第12話 諦め

 寂しい。心の拠り所を失って、これだけがあれば生きられるって希望もなくなって、ただ僕が普通にしていないと困る人がいるからそうしているだけにすぎなかった。勝手に死んでも誰かしらには迷惑になる。不良学校だと言っても学校に公的な機関から連絡が行くかもしれないし。連絡をする公的機関の人にとっても余計な手間。


 僕は誰の手も煩わせないようにただ命を繋いでいただけだ。心配なんて必要ない。放っておいていい。僕はただ、要求された金銭を支払って命を繋げばよかったんだ。……なのに。



 なのにこの人はそれをいつも壊す。理解ができなかった。壊れてしまったなんて理由にならない。僕をここで刺して、また迷惑をかける。そうやって生きていくんだ。これからもずっと。僕たちを殺したこの人に、一生救いはない。



「…………」



 目を閉じる。今の僕の力じゃ母には勝てない。酷使した体と負った怪我で、腕を上げるのも億劫だった。じわじわと視界が悪くなる。ぼやけていても光るナイフの位置はわかった。

 痛みを覚悟する。でもすぐにそれも感じなくなるだろう。何より心が楽になるはずだ。



「っ!」



 瞬間、僕は尻餅をついていた。足が立たなくなったのもあるけれど、反射的に避けたのだろう。まるで昼間の再放送だ。頭上の風をナイフが斬ったのがわかる。体に感じた衝撃で大きく視界が揺れて、首の傷が痛んだ。ああ、まだ痛い。まだ生きている。



「金をだせぇぇぇぇえええええ!!!!!!」



 刃物を大きく振りかぶられた。体に力が入らない。顔すらあげられなかった。でももういい、大丈夫。もう十分頑張った。何も未練なんてない。





 もう、諦めろ






「冗談じゃねぇっ!!!」

「ゔぐっ!!」



「……?」



 他人の気配を近くに感じたかと思えば、背中に手を添えられた。その人物は僕の頭をそっと抱き寄せる。



「眠って」



 暖かくていい匂いが僕を包み込んだ。命令のような言葉が麻酔みたいに僕の体に効いていく。視界を遮られて僕はゆっくりゆっくりと目を閉じていった。すごく久しぶりに、自然と眠気が訪れたなとぼんやり考えながら。

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