第24話 助けてくれた人


「信じられるのは自分だけだってずっと思ってたんです」



「瀬川……」


「みんな最初は助けてやるって顔をして、途中から何もしてくれなくなる。……当然です。一人一人に大切な自分の人生がある。僕は恨んでない。……でも、勝手に裏切られた気分になっていました」


「裏切られたことに変わりはないだろう。助けると決めたなら最後までやるべきだ」


「そう言えるのは、先輩のような一部の優れた人だけです。僕を含め、ほとんどの人間が自分の人生を生きるので精一杯。例え心から助けたいと思っても、他人に構ってはいられません」

「まあ、考えをその通り行動に起こせるものがなかなかいないのには同意する」


 瀬川が壊れかけるまで、全く誰も干渉していないわけではないようだった。一家の大黒柱を失った際に、中途半端な大人たちが助け舟を出したのだろう。そしてそれは、ちっとも役に立たなかった。


「期待している間は希望が持てて少し気分が楽になったけど、期待するのを辞めたらもっと楽になりました」

「それはーー」

「でもそうしたら、自分が生きる理由が見つからなくなった」


 地下駐車場で蹲っていた姿を思い出す。自分より年下の子供が死を受け入れたあの顔は、簡単に忘れられるものじゃない。


「死ぬかもと思った時に、自分でどうにでもできないならと諦める気持ちが膨らみました」

「…………」


「でもそこに、助けに来てくれた人がいた」


 期待しなかったから嬉しかったのか、心のどこかで期待していたから嬉しかったのかわからない。と瀬川がつぶやく。諦めていたはずなのに、命が助かったことに、そしれそれが自分ではなく他人の介入であったことが、彼の乾き切った心を少しだけ変えた。そこからの継続的な助けで、また彼の中で何かが変わったという。


「美味しいご飯があって、暴力に怯えずに寝られる場所がある。それにどれだけ救われたか知れません」

「それはあって当然のものだ。俺や世間にとっての当たり前をようやくお前が手にしただけだろう」


 瀬川は静かに首を横に振る。


「僕だけでは手に入れられなかったものです。それを、なんの利益もないのに分け与えてもらっている」


 ゆっくりとこちらに目が向いた。


「誰かの足を引っ張ってまで助かりたいなんて思わない。だから、貸し借りなしになるように、先輩に返し続けたいと考えます」

「お前……」

「使い物にならないなら、使えるようになる努力をします。だから、その……」


 彼の目には、恐怖の感情がのっていた。死んだような乾いた目に、それだけの感情が映っている。



「ここまで来たら、す、……すてないで……ほしいです」



 ああ、なるほど。ようやく考えていることがわかった。


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