第14話 “誘惑ぶりっ子”:夕見華子
「先生すいませぇ~ん。野上くんが体調悪そうなのでぇ、保健委員の私が保健室に連れていきまぁ~す」
昼休みが終わって五限目。
授業が始まってほんのちょっと経った時に唐突に言われた。
俺は体調が悪くなんてなってない。だからいきなり呼ばれて驚いていたところだ。
「そうなのか野上。じゃあ夕見、連れていってやってくれ」
「はぁ~い」
「え? いや、俺別に……」
「行こっか~野上くん」
目の前にやってきたのは
ゆるふわ系の見るからに外見に気を使った可愛い子で、鼻にかかった声が特徴の、わりとわかりやすくアレな子だ。
クラスじゃ根明のグループに属してて男子ともよく一緒にいる。
まさか、それはないよなぁ。
なんて思ってたけど、そういうことが昨日から起こり続けてるんだった。
俺はてっきり彼氏がいると思ってた。色々なことが気になり過ぎる。
「ごめんねぇ~。いきなり呼び出したりしちゃって~」
「あ、いや。それは別にいいんだけど……」
夕見さんに連れ出されて、俺たちは廊下を歩いた。
目的地は言ってた通り保健室……だと思ってんだがどうやら違うらしい。
保健室に行くために一階下へ向かおうとした途中の、階段の踊り場で足を止めて、夕見さんは俺に振り返ってきた。
「ねぇ~綾斗くん」
「綾斗……」
「ゆなちゃんとちゅーしたのぉ? うぅ~ずるい~」
一言、二言ですぐに理解した。
これはつまり、そういうことだ。
バカみたいについてきちゃったけどまずかった。多分、俺はもう逃げられない。
「ぐすん……私だって綾斗くんのこと好きなのに。話しかけてもらおうと思って近くにいたり、嫉妬してもらおうと思って他の男の子と話したりしてたのに」
「えっ、そういうアレだったの?」
「一緒にカラオケ行こーって誘ったのに……」
「え? 誘われ、あっ。あった……」
「それも忘れてたの? ぐすん、ふえーん……! 私、こんなに綾斗くんのこと好きなのに相手にされてなかったぁ……」
なんていうか、まずい気がする……。
これ以上踏み込んじゃいけないって気持ちと、嘘か本当かわからないが、流石に泣いてる女の子を無視できないって気持ちが戦ってる。
この時点で彼女の作戦の内なんじゃないかとも思ってしまいながら、とりあえず、この場は慰めようと決めた。
「ご、ごめん。俺が気付かなかっただけで、別に無視したつもりは――」
「言葉だけじゃ、だめ」
気付いた時には手が掴まれてて恋人繋ぎをされていた。
指が絡んできて、なんか、妙にエロい。
「んぅ、綾斗くん……」
あっ、ヤバい。
そう思った時にはもう、首に腕を回されて、つま先立ちになって顔が迫ってきた。
避けるなんて考えは俺の中にない。夕見さんにキスされて、俺は全く動けないでバカみたいに突っ立っていた。
「んっ……ふっ……」
やわらかい感触が、無理矢理にじゃなくてそっと優しく押し付けられるみたいに。目を閉じることも忘れて多幸感に包まれる。
ちゅっ、ちゅって何度も啄んできて、ぎゅっと押し当てたり、唇をはむはむされたりしていた。俺は無防備に受け入れるだけ。緊張で全く動けない。
それだけでも驚いてたのに、舌が、俺の唇をつついてきた。
どうすればいいかわからない俺は固まってるだけ。積極的に彼女がリードしてくれていてどんどん先へ進もうとしている。
俺の口の中に、夕見さんの舌が入ってきて……。
俺の舌がぺろって舐められて、なんかもう、頭が爆発しそうだ……。
「ん、ふぁ……えへへへ♡ べろちゅーしちゃったね」
ようやく離れて、乱れた呼吸を整えようと必死に息をする。
頭の中が真っ白で、何を言ったもんだか、もう何もわからない。
俺が何もできずにいると、夕見さんはまた顔を寄せてきた。
「ね、もっかい」
こんな可愛いおねだりを断れるはずがないだろう。
俺が小さく頷くと、また夕見さんから、そっと優しくキスをしてくれた。
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