第29話 “虐められたい”:女間めぐみ

「あの、お暇ですか?」


 また新しい女の子が来た。

 何人来るんだ。

 ただ嘘か本当か知らないけど、全部で49人くらい居るらしいって話を聞いたから、それを考えるとまだまだ会ってないくらいか。


 やってきたのは小柄な子で、深い感じの茶髪セミロング。自信がなさそうな感じでおどおどしてる。

 ただ顔を赤くしながらじっとこっちを見てきてもいて、視線を外さない。


「まあ……暇ですね。何もなく」

「それは何よりっ」


 喜ばれてしまった。

 その子は俺の目の前までやってきて、何も言わずに俺の右手を取る。


「私、こういう日が来るとは思わなくて……でも来てしまったからには何かせずにはいられなくて」


 そうなんだ。だから閉伊さんに力を貸してるって感じかな。

 そんなことよりいきなり手を握られてるのが気になって仕方ない。というか、ただ握られてるだけじゃないっぽくて、ゆっくり移動させられていく。

 導かれるみたいに、何か言う前に彼女の胸に……。


「え? あの、ちょっ⁉」

「はぁぁ……」


 掌全体に、柔らかくて温かい感触が広がる。

 ぎゅっと押し付けられて、俺はこの瞬間を忘れないだろう、っていう感触が、電気が走ったみたいに俺の脳に刻み込まれる。


 ずっと触ってたい……いやいや! あまりの幸福感におかしくなりそうだったが、いきなり過ぎないか⁉

 そりゃまあ、今までもいきなりエロい感じになることがあったけども……!

 はぁ、ちょっと、落ち着かない。しかも離してくれない。正直嬉しいんだけども。


「こういう風に、されたくて……ずっと、妄想してたんです……こういうことを」

「え、えぇ?」

「私は、はぁ、好き勝手にされたいんです……体を」


 とんでもないことを言い出してる。

 俺の右手は、彼女の手によって胸にぎゅっと押し付けられて押さえつけられ、俺の意思では離せない。断じて俺が離そうとしてないわけじゃない。

 大きいと小さいの中間くらいの柔らかい膨らみが、ふわっと俺の掌の中にあった。


「できれば乱暴にしてもらえると助かるんですけど……あの、爪とか立てたり、少しくらいなら血とか出ても」


 しかもとんでもない性癖だった。

 優しい口調でなんてことを言いだしてるんだ。

 その、そういう系は俺はあまり……そんなアブノーマルじゃないんですが。


「おっぱいを潰すくらい……」


 潰したくありませんが⁉ もったいない!

 いや、そういうことじゃなくて……!


「あ、あの、いや、なんでそんな痛いことを……」

「う……気持ちいい、ので」


 実証済みですか……?

 ちょっと、言葉が見つからないというか……もしかして前に付き合ってた彼氏がそんな感じだったとか?

 そうじゃないとすると一人で勝手に発見したってことになると思うけど。


「あのっ、私……男の人と付き合ったこと、ないです」


 なかった~。

 自分で気付いたタイプだった~。


「ビンタとか……首を絞めたり、とか」


 本物だぁ~。

 そこまで言う人が実際に居るなんて。まさか目の前に現れるなんて。

 っていうか俺がそれを求められる日が来るなんて。


「パンチとかは、あの、もうちょっとレベルが上がってから」


 考えてあるのか。いつかはやってみたいのか。

 受け身側なのにすごいやる気だ。


「できれば青あざとか……えへへへ」


 可愛く笑っているが殴られたがっている人だ。そう考えると見た目が可愛くても怖く思えてくる……。

 それはそれとして、ずっと胸を触っている事実は終わってほしくなくて。

 あぁ悩ましい。怖いけど離れたくない、複雑な心境だった。


「とりあえず、もげるくらいおっぱいを掴んで……練習を」

「い、いや、それは流石に気を使ってしまうんですが」

「触りたいところを、触ってもらえれば……」

「え~っ? ……えぇ~っ?」


 一部は否定しにくいけど、本題については結構本気でしたくないというか。

 女の子を殴ったり蹴るような趣味は俺にはない。もちろんやったことないわけで、試してみる気にもなれないし、やってみたところで気に入ることはないだろう。

 ただ本気で言われてるみたいだから、いつかやらされそうだった。


「ほっぺたを、つねるだけでも……」

「えぇ……」


 潤んだ目で見つめられる。可愛くお願いをされている。

 断るのも心苦しくて辛くなってしまう。

 つねるだけなら……いけるか。

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