第3話 まだまだ急展開
剣道部最強の羽々乃先輩が真剣を振り回して、手芸部の結城さんがアクション映画顔負けの動きで回避する。
信じられない光景を前に俺はただただ立ち尽くすのみだった。
「先輩! 綾斗くんのためにです! 私たちが戦っても意味はありません!」
「黙れ! お前に綾斗のことを言われたくはない!」
世間じゃこれをモテと言うんだろうか。
そりゃ俺だって憧れたし、女の子に自分が取り合いされるなんて夢のような状況だろうと思っていた。
ところが、実際それを体感してみるとなんか違う。
「私を殺したら綾斗くんの傍には居られませんよ! それは綾斗くんのためにならないでしょう!」
「心配するな! 証拠など欠片も残さん! 私は暗殺稼業の出だ!」
「目の前で殺すなんて、綾斗くんに罪悪感を与えることになります!」
「そんなわけがあるか! 綾斗には私だけが居ればいいんだ! よしんば罪悪感を抱こうと私が癒して消してやる!」
殺すとか殺さないとか、そういうのモテに必要ある?
いや、モテる人が浮気したとか二股したとかそういう話ならあり得るだろうけど、俺は誰とも付き合ったことないしモテたこともないわけで。
初っ端からこれっていうのはちょっとレベルが高過ぎるのでは?
というか、現実味がなくていつまで経っても受け入れられずにいる。
「ハーレムは男の子の夢なんですよ! 私は綾斗くんの幸せのために言って――!」
「却下だ! あり得ん! 綾斗は私のものでしかなく、私は綾斗のものだ!」
発言だけ聞けば嬉しく思わないわけでもない。ただやっぱり、日本刀を振り回しながら言われちゃうとなんとも言えない気持ちになる。
もちろん怖い。だからってぼーっと見てるだけなのも罪悪感があるので、やっぱり声をかけないってのはだめなんだろう。
「あの、先輩……殺すとかそういうのはちょっと……」
恐る恐る声を出してみると、聞こえないくらい小声だったはずなのだが、羽々乃先輩がぴたっと止まった。
おや? と思ってるとこっちを振り向いて刀を鞘に納める。
ちゃんと刀を仕舞ってから先輩がこっちにつかつか歩いてきた。
反射的にビビったけど必死に耐えたら、先輩が俺の前に立つ。
「綾斗。怖かったのか? すまなかった。お前を傷つけるつもりはないんだ」
「え、あ……そ、そうなんですか。よかったです……」
目の前まで来られると、俺が反応する隙もなくあっという間に、手を握られて腰に腕を回されて抱き寄せられた。
まるで王子様だ。
どうやら羽々乃先輩は俺には優しいみたいで、顔つきが全然違う。「あ、本当に愛されてるんだ」って一瞬でわかるくらい目が優しい。
「わかった。お前の嫌がることはしない。あいつは見えないところで消しておく」
「ありが、ええっ⁉ いやいやそうじゃなくて!」
「そうですよ先輩! 殺さなくても道はあります! ハーレムとか!」
「私と綾斗の蜜月に入ってくるなァ!」
結城さんが声をかけてくると、羽々乃先輩は別人みたいな形相で叫んだ。その時ばかりはそりゃあ怖い。
でもこう考えると結城さんもちょっと怖い。刀を振り回してた先輩に対して全くビビらずに、一太刀も浴びずに、今も可愛らしい笑顔で俺たちを見ている。それもそうだしハーレム肯定派とか、どうしても忘れられない発言もあった。
先輩に抱かれてる俺は、色んなドキドキで微動だにせず、ただ抱かれてるだけ。
結城さんがじりじり俺たちとの距離を測って何かしようとしているのだが、野犬の如く羽々乃先輩が威嚇するので近付けないらしい。
「一緒にハグをしましょう! みんなで一塊になって!」
「黙れ! 触るな! 帰れ!」
なんだろう、この状況は。
ただまあ、俺が無視されるわけじゃないし軽んじられてもない。不幸中の幸いと考えればまだ……。
「そんなに争わないでください。お二人とも」
「え?」
「むっ⁉ 誰だ!」
また別の人が現れた。嫌な予感がする。
「綾斗のファーストキスの相手です♡」
「えぇええええええっ⁉」
「はぁあああああああああっ⁉」
あぁー……。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます