第15話 選ぶか投げ出すか
人生はどうしての連続だ。うまくいきすぎるのもつまらないし、うまくいかなすぎるのもつまらない。予想外の良いこと、予想外の悪いことを自分の力で消化していくしかない。
不規則な幸運と不運を辿って、結局それは調和される。でも少し前までの僕はそんなことすら考えなかったし、自分に幸運が訪れるなんて思っていなかったんだ。
あのまま刺されて人生を終えるものだと、そう思っていた。でも、僕は生き延びた。二回も刺されそうになって、それでもこの命は残った。
その日の夜。僕は神矢が置いていった本を手に取った。笑えるくらい手に力が入らなかったけれど、なんとか開くことに成功する。綺麗な天使が描かれた本だった。たまたま開いたページに先ほど彼が口にした問いが書かれている。
”君が辛い人生を約束されたなら、その人生を選ぶか投げ出すか。”
「お前は、どうする」
本の中には登場人物たちの答えが載っていた。
”一方はこれまでの幸せに感謝し、人生で幸せは十分味わったと、身を捧げました。
また一方は、これまでの苦難を思いだし、自分であれば幸せを見出し耐えうると身を捧げました。”
人生を投げ出す者は本の中にはいなかった。
僕はどうするだろう。あの地下駐車場で全てを手放して諦めようとした僕はもう心にはいない。憑き物が取れたみたいに頭がすっきりとしている。
「あれ以上の辛いことなんてもうないよ、だから……大丈夫」
せっかく助かったんだ。だから僕も、きっとその約束された辛い人生を選ぶだろう。助けてくれたみんなに、僕は借りを返したくなったから。いつか死んで優紀に会えた時に、幸せな僕の話を聞かせてあげられたらと思ってしまったから。
本の中からこちらに問いかける天使の口元が、にこりと弧を描いた気がした。
ーーーーー
「……!」
あの事件があってからかなりの時間をかけて療養し、久々に僕は学校へ顔を出した。そうするように神矢さんに言われて凱くんに引っ張ってこられたから。彼らとの関係性もすっかり変わった。頼れる優しい兄が一気に二人もできたようで毎日が楽しかった。
教室に入るなりその場にいる全員の目線が集まる。今だと思い、僕は彼らに頭を下げた。
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