第32話 独占主義VS縛り付けたい女
突然門の前に現れたのを見て、
「来たね」
刀を持った
自分が愛する野上綾斗に、何人たりとも近付けたくない彼女は、その一方で情報戦で他の女性に一歩遅れるところがあった。
夢見ているのはあくまで普遍的な恋人との関係。規則正しい生活、真面目に生きる自分と、奥手だが優しい恋人。学校帰りに手をつないで歩き、友人に話してもなんとも思われないようななんでもないデートをする。それが彼女の理想。
そのために彼女は綾斗を監視するような真似はしておらず、ただ気にかけている。
他の女性と比べて後れを取っているのは否定できない。
それでも凛子は普通とは思えない早さで綾斗の情報を手に入れている。
協力者が居るわけではない。ただ彼女が感づいただけだ。
山の上にある、誰が住んでいるのかわからない大きな屋敷。
その門の前に立った凛子はすでに刀を抜こうとしていた。
「ここに野上綾斗が居るな」
「うん、居るよ」
「そうか。それさえわかれば、お前たちが何を考えていようが望んでいようが、そんなことはどうでもいい」
すらりと抜いて、抜き身の刀を持った。
外であるが誰かに目撃されることを全く恐れていない。それどころか本気で彼女を斬りつけようとしていて、一切躊躇っていなかった。
その姿を見た清はにやりと笑って拳を握った。
両手に包帯を巻いており、拳を上げて構えると臨戦態勢になった。
「綾斗に近付く女は死ね」
「あはっ、怖いねー。じゃあもっと熱くなれるように言ってあげる」
嫌な予感がした。ぴくりと眉を動かした凛子にすかさず清が言う。
「私、綾斗とキスしちゃった♡」
一閃。
考える前に体が半ば勝手に動いていて、数メートルの距離を一呼吸で埋め、凛子は素早く刀を振り抜く。
常人では決して反応できないスピード。しかし清は、確実に反応していた。
首を狙って迫る刀を屈んで避け、頭上を刃が通り過ぎていく。その速度、彼女が今までに見たどんな攻撃よりも速い。
前へ踏み込んで拳を強く握り込み、今度は清が全力でパンチを繰り出した。
怯えることもなく一歩を動くだけで軽やかに回避。
凛子はすかさず返す刀で清の首を狙い、彼女は素早いスウェイでそれを回避した。
「あっは! すっご! 真剣だし本気じゃん! 当たったら死ぬでしょ!」
「当然だろうが! 綾斗に触れる女は悉く死ね!」
「あっはっは! あんたマジでヤバ過ぎ!」
真剣を振るわれていると知りながらも清は笑顔を崩さなかった。それどころか心底楽しそうに笑ってすらいる。
常人では何が起きているかわからないであろう高速。そのやり取りの中で二人は攻撃と防御を的確に行っていた。
凛子は見るからに卓越した剣術の持ち主。
目にも止まらぬ速度で刀を振り回し、素早い足さばきで無駄な動きが一切ない。
確実に急所を狙っていて、一太刀浴びただけで命を落とす。そんな気迫があった。
「すごいねー。でもさぁ、私だって負けないよ!」
「負けろ!」
「いやだね!」
対する清もまた素晴らしい動体視力と運動能力を持ち、全ての斬撃を紙一重で躱し続けていて、隙を見つけて自らも拳を突き出している。
空手ともボクシングとも思える、見事な動きから繰り出される無数のパンチ。こちらも一撃当たっただけで成人男性を悶絶させる威力がある。
凛子は的確に捌き、避け、決して退こうとしなかった。
目はギラギラと危険な光を灯しており、絶対に彼女を仕留めると決意している。
ほんの数秒、数十秒で数えきれないほどの攻防を行い、拮抗していた。
そして状況を変えたのは凛子の攻撃だ。
右手で刀を振り抜くと同時、左手で掌底を繰り出し、清の鼻っ面を打ったのだ。
「痛ぅ……⁉」
「弱い者は、綾斗に相応しくない! どけ!」
「そうはいくか! 私が勝つから問題ない!」
「どけェ!」
どちらも一歩も引かず、門の前で常軌を逸した戦いを続ける。
二人は絶対に諦めようとしない。そのためどちらが死ぬかという、命を賭けた戦いで決着をつけようとしていた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます