第20話 反射
「ごめんね、神矢くん」
「お前が謝ることじゃない」
「そうかもしれないけど、謝りたくなったんだ」
朝日が顔を出し、重く暗い空気を明るく照らした。いつも通りちゃんと朝はやってくる。瀬川は今真っ暗いどん底にいるだろう。
きっとあいつは俺の名前すら知らない。なのに俺はどうしても、あいつの目を変えてやりたいと思ってしまっていた。
妹の早すぎる死を食い止められなかった俺に、何ができるのかはわからないけれど。
「……力が足りなかったのは俺だ」
ーーーーー
瀬川の妹の葬式は神矢葬祭で執り行われた。現役女子中学生の死ともあり、同級生が多く訪れ、とにかく人の出入りが多かった。瀬川は親戚の連絡先を知らず、母親が意識不明で不在の中、すべてを自分でやっていた。
親父もできる限りの手伝いをと従業員に指示はしていたようだったが、それがどれだけあいつの助けになったかは確かめる術がない。
「彼、関高の一年だろう。毎日のように深夜働いているというのは本当か?」
「ああ。夜コンビニに行くといつもいる」
「母親はもちろんだが、彼も療養が必要だな。高校生の体つきじゃない」
親父は表情を曇らせた。葬儀に訪れた感のいい人間は皆そう思ったのか、瀬川の身体をいたわる言葉をかけていた。それを聞いた本人はまた抜け殻のように同じ返事をしていたので、誰の言葉も心に届いてはいないだろう。
法的な手続きも済ませてようやくあいつが登校するらしいと凱から聞いた。それに今日は費用の話でうちに来るらしいことも親父から聞いている。様子を伺おうと腰を上げた。
瀬川の妹の葬儀は、費用をかなり抑えたと親父は言っていた。親父がそういうのなら大体金額に見当がつく。あれだけ働いていれば、瀬川に出せない額じゃない。
「すみませんでした、お金を待っていただいて。本当にありがたいです」
「とんでもございません。精一杯、寄り添わせてください」
「お前……」
「あ、神矢くん」
エントランスから声が聞こえて向かうと、そこには瀬川がいた。その傍には凱となぜか養護教諭の姿もある。瀬川は首を包帯で手当されていたので、何か怪我をしたのだろう。
「妹の件か」
「は、はい……」
瀬川は初めて、俺の顔を見て受け答えをした。目がちゃんと合っている。
「瀬川。今すぐに払えって話じゃないが、あれほどバイトを詰め込んでいたのなら、いくらか蓄えはあるんじゃないのか?」
「成珠。お客様の前だ。口を慎みなさい」
俺の言葉に、瀬川は大きく目を揺らしている。混乱しているようだった。親父の言葉を避けて彼を見つめてみる。
「バイト……蓄え……」
はっと彼は息を呑む。
「それはダメっ……!」
しかし、彼はその出費を反射的に制限した。
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