第33話 虐められたい&見守られたい女

 なんだか……外が騒がしい気がする。

 この部屋自体が防音なのか、実際部屋の中はめちゃくちゃ静かで、心を落ち着かせるような音楽が流されているのだが、なぜか妙にざわざわする。


 多分誰か来るだろうなーって予想してたから、騒ぎは起こるだろうって思ってた。実際何かがあっても受け止めるつもりでいたのに、今は実際何も聞こえないし、いざ本当にこの状況になると気持ちが落ち着かない。

 情報を遮断されてるのはマジで監禁だなって思って、やっぱり怖いもんだな。


「あの……つねりますか?」


 外でも何か起きてそうな予感がしている一方、こっちも大ピンチだ。

 特殊な願望を持つ女間めまさんが俺に迫ろうとしている。そりゃあ、悪い気がしないどころか嬉しさしかないのだが、本来ハードルが高いはずの世界へ俺を導こうとしていることははっきりわかっている。


「えーっと……」

「ほっぺただけでも……」


 恐る恐るって感じで手を握られて、彼女の顔まで移動させられる。振り払うのも失礼だしとりあえずそこは従った。

 指先がぺたってほっぺたに触れると、それだけで彼女はびくっと小さく震える。

 望んでるんだか怖がってるんだか。どっちにしろ可愛い。


「えへへ……こうして触れてるだけでも、ぽわっとしますね」


 うん。する。

 ぽわっとってのが何かってのはなんとなくわかる。ぽわっとしてる。


「あの、これを、こう」


 女間さんが俺の指をつまんで動かして、俺の指で彼女のほっぺたをつまませる。

 痛くしろ、ということなのだ。

 まあこれくらいなら、って応じたのが運の尽き。ついさっきの話だけど早くもおかわりのリクエストだ。


 痛くしてほしいっていうのは冗談でもなんでもなくて本気らしい。実際、さっき試しにやってみた時は嬉しそうだった。

 嫌がっていないなら、こういうのってDVにはならないよな……?


 そうは言っても他人に痛みを与えるとか、俺には結構ハードルが高い。

 殴り合いのケンカとかしたことないんだ。そりゃあ反射的にビビってしまう。


「ん、ふっ……」


 とりあえず指先でほっぺたを揉んでみる。

 絶対に痛くないくらいの力加減で、彼女は目を閉じて悩ましい吐息を漏らす。これはこれで、なんだか、いいなぁと思ってしまった。


「や、やってください……」


 目を潤ませてお願いしてしまった。

 そりゃ、痛くないんならそれだけで満足しないよな……。


 少し指先に力を入れてほっぺたの肉をつまむ。それを外側へ引っ張って、そんなに大した力は入れていないとはいえ、彼女のほっぺたが少し伸びた。

 ぎゅううっと、本気じゃないと思うが、多少の痛みがあるだろう力加減。気を遣うとはいえ全く痛くしないなんてやっぱり無理な話で。


「はっ、はっ、んぅ……!」


 顔を赤くして呼吸を乱して、明らかに女間さんの様子が変わっていく。

 興奮してるし、喜んでもいるみたいだ。

 ちょっとした痛みとはいっても俺が与えてるもの。自分でするのとは違うのかも。


「はぅ……もうちょっと」


 おねだりするみたいに、潤んだ目で俺を見上げてくる。

 もうちょっとって言うのはつまり、今より痛くしてほしいって意味であって。


「んっ、ふっ、はぁぁ……い、痛いですっ」


 もうちょっとぎゅうっと力を入れてみた。どの程度痛いのかわからないけど、そう言った時の女間さんは明らかに喜んでいるようにしか見えなくて、間違えてはない。

 中々どうして、苦手だと思ってたのにドキドキしてくる。


「おすそ分け」

「痛いっ⁉」


 油断してたら後ろから俺のほっぺたをつねられた。意外に容赦なくて普通に痛い。

 気付いたらいつの間にか背後にまあやちゃんが居た。謎と性癖の多い彼女がいつ部屋に入ってきたのか、少なくとも俺は認識してない。


「痛い?」

「い、痛い」

「気持ちいい?」

「あんまり……」

「でも、気持ちよくなってほしい」


 ヤバい、痛みで気持ちよくなることを求められている。

 別にそうなりたいわけじゃないんだけど……。


「やめてくれる?」

「やめない」

「えぇ……」

「あの、じゃあ、そのストレスを私に」


 まずい、変な感じの三角関係だ。

 言っちゃなんだが嬉しくない。

 俺がまあやちゃんによってが痛くされて、喜ばないからストレスが溜まると、そのストレスを女間さんにぶつける。うーん……ある意味効率的か?


 一旦は真面目に考えてみたけど、いや、やっぱり俺が痛いのがわからない。だって喜んでいないんだもの。

 しかしまあやちゃんは強行するつもりみたいで手を離してくれない。


 女間さんは期待した目をしている。

 気付けば俺の左手がもう一方のほっぺたに添えられていた。


「両手で思いっきり、どうぞ」

「じゃあ、私も」

「待って。一旦ちょっと待って」


 この状況を喜べる男は居るんだろうか。もしかしたらものすごく嬉しいことだったりするんだろうか。

 この状況であっても俺はモテているって認識でいいのか?

 昨日からそうっちゃそうなんだけど、もうわからなくなってきた。


「それ」

「いたたたっ⁉」

「あっ、んっ、ふぅん……♡」


 まあやちゃんに思いっきりほっぺたをつねられて、俺も思わず力が入って女間さんのほっぺたを強く引っ張ってしまった。

 なんだ、この時間は……。

 でも俺は捕まってるわけだし、断ってもやられちゃうし、どうしようもない。このまま付き合うしかなさそうだった。

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