第23話 “管理人”:商屋あかね

「まあまあ、そんな怒らんと。もうちょっと優しいしたりーや」


 俺と八崎さんが急接近すると、ハーレム賛成派の一人が口を挟んできた。

 名前すら知らなかった人だけど多分八崎さんの友達なんだろう。顔を見た途端に八崎さんが「あっ」て声を漏らしていた。


「何やってんのアカネ。あんたハーレムやる気? バカなの?」

「ええやん、ハーレム。あたしはええと思ってんねん。ミナもどう? 一緒に参加せえへん?」

「あり得ない」


 ズバッと切られてたけど本人はあまり気にしていなさそうだった。

 あかねさん、っていうらしい。

 栗色って感じの髪をポニーテールにしてて、ちょっと細目の、にこにこして優しそうなお姉さんだ。


 八崎さんは確か1年先輩。ということはこの人もそうなのかもしれない。

 釘バット持ってる八崎さんを前にして余裕で、っていうかよく見てみるとみんな全然ビビってないんだけど、なんで俺だけこんなにビビってんの? 俺が変?


「そりゃまあ、好きな人被って萎えんのもわかるし、他の女が好きな人触ってんのが腹立つんもわかる。実際あたしもそうやし」

「じゃあなんでそっち居んの。そのまま居られると普通にぶち殺したいんだけど」


 こわっ。俺に見せた笑顔はあんなに可愛かったのにまるで別人みたいだ。


「よう考えてぇや。あんたもあたしも性分は似てるやろ? 好きな人は雁字搦めにして苦しくなるくらい束縛したいやん」

「まあね」


 そうなの⁉

 それを聞かされるとちょっと色々考えてしまうんですが。


「あたしとしては、束縛って感じもちょっとちゃうんやけどな。好きな人のことはもう全部管理したいっ。なんでもかんでもあたしの言うこと聞いてあたしの言う通りにしてほしい。全部やってあげたいから。あたしの力で幸せ感じてほしいからな」


 う、うぅん、おおぅ……。

 優しそうな人かと思ったけどあかねさんもちゃんとヤバい人だった。これで俺の幸せを願ってるっていうんだから、どう受け止めればいいのか。


「そう考えたらハーレム、ええやん。そりゃ他の女に触れられるってことに対して嫉妬はあるけど、今日誰と寝て誰とキスして誰と食事するとかさ、ぜーんぶ面倒見るのもおもろそうやなって思ったんや」

「は? あり得ないし。だったらアタシが全部決めてアタシと寝てアタシとキスしてアタシとメシ食えばいいし」


 ディープな話をされてる気がする……。

 ちょっと想像してみて、全部管理されるっていうのは、案外悪くないかも? なんて思っちゃったりするけど。

 ただこんな感じでみんなに囲まれてるとどの道いい感じにはならないんだろうな。


「メシとか、言葉遣い気ぃつけや? そういうの嫌がる男子っておるからな」

「アヤトが嫌がんないなら別にいいから。ねぇ、どう? メシって言い方イヤ?」

「え? いや……かっこよくていいと思います」

「じゃあこのままでいいや」


 八崎さんが可愛い笑顔になって俺を抱きしめてくる。

 結構大きめな胸に顔を埋めることになるのだが、別にそれを嫌がる素振りもなく、手で頭を押さえつけられるから逃げることもできない。逃げる気もありませんが。


「アヤトはアタシだけ見てればいいから。そしたらほら、この胸とか脚とかぜーんぶアヤトのものだよ」


 あぁ、このままでいいかもしれない……。魔性の魅力だ。


「そんなこと言ったらあたしもそうやでー。持ってるもんもお金も体も心もぜーんぶ野上君のもん。気持ちええやろ? な?」


 後ろからあかねさんが勢いよく抱き着いてきた。

 前後から挟まれる形になって色々柔らかい。まずい。


「触んなコラッ! 離れろお前っ!」

「言葉遣い悪いなー。あんまりビビらせると野上君に嫌われんで?」

「うっさ! いいから離れろよお前ぇ! 友達とか関係ねーから! アヤトに触っていいのアタシだけなんだよぉ!」

「ええやん別に。野上君だってサンドイッチされる方が気持ちええよなぁ?」


 はい、もちろんです。

 そうは思うけど言ったらビンタされるかもしれない。

 俺は絶対、何も答えなかった。

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