第3話 生きる方法
「……ねえ、にいちゃん」
「うん?」
「いつまで、こうしてんの?」
「優紀……」
登校しながら、妹は涙を浮かべてそう言う。本来学校に間に合う時間よりだいぶ早く家を出ているし、今はどこにいても気が休まらないだろう。中学を出たら寮制の高校に進学させるつもりで、多めにシフトを入れ始めた矢先だった。僕が家にいない時間が増えたせいで、心細い思いをさせてしまっている。そんな顔、させるつもりじゃなかったのに。
「母さん、最近ずっと怒鳴ってる。にいちゃんも殴られっぱなしだし、バイト増やして窶れてく。もう、ダメじゃん家。にいちゃんの怪我、治らないうちに増えてってるでしょ……このままじゃ、死んじゃうよ」
「……にいちゃんは大丈夫。それに、あと半年弱で、優紀は家を出られる」
「でもにいちゃんは?……このまま関高に通って、ボロボロになって……私、……わたしっ」
「心配いらん。そんな簡単に死なんよ」
「にいちゃん!!!!」
優紀は泣きながら、僕の目の前に立った。その目は鋭く睨んでいる。
「にいちゃんをこんなにさせてまで、あの家から一人だけででたいなんて思ってない!! 解放されるのはにいちゃんも、一緒じゃないとダメ!!!」
「あのね、優紀。」
「なに?」
「にいちゃんの生きがいは、優紀なんだよ。優紀が生きてる限り、にいちゃんは必ず生きて、優紀を守る。絶対死なない」
「にい、ちゃん」
「優紀が生きていてくれたら、にいちゃんはそれでいい」
冷たい風が、僕たちの頬を撫でる。いつか訪れるはずの春を必死に耐えながら待つことでしか、生きる方法はなかった。
ーーーーー
「瀬川?」
「知らね」
「あれじゃん?」
「あいつ、授業中以外はずっと寝てるからさ」
「…………」
ぼんやりと聞こえた声が夢を突き破って、僕の頭に響く。僕について誰かが話をしているのだろうか。少ない体力を回復できる時間は限られているのに、考えは回っていく。
このペースで行けば、後3か月で優紀の進学に必要な資金が集まる。そしたら在学中にかかるお金を貯め始めることになるが、少し猶予ができる。入学時に支払う分だけでも早く確保しなければ。そう考えている間に、僕の意識はゆっくりと落ちていった。
「おい」
「…………」
「起きろ」
「……?」
強引に揺さぶられ目を覚ます。目を開けると、見覚えのない男子生徒が三人立っていた。首元のバッチを一人だけつけていて、色を確認する。緑……二年か。
「なにか……?」
この学校では学年ごとに色が決められている。僕が属する1年は青が割り当てられており、制服に着けるバッジや校内でのスリッパの色などは青色のものを使用していた。
「お前、駅前のコンビニで働いてるだろ? 給料、俺たちに渡せよ」
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