第5話 49人いる!
もう頭が痛くなってきた。
ある日突然ラブレターをもらったと思ってバカみたいに舞い上がってたら、実際それはラブレターで告白までされたんだけど、どんどん人が集まってきて、ついには何十人もの女性に囲まれている。
俺は夢でも見てるんじゃないだろうか?
先輩が刀を振り回してたことといい、今や何も信じられない。
「ほら見てください! 綾斗くんを好きな人はこんなに……というよりここに来ない人も含めてたくさん居るんですよ!」
なぜ? そんなモテ男じゃないはずなんだけど。
友達すらほとんど居なくて、普段は大人しく過ごしてて、モテるような行動なんて多分取ったことがない。
なのになぜ大勢集まって俺を見てるのか。
「一人ずつ斬り捨ててると大変ですよ」
「問題ない。私一人で全員仕留める。証拠も残さん」
「それじゃ綾斗くんが心を痛めちゃいます」
「私が癒すから問題にはならん」
とりあえず、羽々乃先輩はすごく俺を愛してくれてるんだなーってことと、ものすごく攻撃的なんだなってことがわかった。
今も俺は羽々乃先輩の腕の中。「絶対に渡さないぞ」って強い意思を、抱いてくる腕の力強さから感じる。
抱きしめられること自体は正直嬉しい。
ただこの状況だと俺以外の人に向けている怒りをめちゃくちゃ感じてしまう。嬉しさを忘れそうになるくらい怖い。
先輩は明らかに話を聞くつもりがなさそうで怖い顔をしてる。
それなのに結城さんはまだ諦めていないみたいだ。
「争いはやめませんか? 私たちは同じ人を好きになって、嫉妬心があるのも独占したい気持ちもわかります。だけど綾斗くんを幸せにしたい気持ちは一緒。力を合わせればみんなで幸せになれますよ」
「却下だ! 綾斗に触れるのは私だけでいい!」
「んも~わからず屋なんだから」
先輩が怒鳴って、結城さんが呆れて。
状況はさっきまでと変わらない。変わったのはそのやり取りをもっと多くの人間が
見ているというだけだ。
今のところみんな静かにしているが、何を考えてるんだ? いや、何人かは目を見ただけでわかる。羽々乃先輩を睨みつけている人間は少なくなかった。
一歩間違えれば血を見ることになるかもしれない。
この状況ではむしろ羽々乃先輩を頼って俺からも抱き着きたくもなったが、多分そうすると悪い方向に進むし、俺は直立することしかできずにいる。
「じゃあ多数決を取りましょう。私と同じ意見の人は居ませんか? 男の子の普遍的な夢はハーレムです! 綾斗くんの幸せのために力を合わせましょう!」
「わ、私は賛成です! 私一人じゃどうにもならないので……」
小柄で前髪の長い子が手を上げながら前へ出てきた。
かなり勇気を出したんだろうって態度で見るからに必死そうだ。確かにあの子は刀で切りかかられても避けられそうにない。
ただびっくりすることに見覚えのない子だった。少なくとも親しい人じゃない。
「私は反対だ。そこの女のように一人ずつ消していくのが得策だと思う」
金髪ロングで片目隠れの長身美女が同じく前に進み出てきた。長い棒を持ってるんだけどまさか戦う系の人なのか?
残念ながらその人も知り合いじゃない。そんな人がなぜここに居るんだ。
「そもそも私は、彼に気安く触れているその女が気に入らないのだが」
「文句があるならかかってこい。綾斗を守れるのは誰なのか、教えてやる」
「ちょっ、それは、待って……! くださいっ。お、落ち着いてっ」
俺が声をかけると、みんなぴたっと止まってくれた。
とりあえず俺の声には素直に反応してくれるみたいだ。
「あの、とりあえず、今日のところは解散……しませんか?」
俺に言えたのは問題を先送りにするだけの、情けない言葉だった。
でも俺を尊重してくれているらしいそこに集まった人々は、そんな俺のどうしようもない発言ですら受け入れてくれたみたいだ。
まだ心の準備ができてなかったってのもあるのかもしれない。
渋々っていう顔の人も多かったけど、特に文句を言う人は居なかった。
今日はみんな大人しく帰ってくれることになり、微妙な空気が流れたまま、少しずつ屋上を後にしていく。
俺に声をかけてくる人も多い。知ってる人、知らない人、色んな人が居る。敢えて声をかけずに去っていく人も居た。
どういう状況なんだか、改めてよくわからなくなる。
これってやっぱり夢? それともドッキリ?
だんだん目の前から人が減っていくけど、ちっとも安心できない。
「綾斗、心配するな。誰が来ようと私が守ってやる」
「離れろ貴様。軽々しく彼に触れるな」
「黙れ」
羽々乃先輩と怖そうな人が睨み合っている。
どうとも言えないし間にも入れないし、俺は精一杯の愛想笑いで黙り込むことしかできなかった。
「ごめんね綾斗くん。こうなるかもしれないって思ってたけど言わなかったの」
俺を屋上に呼び出した張本人、結城さんが俺に声をかけてきた。
なんて言えばいいのか。「あぁ」とか「うん」とか生返事しか無理だ。
「でも安心して。私がみんなをまとめてみるから。ハーレム、期待してて」
そう言われても……。
そもそも俺がハーレムを望んでたわけじゃなかったんだけど。
でも違うとも言えないし、俺はただひたすら全力で微笑むだけだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます