第17話 君と騒動と俺
「お前ら全員なで斬りだ!」
あわわわわっ、羽々乃先輩が来てしまった⁉
岸辺先生や他校生、夕見さんとごちゃごちゃしていたせいで気取られてしまったみたいだ……。これはかなりまずいって俺でもわかる。
「綾斗、少しだけ待っていろ。今私が助けてやる」
別に捕まってるわけじゃないんだけど、先輩の目にはそう映ってるんだろうってことがだんだんわかってきた。
少なくとも先輩を怒らせるのはまずいってことは確実だ。また刀を抜いて、ここに居る俺以外のみんなを斬り捨てようとしてるらしい。
俺が説得すれば止まるか?
いや、夕見さんはわが物顔で俺に抱き着いてるし、先生が手首を握って止めてるとはいえ鉈を持ってる女の子も居る。ちょっと状況がややこし過ぎる。
き……キスとかすれば、ワンチャン全部が丸く収まったり、しないかな?
もっと無理だ。武器を持ってる二人がじっとしてるはずがない。
「羽々乃! 刀を持ち出すのはやめなさい! それは校則違反よ!」
「黙れ! 教師とて許さん! 綾斗に触れる者は誰であろうが処断する!」
「私もそう思います……別に私がそうなりたいわけじゃないけど、本当に彼に相応しい人を選ぶべきです。それ以外は間引く」
「んぅ~? 難しい話わかんなーい。私はあ~やが好き~」
三人の時でもそうだったのに、四人になってさらに混沌としてきた。
きっと俺が止めた方がいいんだろうけど、この荒れた状況で一体誰が俺の話を聞いてくれるって言うんだろう。
そう思ったけど、羽々乃先輩は俺のために言うことを聞いてくれる瞬間もあった。すぐに他の女の子を斬りたがるけど昨日から今朝まではなんだかんだ斬らずに見逃してくれてたし、可能性はなくはない。
夕見さんが引っ付いてるのがネックとがいえ、言ってみる価値はある。
「り、凛子先輩! 暴力はやめましょう!」
「ああ、わかった。お前に張り付いてるその女を斬ったらもうやめよう」
「あぁーやっぱりか⁉」
「えぇ~? 私ぃ~?」
絶対見逃さないだろうなぁ、ってところをまさにズバッと刺された。
あれだけ嫉妬心を見せてくる人が俺の腰に腕を回して抱き着いてくる女の子を見逃すはずもなかった。
刀はもう抜いてるし、ほっとくとマジで斬り捨てられそうだ。
「みなさん! 今こそ改めて話し合いませんか! ハーレムについて!」
なんて思ってたら結城さんが現れた。なぜこの状況に気付いたんだ。
「私はハーレムを作っても気にしないわよ。これからもずっと綾斗の傍に居るから。お姉ちゃんだもの」
ハッと気付いたらいつの間にか梢子さんまで居る。
みんな俺に盗聴器かなんか付けてんの? どうしてこうも抜群のタイミングで駆け付けられるんだ。
なんだか嫌な予感がする。
もうすでに収拾がつかないのに、これ以上人が集まってきたら……。
「なんだかとても楽しそうだね」
「来たな、愉快犯……」
「失礼な。純粋な君への好意を持つ人間だよ」
話を聞きつけたんだろう、上木がいつの間にか俺の背後に立っていた。せめて気配くらいは感じさせてほしい。
こいつはきっと楽しんでるだけだ。目的も不純だし、助けてくれそうにない。
「だんだん盛り上がってきたね。気を付けた方がいいよ。君を心から愛しているいたいけな少女たちがこういう状況を見逃すはずないから。我こそはと集まってくるのは自然の摂理だよ」
やっぱりそうだ。俺のこと、俺の近辺で起こってることを、みんな理解した上でこうして集まってきているんだろう。
ずっと監視されてるのか? 連絡網みたいなものがあって誰かが呼んでるのか?
何が真実だとしても、「あり得ない」と思ってしまうこの状況こそ、今の俺の当たり前になりつつあるらしい。
正直に言うと、ハーレムとか、ちょっと期待してるところがあったんだ。
結城さんとキスして、羽々乃先輩に抱きしめられて、夕見さんにキスされて。こんなの絶対だめなんだろうなぁなんて思いながら、倫理観とかそんなの忘れるくらい、どうしようもなく幸せを感じていたんだ。
今目の前にある光景を見ると、そりゃ無理だろうなって思う。
凶器持って「斬る」とか「殺す」とか、まさか自分の人生でこんな光景を本当に見るとは思わなかった。
「どけお前ら! どけば後回しにしてやる! まずは綾斗に張り付いているそのふしだら女を斬り捨ててやる!」
「ねーあ~や、ここうるさいね。私の家行こ?」
「許せない」
「あなたたち校則違反よ! 武器を下ろしなさい! 夕見、あなたも不純異性交遊はいけないわ! 私が野上に指導してあげるから、せめてそれからにしなさい!」
モテ男が女の人に取り合われてるのとか、羨ましいなーくらいに思ってた。
どうやら俺もそうなれたみたいだ。なのだが、実際体感してみるとこれってすごく気持ち的に大変で、俺自身がどうにかできるのかって疑問もあって、本当に何も言葉が出てこなくて突っ立っているくらいしかできない。
「みなさん、落ち着いて聞いてください! 私たちは同じ男性を好きになった同志、つまり仲間なんですよ! 争いはやめて、みんなで綾斗くんを愛しましょう! そしたら綾斗くんは毎日ハッピーです!」
「うふふ、綾斗ってばこんなにモテモテになっちゃって。あなたの魅力に気付いてくれる人が居てくれてよかったわねぇ」
人数が増えてしまって、もうどうにも手に負えない。
元々俺には負えなかったんだけどこれから何もできなくなる一方だ。
「上木」
「どうかしたかい?」
「例えばなんだけど……俺がこの中の誰か一人を選んだらどうなると思う?」
「選んだ相手によるけど、誰かが死ぬのは間違いないんじゃないかな」
「そんなぁ」
わかってたことだ。でもそうはっきり言われると意外と落ち込む。
「私を選んでくれるってことぉ~? 嬉しい♡」
「いや……そうは言ってないよ」
「野上綾斗さん!」
あ……今朝の心中少女だ。
またハサミを持って。あらあら、まあ。
「私と一緒に! 心中しましょーっ!」
また俺を殺そうとハサミを振り上げながらこっちに走ってきた。でも今度は正直、慌てていない。
ここに居る人が多すぎてもうお腹いっぱいって感じだったのもあるけど、そこに先輩が居るからだ。
「また来たのかお前は! 先にも言ったが、綾斗が心中していいのは私だけだ!」
「そんなの嫌です! 私が心中したーいっ!」
「黙れ!」
ちょっと遅れて外から武愛羅さんもやってきた。
窓を破ってダイナミックエントリーだ。大胆だなぁ。
「大丈夫か! 心配するな、私が守る!」
「帰れ! 足の遅い守り手などいらん!」
「貴様には意見を問うてない!」
「黙れ!」
みんな元気だなぁ。
あまりにも忙しなくて大勢で、こうなっちゃうと俺が思えるのはそんな、程度の低い感想だけだった。
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