第31話 綾斗くんを助けなければ!
「綾斗くんが誘拐されて監禁されてしまいました!」
慌てている様子の
驚いているように見えるものの、それでいてパニックに陥っているというほどの慌てぶりでもなく、いくらかの余裕が感じられる。
一刻も早く助けなければ! そう思っている一方で、死ぬわけではないはずだと冷静に現状について思考してもいたのだ。
彼女に呼ばれて集まってきた面々は誰もが同様に焦りを見せている。程度の違いこそあれども、一人として例外なく彼を心配していた。
「綾斗くんを助けなければいけませんね!」
「由奈ちゃん、どうしてそんなに元気なの……?」
由奈の友人、
彼女とは同じ人を好きになり、その事実をあまり気にすることなく恋バナをしている関係だが、今回ばかりは冷静ではいられなかったようだ。
「真奈美ちゃん、綾斗くんの一大事だよ! 彼は弱いから私たちが守ってあげなきゃいけないよ!」
「強い弱いの問題なの……?」
「恋する女の子は強くなるの!」
「みんなじゃないと思うよ……?」
恋をしているからと大目に見てきたところがあるが、どうも由奈は同年代の女子と比べて感覚がズレているところがある。
それでも真奈美は明るく行動的な由奈を好きでいて、彼女のおかげで自分も好きな人に「好き」と言えた。素直に感謝しているのだ。
それはそれとして、時折様子のおかしい彼女に言葉をなくしてもいる。
今日などがまさにそうだ。慌てている割に笑顔でどこか楽しげにさえ見えた。
由奈がふんふんと鼻息を荒くしている一方、他の面々は意外に落ち着いている。
ケンカや争い事が得意ではない人間が大半だからなのであろう。心配こそしているものの、たとえ誘拐されても彼が無事ならそれでいいと考える者さえ居た。
「居場所はわかっています。ただ問題なのは、反ハーレム派の人たちが勝手にそこへ行ってしまうだろうなってことで、トラブルになってしまうってことです」
「それは、そうなるんじゃないかなぁ? すぐケンカしそうな人が居たよ?」
「そこまでする必要はないのに。私は綾斗くんさえ認めてくれるなら、一生外に出さずに監禁しておくのも全然ありだと思う」
「それは、私もそう思うけど」
みんなに説明しつつ、真奈美には自分の考えを伝える由奈に、真奈美もまた悩むことなく返事をする。
できればトラブルは避けたい。ケンカはしたくないのが彼女たちの本音だ。
「とりあえずお話ししに行きましょうか。もう何か起こってるかもしれませんが」
「うーん……」
「そうねぇ。私たちも一緒に囲えるのなら話は別だけれど、綾斗くんと連絡が取れないなんてだめ。仲間外れはよくないわ」
由奈たちより年上であり、唯一の人妻である
綾斗が監禁されたこと自体は特別問題視していない。それ以上に重要なのは、その監禁したメンバーの中に自分たちが含まれていないことだ。
その場に集まったハーレム賛成派の女性たちは、「綾斗が幸せならばそれでいい」という考えを前提として持っていて、その上に自分たちの欲求を乗せようと、力を合わせて幸せになろうと話し合っている。
誘拐や監禁はともかく、仲間外れにされていることだけは認められない。
「場所がわかっているなら、行かなきゃいけないわね。話し合いは必要だもの」
「そうですね! みんなで行きましょう!」
「大丈夫かなぁ……野上くんは今頃怪我一つないと思うけど、私たちもそうなるとは限らないよ」
真奈美が不安を口にしても、賛同する者は少ない。
優先事項はあくまでも「野上綾斗の安否」なのである。
真奈美自身もそうであるとはいえ、彼女の場合は自分以外の、この場に集まった女性たちが怪我をしないかを心配していた。
しかし由奈や甘美をはじめ、大多数が自分よりも綾斗を優先しているようで、行かないなどという選択肢は考えてすらいない。
かくいう真奈美も「自分が一番まとも」だと思っていたが思考はほぼ同じである。
そこに居る全員、最優先はあくまでも野上綾斗。
彼が幸せで居るならばそれでいい。が、彼の隣には自分も居たい。
「じっとしていても何も変わりません! とにかく行きましょう!」
「そんな無謀な……」
「でも綾斗くんをそのまま放っておくわけにはいかないし!」
「それはそう!」
「じゃあみんなで行きましょう。怪我をしないように気をつけてね」
結局は作戦も何もなく、彼女たちも綾斗の下へ向かうことになった。
遅くなるとどういう事態になるかは現時点で全く読めない。
彼女たちはその日の予定を何もかも無視して移動を始めたのだ。
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