第21話 ハーレム形成委員会
藤原さんに連れられた俺は、空き教室に連れてこられた。
時間は放課後。授業は終わったし、今のところ他のみんなも落ち着いてるらしい。でもいつ揉め事になるかわからないからこういう話し合いも急がなきゃいけない。
俺の日常、これからずっとこんな調子なのか?
妙に気分が落ち着かなくて焦ってしまう。となるとこれが続くのはまずい。
「みなさんお集まりいただきありがとうございます。話し合いましょうか。綾斗くんと私たちのハーレムについて」
リーダーっぽく結城さんが口火を切って、教室に集まった全員に向けて言う。
改めて、ハーレムなんてものを認める人が一体何人居るって言うんだい、なんて否定的に思ってたら意外に居てしまった。
教室に集まってるのは、俺を除いて9人。
しかもうちの制服を着てない人まで居るから驚かずにはいられない。
「だけど顔も名前も知らないままじゃ綾斗くんのためになりません。まずは自己紹介からしましょう」
いや、よく考えなくても顔も名前も知らないのにハーレムに加わろうってどういうことなの? 好きでいてもらってなんだけど変じゃない?
よっぽど結城さんに意見しようかと思ったけど、そこに居る誰かを傷つけるのは本意じゃないし、何より目が合った結城さんにバチーンとウインクされて何も言う気がなくなった。この人は多分、話が通じないと思う。
当初の俺の想像では、せいぜい3人くらいかと思ってた。
もちろん結城さん、俺をここに呼んでくれた藤原さん、昨日の屋上で見た前髪の長い小柄な子。それだけかと思ってたのに。
紹介されるって言われて俺は緊張していた。実はハーレムとか関係なく、そこに居る人たちを見てつい反応してしまうのだ。
俺はこのまま黙っていていいのか?
早めに止めないとまずい。これはハーレムを喜んでる場合じゃなさそうだ。
「あの、結城さん? みなさんお知り合いですか?」
「ううん。昨日と今日出会ったの」
「小さい子が、居るんですが……」
「はい!
「
俺が特に心配してたのは、特別体が小さい二人の女の子だ。本人たちが言うように顔がよく似ていて、言われる前から双子だろうなって予想はしてた。
年齢が……年齢が明らかに下過ぎるのでは。
「愛に年齢は関係ありません」
「あるよ⁉ 特に俺がヤバいことになる側で!」
「心配しないで。色々やっちゃだめだよって本人には伝えてるから。まあ聞いてくれなかったらその時はその時ってことで」
「よくないって! 結城さんほんとよくないって!」
「ゆなって呼んで? ね?」
薄々感づいていたのだが結城さんは倫理観がどうかしてるかもしれない。ハーレム賛成派のリーダーみたいになってるし、見境なく味方を集めてそうだ。
というか、そんな小さい子に好かれるようなことは何もしてないと思うけど……。
心配な人は他にも居る。
逆に明らかな年上で、大人だなって思う女性。
岸辺先生の時ですらずいぶん驚いたけど、下手したら20代半ばの先生より年上の、落ち着いた雰囲気を醸し出している。
「あら? 私が気になるの?」
「あ、いえ……」
「
おおぅ、人妻……人妻? 現在進行形で?
未亡人とかならともかく絶賛結婚生活中の人?
「夫公認なの。何も心配はいらないわ」
結城さん?
「最近は多様性が囁かれてるから大丈夫。愛に決まった形なんてないよ」
得意げに親指立ててきやがった。
とてもそうは思えない俺が悪いんだろうか。
夫に送り出された人妻が、男子高校生のハーレムに入るために学校まで来たって?
人間の狂気を感じる。ちょっと理解できそうにない……。
「世の中、色んな愛が溢れてるってことですね」
「溢れ過ぎてちょっと……胸焼けしそう」
「じゃあ撫でてあげますね」
「あ、ありがとう……」
結城さんがどうにかなりそうな俺の胸を優しく撫でてくれる。
こういうところは常識的なんだけどなぁ……。
「その、ハーレムっていうのは、本気で? ドッキリじゃなくて?」
「もちろん本気。綾斗くんを幸せにしてあげたいからね」
「ドッキリならそれはそれで……」
「とんでもない! 綾斗くんに好きっていうことが嘘なんて、そんな傷つけるような嘘はつきたくないもの。だから、みんな本気だよ」
うーん、今の感覚ではそれはそれで困ってしまう。
「でもハーレムってさ、現実問題としてそんなのできるはずが……」
「大丈夫ですよ。私たちは綾斗くんを幸せにするために協力するって決めたんです。そのためならどんな手段もお金も使いますよ。綾斗くんを幸せにするために」
おぉー……これは、ありがとうって受け止めればいいのかな。
彼女たちも俺も、だめなことをしてる気がしてしょうがないんだけど。俺が諦めようとしてる今、一体誰が彼女たちを止められるって言うんだ。
「一人ではできないことも、みんなが居ればきっとできます。綾斗くんと私たちみんなが一緒に幸せになることはきっと不可能じゃありません」
本当にそうかな? とは思うけどもう口を挟めない。
異様な空気だ。みんなもうんうん頷いて完全に同意してる。
「ハーレムとはつまり、究極の幸せの形なんです!」
カルト教団かな?
「あはは……でも昨日見て思ったけど、あんなにケンカとかしちゃう感じなら、私たちが間に入れなくてどうしようもできないし。由奈ちゃんが声をかけてくれたから私たちも諦めなくて済んだの」
藤原さんが俺を見てそう言ってきた。
言われてみれば確かに、羽々乃先輩とか武さんとかハサミの子とか、実を言うと結城さんもなんだけど、バトル漫画かよって動きをする人たちは実力行使でいいんだ。でもそれができない人たちは何も言えずにいるわけか。
……と思ったけどそうでもない気がする。
バトルできるかどうかは知らないけど北沢みたいに間を縫って来る奴も居るし。
まあ、色んな人が居る中で穏健派の人たちがこうやって集まってきたわけか。
「由奈ちゃんは自力でどうにもできない私たちに希望をくれたんだよ。だから、変に思うかもしれないけど、少しずつでいいから認めてほしいな」
「そう言われると……うん」
「ありがとう麻奈美ちゃん。他の人たちも私が説得してみせるから。綾斗くん、一緒に幸せになろうね」
「……そうだね。頑張るだけの価値はあるのかなぁ」
なんか義務感みたいに、必死になって言えたのがその言葉だった。自分のことながら何を言っているんだろう。
でも誰も怪我しないで平和に済むならそっちの方がいいなぁとは思う。
とにかくハーレムは作らなきゃいけないみたいだ。
結城さんの圧に俺が逆らえない以上、もはやそれは既定路線のようだった。
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