2日目:知らない天井だ……

第26話 “閉じ込めたい”:閉伊静子

「おはよう野上綾斗くん。今日はいい天気だよ。この部屋からじゃ見えないけどね」


 目が覚めると、明らかに俺の部屋じゃない部屋のベッドで寝ていた。

 ベッドの脇に座った、黒い革の眼帯を着けてる、黒髪ロングのお姉さんが微笑みながら俺を見下ろしている。

 う~んなるほど……無理やり連れ去られる系の展開ね。


「寝ている間に連れ出したからといって心配はしないでほしい。私は君の味方だよ」


 はあ、そうですか、としか言いようがない。というか答える勇気すらない。

 清潔なベッドに寝かされた上で、子供をあやすみたいに頭を撫でられて、その行動自体は嫌いじゃないけど状況が怖過ぎる。


 確かに俺は昨日、自宅の自室のベッドで寝た。本人が言った通り、俺が寝ている間に家に入り込んで連れ出したってことなんだろう。

 不法侵入して誘拐……そして今、俺は可愛がられている。

 どういう反応をすればいいんだろう。怖いけど、めちゃくちゃビビるほど脅かされてるわけでもないし。この優しさが逆に狂気的に見える。


「君の言葉を聞いたんだ。ちゃんと伝わったよ」


 あぁ、多分、昨日の帰り道のやつだろう。

 みんな聞いてるのかなーと思って試してみて、でも独り言だと思ってて、最後にはなんかどっちでもよくなったやつ。

 そうか、ちゃんと聞いてる人が居たんだ。冷静に考えると怖いけどこの状況じゃ考えちゃいけない。俺の考えは合ってたってことだけ認識しておこう。


「君は争いを嫌っている。自分が愛されていることに戸惑っている。だけど前向きに受け入れようともしていて、昨日覚悟を決めたばかり」


 まあ、そんな感じなんだろうけど、なんとなくかっこよく言われてる気がする。


「そこで私は君の手助けをしようと思うんだ。私はハーレム肯定派だよ。否定派の考えを変えるために、少しばかり趣向を凝らしてみようと思う」


 あんまり良くない気がする。

 多分俺に協力的なんだろうけど信じていいのかどうか……。


「君を監禁する」


 あぁ、だめなやつだぁ……。


「ちょっとしたゲーム感覚で捉えておいてくれよ。君を捕まえて連れ出したことは今頃みんな認識しているはず。果たしてその時、どう動くのか。必然的に協力しなければならない瞬間が来るだろうし、その時に協力できるのか。はたまた潰し合ってライバルが減るのか」


 平気な顔でヤバいこと言い出した。

 この人は俺を餌にしてみんなを集め、デスゲームでもやるつもりなんだろうか? 案外ないとも言えないのが怖いな……昨日戦ってた人たちとか武器持ってた人とか。


 実際きっかけさえあれば潰し合いそうな雰囲気があるからなぁ。

 羽々乃先輩や“心中少女”と、鉈を持ってた他校の子あたりが心配だ。


「君のために力を合わせたことがハーレムに繋がるのならばよし。逆に潰し合って君を諦めることがあるのならばそれもまたよし」

「そんな……」

「ふふ、心配しないで。彼女たちが君を助けられなくても君をひどい目に遭わせたりはしないよ。むしろここで快適な生活を送ることができる」


 でも監禁されるんですよね……。

 いや、そうか、監禁されるから快適なのか。逆に言えばある程度生活に必要な物は用意してもらえるから。


「誰も助けに来ないなら、私と君とで生きていくことになるね」

「……そうですね」

「蓄えも準備もあるから心配はいらない。私はずっと君の傍に居るよ」

「ありがとうございます……」


 知らない部屋に、窓のない部屋。

 そして俺の左手に着けられた手錠が、長い鎖で壁に繋がれている。当然鍵は渡してもらえないだろうし、助けを待つしかなさそうだ。


「これは外してもらえないんですね?」

「ああ。この部屋の中なら自由に動けるから問題ないよ。風呂もトイレも入れる距離と長さだ。私も居る」

「あ、ですよね。ひょっとして全部見られるんですか?」

「もちろん」


 それはまずそうだなー……。

 ちょっと試すだけでも恥ずかしいのに、一生続くとなると本気で俺の人格がどうにかなると思う。

 多分、受け入れた将来はこの人に心酔してるんだろうなぁ。監禁ってそういうものだって聞いたことあるから。

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