第12話 “親友”:上木陽
昨日から今日まで色々あった。
登校中は女の子に囲まれてたけど、学校に着くといつも通り。結城さんは俺に気を使っているのか、少なくとも人前ではあまり近付こうとせず。俺は数少ない友達となんでもない会話をして過ごす。
「なんだか突然モテ始めたみたいだね」
俺にそう言ったのは幼稚園で出会った友達、
女子だけど男子っぽいやつで、制服以外じゃスカートも履かない、女子なんだけど数少ない俺が平気で話せる相手だ。
梢子さんみたいに様子もおかしくないし、今まで色んな話をしてきた自覚がある。時には悩みを明かすこともあった。
勝手に知ってる梢子さんとは違って、俺については直接伝えたから知ってるっていう信頼感もある。
もうそんな噂になってるのか。
彼女の場合だけは深く考える前にそう思った。
「そうみたい……なんだけど、まだ自分でもよくわかってないんだよな」
「モテてるってことでいいじゃない。何か問題でも?」
「最近仲良くなりつつあると思ってた先輩が刀振り回してた」
「それは怖いね」
ちっとも怖がらずに笑顔で言ってきやがる。俺の気も知らないで……。
「僕から見てると君も悪いと思うけどね」
「え? なんで?」
「君、全然気付かなかったでしょ。周りの人から好意を持たれてることを。僕は結構前からわかってたんだよ」
え? そうなの?
いきなりだと思ってたのに、実はいきなりじゃなかったってこと?
そりゃ、俺がモテるわけないって思い込んでたし、いざ結城さんに告白されたら嘘なんじゃないかとすら思ったし、そりゃそうだろって生活しか送ってなかった。
なのに上木は気付いてた?
「気付いてたよ。君を好きな女の子がいること」
マジか。なんで教えてくれなかった。
「こういうのって自分で気付くものでしょう? それに、教えたら教えたで君はまずそんなわけないって言ってたよ」
ううん。悔しいが確かに言ってそう。
実際今もまだ嬉しいやら怖いやらで落ち着いてないのだ。どうも俺は自分が思ってるよりビビりなんだなぁと今になって気付く。
「ま、君が鈍いのはよく知ってたからね。だってまだ気付いてないでしょ?」
「え? 何に?」
「昨日、あの屋上に僕もいたんだよ。ちょっと後ろの方だったけど」
……え?
それは何? どういう意味? 賑やかし?」
「好きってことさ」
……ほーん?
それはあれかな? 冗談やからかいかな?
考えてみれば彼女はからかい上手だった気がする。そうか、そういうことかな。
「ほら、またそんな顔してる。心の中でごまかしてるでしょ」
バレた。俺の心の中まで見透かされてるのか。
「だけど別に気にしていないんだよ。気付かれなかったことも、君が大勢の女性に好かれていることも」
「へぇ……ちなみに、知ってたの? みんなのこと」
「もちろん。気付いていないのは君くらいのものだよ。大体の人は気付いてる」
マジか。ぐうの音も出ない。
「好きっていうのはその、付き合いたいとかそういう……?」
「もちろん。抱き合いたいしキスがしたいっていう好き」
「あーそう……そうなんだ」
俺は友達だと思ってたんだけど。実はそうだったんだ。
男女の友情っていうのは難しいね……。
「ただ他の子と付き合っていいと思っているんだよ」
「え? なんて?」
「付き合おうと思えばいつでも僕から告白できたんだ。でもそうしなかった。今までできなかったわけじゃなくて自分の意思でしなかったんだよ」
まさか、なんでも話してた相手がそんなことを思ってたなんて。
でもちょっと不穏な空気を感じてる。
本人がそれを言い出すこともちょっと怖く感じた。
「僕の願望としては、君が別の誰かと正式に付き合ってから寝取りたかったからね」
えぇー……。
「でもこういう状況で全部バレちゃったし、ハーレムを目指す子もいるみたいだし、少し考え直した方がいいかもね。ただ今僕が思うことは」
上木が手を伸ばして俺のほっぺたに触れる。
嫌な予感がしたけど動けなかった。
「君のその不安そうな顔、超タイプってこと♡」
俺の親友……あんまりよくない性癖なんだなぁ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます