第2話 さらに急展開
「そんなことは許さない」
俺と結城さんが手を繋いでお互いに微笑み合い、「あれ? キスなのか?」なんて思っていたその時。
ひんやりして思わずぞっとする声が俺たちを止めた。
「今すぐ綾斗から離れろ。その腕斬り落とされたいか」
屋上の入り口に、なぜか真剣を持った三年生の先輩が立っていた。
剣道部の活躍で全国的に知られてる我が校最強の噂がある女性、
有名人だからもちろん俺も顔と名前は知ってる。たまに通りすがりに声をかけられたりもして、珍しいことに少し会話したりなんかも経験としてあった。
遠目に見ててかっこいいし、いざ近付くと優しい。しかも身長が高くてクールで美人で刀がよく似合う。が、全く喜べる状況ではなかった。
美人とはいえただでさえ目が鋭いタイプ。しかも今日はやけに怖い顔をしている。
左手で鞘を持ち、右手で刀を持ってすらーっと抜かれた。
多分、模造刀じゃなさそうで本気のやつ。それを結城さんに向けたのだ。
「私の綾斗に気安く触るな」
「綾斗くんはあなたのものじゃありません。誰のものになるかはこれから彼が自分で決めるんです」
「いいや、私のだ。この世の誰が何を言おうと私以外が触れることは許さん」
えーっと……?
今ここで起きてることって夢ですか?
羽々乃先輩とは確かに会話するくらいは緊張しない間柄になった気がする。でも特に何もない関係なわけで……。
「綾斗の体も呼吸も将来も私のものだ。未来永劫に」
そうなの⁉
「どうしてそんな勝手なことを言うんですか! 彼の意思はどうなるんです!」
「黙れ。綾斗は私が幸せにする。お前に説明する義理はない」
明らかに普段と雰囲気が違って羽々乃先輩が怖かった。
っていうかそもそも銃刀法違反なので冷静でいられるわけもないんですが、いくら剣道部だからってなぜ真剣を……。
急に羽々乃先輩がこっちを見た。
結城さんには厳しいけど俺に対しては優しい顔をしてくれる。
「綾斗、大丈夫だ。私に任せてくれ」
「え、いや、あの……俺にはまだちょっと何がなんだか」
「羽々乃先輩、落ち着いて聞いてください」
結城さんは意外にも落ち着いているみたいだった。この状況でなぜだろうとは思うけど不思議と頼りになる。
さっきは声を荒らげてたけど今は冷静だ。
俺と手を繋いだままで一向に離さないのは気になるけど、この空気じゃ俺にはどうすることもできない。
「私はハーレム肯定派です!」
「斬り捨てる!」
とんでもないことを言い出した、と思ったら羽々乃先輩の姿が消えてしまった。
あれ? なんて思ってるとガキンって音がして、俺の近くの床に羽々乃先輩の刀が振り下ろされてて、結城さんと先輩が急接近している。
とてつもなく嫌な予感がした。
いや、違うな。ただ俺の理解が遅かっただけだ。
先輩は「斬り捨てる」ってはっきり宣言したわけで。
すぐそこで繰り広げられる光景は、当たり前と言えば当たり前なんだろう。
俺にはほぼ見えないくらいのスピードで刀を振るう羽々乃先輩。
それを軽快な動きでひらりひらりと避けていく結城さん。
「ふしだら女が! お前のようなものが綾斗の女になるつもりで生きるな! 性根から肉体から魂まで全部叩き切ってやる!」
「落ち着いてください先輩! コンプラ違反のオンパレードじゃないですか! そんなに差別的じゃ綾斗くんのためになりません!」
「黙れ! 綾斗のことは私と綾斗の二人で決める! お前が口を挟むな!」
「それはできません! 私も綾斗くんが好きだから!」
「ぐぅああああああああっ‼」
俺はそっと目を閉じた。
目の前の光景を見たくなかったわけじゃない。ただ、理解するのを諦めようとしたのは確か。
バトル漫画かな? そう思う光景を前にして俺にできることは、何も言わずに巻き込まれないよう、気配を消すことだけだったのだ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます