かれて、僕は知っていることだけを話した。



 母は今、僕とは法的に会えなくなっている。当然だった。神矢さんが助けに来てくれなかったら、僕はあの日殺されていたのだから。刃物に臆せず立ち向かってくれた人たちへの感謝は、してもし足りない。


「ミト。忘れもんだ」

「やっほ〜。久々の学校でいじめられてない?」


「神矢さん、凱くん」


 彼らの元に駆け寄ると優しく頭を撫でられた。もう日常になってきてその優しさに甘え慣れてしまっている。視線を落とせば神矢さんの手元には小さな巾着袋が握られている。


「これをかけないと弁当が味気なくなる」

「ありがとうございます。味わって食べますね」

「あと昨日話したことだが、ゆっくりでいいから考えてみてくれ」

「はい。わかりました」


 しんと静まり返る教室に戻る。


「おい。あの人、神矢成珠だろ。三年の」

「うん。訳あって居候してて」

「マジかよお前。どうやって知り合ったんだ?」


 わなわなと震えているクラスメイトの言葉に、そういえば神矢さんはどうやって僕を知ったのだろうと疑問が浮かぶ。初対面ではすでに知られているようだったし。今日帰ったら聞いてみよう。昨日の話のこともある。僕の進路を決める話だった。

 神矢さんの実家の葬儀屋の仕事じゃなくて、彼自身が発足した特別な仕事にスカウトしたいらしい。僕に務まるかはわからないけれど、彼と、凱くんと一緒ならなんとかなる気がした。


「みんなどうしてそんなに怯えてるの?」

「そりゃあ、あの人がこの学校の頭だからだよ」

「頭……? 重要ってこと?」

「お前なんっにも知らねぇのな!!!」


 クラスメイトとは打ち解けつつある。残りの一年生の時間も楽しく過ごせそうだ。それも全部、みんなのおかげ。

 僕はそっともらった巾着をカバンに仕舞った。




 人生の生き甲斐だったたった一人の妹を失った。でも僕はまたこの人生を生きたいと思う。たとえこの先の人生が辛いものだと約束されていても。




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