第13話 俺がモテるのは多分君たちが悪い

 なぜ俺がこんなにモテてしまっているのか。

 いや、そもそもこれがモテなのかどうかも疑問があるのだが、ここらで一旦確かめておかなければならないと思ってる。


 時間は学校の昼休み。隣には変な性癖の親友。

 背筋がぞっとしたとはいえ、俺をよく知るだろう彼女に頼るのは自然な流れだ。


「いきなりだと思ってたけど、実はいきなりじゃなかったって言ってたよな」

「必死に理性を保とうとしているね。面白いよ」

「なんで俺がモテてるんだと思う?」

「なるほど。本人的には納得しがたいと」


 上木に話そうと思ったのは、結構なカミングアウトというか告白をした割に、こんな風にけろっとしてるからでもある。態度はいつも通り。緊張もしてないし、さっきのやり取りが嘘だったんじゃないかとさえ思ってしまうくらい。

 だからこそ話せた。色々気にしなければほぼいつも通りの雰囲気なのだ。


「さて、好きになった理由なんて人それぞれ違うだろうからね。僕の場合は君が困惑したり泣いている顔にキュンとしたからなんだけど」

「嫌な趣味だなぁ……笑ってる顔で好きになってよ」

「もちろん笑顔だって好きだよ。だけど、完成した料理に唐辛子をかけるみたいに、自分の手で少し刺激を加えたいって気持ちもあるじゃないか」

「その例え合ってる?」

「僕は、僕がしたことで君を泣かせたい。ショックを受けさせたい」


 なんだこいつ。最低の部類だな。


「最低の部類だな」

「あはは。そうやって君が気味悪がってるのさえ見てると楽しくなってくるよ」

「嫌だぁ、こいつ。まあでも前からそんなんだったか」


 そんなこと言われて少なからずショックだったが、思い返してみれば確かに俺が困るとか嘆くとか、そういうタイミングでもにこにこしてるのは当たり前だった。

 どんな話でも笑顔で聞いてくれるいい奴だと思ってたのに。真相を知るとそんなこともなかったって知ってしまった。ショック。


「君自身がどう思っているかは別にして、君は結構優しいやつだよ」

「だから好きになってもらったって? つってもそんな、好きになられるような出来事がなかった気がするけど」

「君にとっては些細なことでも、相手にとっては心が動くような大きな出来事だったかもしれない。こればかりは本人がどう思うかの問題だよ」

「確かに」


 変な奴なのにまともなことを言ってくる。だから仲がいいんだろうなって再確認。

 どう思ったかは本人次第か。

 俺が覚えてなくても、相手はしっかり覚えてるかもしれない。それだと俺がかなりひどい奴みたいにならない?


「でも本当に心当たりが……」

「まだ全員と話したわけじゃないんだろう? 話を聞いてみれば何か思い出すことがあるかもしれない」

「うーん、そうか」

「そうでもないなら、君が何もしていないのに惚れているってことになる」

「そんなことあり得る? アイドルとかじゃないんだぞ」

「僕としてはそっちの方が面白そうだと思うけどね。女難の相が出ているとか、特に理由なく好かれているとか、前世や悪魔的な何かが関わっているとかさ」


 笑えない話だな。

 もし本当にそういうのが出てきたらどうしよう。

 現代日本で刀振り回す人に出会ったんだ。暗殺がどうとか言ってたし。本当に悪魔が出てきたら俺はちゃんと驚けるのかな。


「流石に悪魔とかは出てこないでほしいなぁ……」

「僕は出てきてほしいよ。その時の君の顔がもう目に浮かんでいるから。ふふ、すごく情けないね」

「やめろ」

「心配しなくても誰かが君を守ってくれる。僕なら思わず悪魔に君を差し出してしまうかもしれないけど、他の人はそんなことはしないだろう」


 何言ってんだこいつ。差し出すなよ。

 そんなこと言われても全然安心できない。

 まだあと何十人もいるのは確定で、これから誰に会うのが全くわからないんだ。


「とにかく逃げずに話し合ってみるべきだよ。一人ひとり丁寧にね。正面から向き合えば小心者の君でもどうにかなるかもしれない」

「そういうことかぁ……そりゃそうだろうし簡単に言うけど簡単じゃないからな」

「まあまあ。例えば結城さんはどうして彼が好きなんだい?」


 上木がここにはいない結城さんの名前を突然呼んだ。かと思ったらいつの間にか俺たちの傍にいて輪の中に入っている。

 ひょっとして忍者? 近付いてきたことに全く気付かなかった。

 その登場なんかが心臓に悪いんだが、本人は理解してるんだろうか。


「私は綾斗くんの全てが好きだよ」

「おやおや。お熱いね」

「そんなのんきな……」

「全てが愛されてるんだよ? いいことじゃないか。世の既婚者だろうがモテ男だろうが女性から不満の一つや二つは持たれているものさ。でも君にはそれがないって言われているんだから」


 そう言われるといいことみたいに聞こえるかもしれないけど、逆に言えば、不満の一つすら持たれてないってのは異常なのでは?

 実を言うと一番怪しいのが結城さんだったりする。ハーレム推進派だし、羽々乃先輩に斬りかかられてひょいひょい避けてたし。

 得体が知れないっていう意味では一番こわ――。


「綾斗くん」


 突然、手を握られる。

 結城さんは下から俺の顔を覗き込んできてて、かなり近い距離で目と目が合う。


 あっと思った時にはもう遅かった。

 素早いって感じじゃないけど気付いた時にはもう迫られていて、唇が合わさって、優しいキスをされる。

 隣には上木がいるのに、そんなことも忘れてしまう衝撃。顔が離れた時に俺に見えてたのは頬を赤くしてはにかむ結城さんだけだ。


「えへへ♡ またしちゃったね」

「おっ、う、うん……」


 ん~……好きだ。好き。

 なんか素性とか性格とか掴み切れてなくて怖い気もするんだけど、一回キスされるだけでもうそういうのが全部どうでもよくなる。

 俺ってチョロいな……でも彼女できたことない男なんてこんなもんだろう。


「ずるいね君たち。アツアツであてられてしまうよ」


 野上、って名前を呼ばれて振り返った瞬間、上木の顔がすぐ目の前にあってあっと思う暇もなくキスをされる。

 唇同士で、親友だと思ってた女の子と。

 何をどうって、わけがわからなくなったが嫌ではなくて、きっと俺はめちゃくちゃパニックになってたんだろう。一瞬だけですぐ離れて、上木の嬉しそうな顔を見た。


「ふふふ、バカ面♡」


 その言い方はいくらなんでもひどいんじゃない?

 ごまかすみたいにそう思いながらも、正直胸がドキドキしっぱなしだった。

 キスだけでこの威力……やっぱり俺はチョロいのかもしれない。

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