第35話 守護者VSしてあげたい女

「君はどうしたい?」


 屋敷の裏手へ回り込んだたけ愛羅あいらは、かのうかなえに背後を取られて動きを止めた。

 彼女は守り手である。最優先は野上綾斗を陰ながら守ること。綾斗が誘拐されたことで自らの力の無さを嘆いていて、なんとしても助け出すと決意している。その矢先にかなえが現れ、暴力ではなく言葉で制止してきた。


 愛羅は背負っていた長い棒を手に取る。ゆっくり振り返って正面から向き合えば、かなえは背面で手を組んで、警戒することもなく直立していた。

 戦いたいわけではないらしい。となれば、背後を取られたのは油断かもしれない。


「綾斗のことが好きなんでしょう?」

「君には関係ないだろう」

「否定はしないんだね」


 反射的にむっとした愛羅はわずかとはいえ表情を崩してしまった。

 瞬時に引き締め直してかなえを厳しい目で捉える。


「だからどうしたというんだ。本人の承諾なく寝込みを襲って家から連れ出すなど、たとえどんな気持ちを抱いていようと誘拐に他ならない。君たちのしていることは誰がどう見ようと悪だ」

「周りの意見なんて関係ないよ。僕らは綾斗が好きというだけ」

「社会のはみ出し者が、堂々と語っていい言葉ではないな」

「君はどうなの? 彼が好きなのに敢えて伝えもせず、陰から守っているだけ。昨夜はずいぶん大変だったみたいだね」


 状況的にも言動を受けても、間違いなく彼女は犯人と近しい存在。

 昨夜、綾斗を守るために彼の家に近付く人影と激しい戦闘を繰り広げた。愛羅は誘拐犯は複数だろうと予想していて、自身の考えが間違っていなかったことを悟る。


「そうか。昨日の女とは違うが、やはり君も敵のようだな」

「敵じゃないよ。君たちの味方になりたいんだ」

「誘拐したんだ。綾斗の意にそぐわないことをする連中と話すことは何もない」

「本当にそれでいいの?」


 かなえは本当に不思議そうに聞いてくる。

 当然だ、と愛羅は迷いを見せない。


「私は彼を守ることができればそれでいい。不自由を感じず、信頼する人と共に生きていけるのなら、それほど幸せなことはない」

「自分が隣に居たいと思うでしょう?」

「思わない」

「陰ながら守り続けるっていうのも十分ストーカーだと思うけど、まあいいか」


 愛羅の考えについて納得したわけではない。思考を打ち切ってかなえは微笑む。

 態度や表情は確かに敵とは思えないほど友好的であるが、なんせ謎が多い。

 愛羅は警戒を一切解かずに棒を構え、いつでも彼女へ殴りかかれる姿勢を取った。


「彼の自由意思を優先するなら、なぜ彼の話は聞かないの? 陰でこそこそしているなんて彼を怖がらせるだけでしょう」

「……何を」

「本人と話してみましょうか」


 思わずぴくっと反応していた。

 最も守りたい人物であるが、それと同時に一番の弱点でもあるらしい。


「彼に会わせてあげる」


 愛羅は素直に喜べなかった。

 会うのが嫌なのではない。むしろ反射的に「嬉しい」と思っているのだが、その気持ちをかき消すかのように「恥ずかしい」が強烈に「嬉しい」に勝つ。綾斗に会うと言われた途端に激しくキョドり始めていた。


 見ればわかるほどわかりやすい動揺。利用してしまうことさえできてしまいそうな態度にかなえはぷっと吹き出してしまった。

 ハッとした愛羅は表情を引き締め直し、再び厳しくかなえを睨みつける。


「わっ、わかった。彼に会おう」

「会って話せる?」

「バカにするな! 彼に会って本人の意見を聞く。家に帰りたいと言うだろう。私が家まで連れ帰ってこの騒動は終わりだ」

「それならそれでいいけれど」


 かなえが何気なく歩き出す。

 道案内を始めたのだろうと気付くと、愛羅は棒を握ったまま後ろへ続いた。


「考える時間と受け入れるための時間が必要なんだ。彼は考えていることを行動に移すまで少し遅いから。それまでただ守ってあげたいだけなんだよ」

「連れていけと本人が言っていないなら認めるつもりはない」

「堂々巡りだね。結局僕たちだけじゃ」


 表情には出さなかったが、知った風に語るかなえに対して愛羅はむっとしていた。

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ヤンデレ☆クリーク ~色々なヤンデレに攻められて囲まれて争われる共存戦争~ ドレミン @kokuwadoremin

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