第22話 “ミナゴロっしょ?”:八崎ミナ

「いやハーレムとか全然無理っしょ。ミナゴロ決定なんだけど」


 いきなりギャルっぽい人が現れた。窓から。

 ここ2階なんだけど、今更こんなことで驚いてる場合じゃないか。


「言っとくけどアタシ、ギャルじゃないから」


 完全否定された。怖い。


「好きな男に他の女がベタベタ触ってるとかさー、殺すしかなくない? マジ肉片すら残す気ないから。全部燃やしてこの世から消すしかないじゃん」


 冷静な顔してめちゃくちゃ怖いこと言ってる。

 これはあれだ、羽々乃先輩みたいなタイプだ。自分以外の女性が俺に触るのは死んでも許せないんだろう。

 だんだんわかってきた。ただわかったところで全然止められそうにない。


「アヤトぉ、言っとくけどあんたもあとでお仕置きだから」

「えっ⁉ な、なぜ……!」

「あったり前じゃん。ハーレムとか舐めてんの? アタシがいんのにさぁー」


 そうは言うけど、俺たち知り合いですらないんですが……。

 ただ彼女のことは知ってる。うちの学校で、モデルをやってる美女が居るって噂になってたし、クラスメイトが持ってる雑誌を見たことがある。


 アメリカ人と日本人のハーフ、八崎やざきミナさん。

 派手な金髪ロングにバチバチのメイク、脚が長くてスカートが短い。

 男なら誰もが目を止めずにはいられないような人だ。

 見るからに気が強そうな顔なんだけど、だからこそファンも多いみたいで、俺は直接絡んだことないと思うがもちろん存在は知ってた。


 右手に釘バットを持ってる。見てから後悔した。正直見たくなかった。何十本も釘を刺してあるバットだ。

 多分あれで殴られたら釘が体に引っかかって顔とかズタズタになるやつだろう。

 想像するだけで痛くなる。で、それを持ってさっきの発言。絶対全員殴るじゃん。


「とりあえずあんたらるから。アヤトへの説教はその後」

「八崎さん! 落ち着いて話しましょう! ハーレムの良さをお伝えします!」

「ハイ無理~。うっさいから最初にあんたね」


 八崎さんが高いヒールの靴をカッて鳴らして、迷わずに結城さんに向かった。

 止めなきゃ。俺が言ったらまだなんとかなるかも。そう思ってるのに、初めて見た本物の釘バットってやつは想像よりずっと怖くて、「あれに当たったら」とか考えると足がすくんで動けない。


 両手でしっかり握ってバットが振り回される。

 結城さんがめっちゃ速くしゃがんで避けた。あれ絶対顔狙ってた。

 またバトルが始まってしまって、こうなるとますますビビってしまう。


「ウッザ。避けんなよ」

「話をしましょう!」

「あんた頭沸いてんの? ハーレムとかマジないから。聞く価値ないし」


 流石にこのまま見てるだけなのはまずいと思った。そう思ったら体はほとんど勝手に動いていて俺がびっくりした。

 これからもこんなことが何度も思うなら、傍観者のままじゃいられないだろう。

 俺がなんとかしなきゃって思って、八崎さんの前に立った時、めっちゃ後悔した。


「あ、あ、あのっ、やめませんか⁉ 怪我するのは流石に……!」

「アヤトぉ~、あんたも舐めてんでしょ? 学校で話しかけてもビビるからそっとしといてあげたのにさぁ。なに他の女とイチャイチャしてんの?」

「えっ⁉ いやイチャイチャなんて……してるか! 昨日から!」


 全然否定できないことに今更気付いた。アレもコレもヤバ過ぎる。

 俺は八崎さんに胸倉を掴まれて、鼻先が触れそうなほど近くで睨まれた。


「大体こーやって女に近付くからダメなんじゃん。アタシ以外に近付くな。二度と」

「えぇ……それは、中々難し――」


 無理って言いたかったけど怒られそうだし、精一杯なんとか歪曲して伝えようとしたら最後まで聞いてすらもらえなかった。

 突然俺の首に噛みついてきて、ちょっと痛い程度に歯を立てられる。


「いっ……⁉」

「ハッ。似合ってんじゃん」


 多分、歯型をつけられたんだと思う。

 キスマークより先に噛んだ跡をつけられるなんて、キスされたみたいで嬉しい気持ちもあるんだけど、素直に喜べない感じだった。

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