第4話 もっと急展開

「だってお姉ちゃんですもの」


 突然現れた女性……三年生の佐切理さぎり梢子しょうこさん。

 俺の幼馴染で、家族を除けば二、三人しか居ない緊張しないで話せる女性の一人。

 お姉ちゃんっていうのもまあ、言うほど間違いではないんだけど。実際に血の繋がりがあるとかじゃなくて、ただのご近所さん。


 ファーストキスの相手っていうのも……うん。間違いじゃない。ただ子供の頃の話でまだ幼稚園とかそれくらいだ。

 事実なんだけど、そんなに堂々と言わなくても。


「ぐはぁっ⁉ 綾斗のファーストキスがっ、すでに……⁉」

「うふふふふ」


 羽々乃先輩は結構なダメージを受けてるみたいだ。今にも吐血しそうなくらい青い顔をしてる。

 いや、だから子供の頃の話で……。


「構いません! 過去がどうあれ、今の綾斗くんを好きだから!」


 結城さんは案外平気そうだった。

 っていうかめちゃくちゃ告白されてる。顔が熱い。


「あなたたちが好きだの恋だの結婚だのと言っていても、私には関係がないの」


 梢子さんはなんか勝ち誇ってた。

 まあ、あの人からの好意は俺だってよくわかってるし、異常な愛情というか、弟みたいにめちゃくちゃな過干渉を受けてるなとは思ってたからそこまで驚きはない。

 ただこの状況に乱入してきて、自信満々に勝ち誇るとは思わなかった。


「なぜなら私はお姉ちゃんだから!」


 決め台詞みたいに言ってるが本当のお姉ちゃんではない。

 まあ、お姉ちゃん的な存在ではあるけど……。


「付き合うとか結婚とか、そういうのはあなたたちだけでやって。綾斗が誰を選んでも私は一生彼の傍に居る。お姉ちゃんだから」

「何っ⁉ そんなことが許されるか! 私と綾斗の新婚生活にまで入り込んでくるつもりだろう!」

「ええ、もちろん。だって私はお姉ちゃん。綾斗のことはなんでも知っている。綾斗が望むことはなんでもできる」


 前々からちょっとヤバいお姉さんだな、なんて思ってたけど、ここまでヤバいとは予想外だった。

 仲がいいだけにちょっと聞いてられない。だんだん怖くなってきた。


「女の子と話すこともままならない綾斗を支えられるのは、幼い頃から最も親しい女性である私だけ。寝る時もお風呂もトイレも一緒だったわ」

「なあっ⁉ くぅ、貴様ァ! 私が手に入れられない綾斗の幼少期を……!」

「今でも」

「今も⁉」

「うそうそっ⁉ それは嘘! どれも一緒じゃない!」


 マウントを取るために嘘まで言い始めた。

 子供の頃は確かにそうだったけどどっかの時点ではやめてる。確かにあまりにもやめたくないって駄々こねるから他の人より長かった気はするけど。


「くっ……とにかく、綾斗は私が幸せにする! 姉だろうが姉同然だろうが知るか! これ以上綾斗に近付けさせんぞ!」

「それはだめよ。私は今世も来世も来来世世も死後も綾斗と一緒なんだから」


 そうなの……?

 なんかそういう発言が多いし、みんな熱量高くない? 不安しかないんですが。


「みなさん、まじめに考えましょう。ハーレムについて」


 静かにしてると思った結城さんが口を開いて空気を変えた。

 あんまりいい空気とは思えない。

 多分これから説明が始まるんだろうけど、それも全然いい気配はしなかった。


「まじめな話なんです。みんながこれだけ綾斗くんを好きでも、私は絶対に身を引きませんし、それはみなさんも同じでしょう?」

「当然だ。というか身を引かないとはどういうことだ! 今すぐ引け!」

「私はどっちでも。お姉ちゃんなので」

「でもこのままじゃ埒が明きませんよ。もうお二人も気付いてるでしょうけど、綾斗くんのことを好きなのは、私たちだけじゃないんですから」


 え? またしても嫌な予感。

 あんまり喜べないのはこんな状況だからであって。


「綾斗くんを愛してる人はまだまだ他にも居るんです!」


 結城さんがそう言った直後、屋上の出入り口から、もしくはそれ以外の場所から、大勢の女性が現れた。

 正直、何が起こってるのか理解できない。

 まさかとは思うけど俺がモテてるとかではないよな?


「ライバルは49人居ます!」

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