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 どこをどう、どのくらい歩いたか分からないが、気付くとオアは都会にいた。

 ビルの間を人々と車が行き交い、遠くには高い塔が見える。交差点の向こうに立つ商業ビルに設置されたディスプレイには、広告が流れていた。

 オアはそれをぼんやりと眺める。これから自分はどうすべきか、未だ判断できずにいた。

 サイバーセキュリティの広告を見て、オアははっとする。家族の情報を削除すべきではないかと思ったのだ。

 家族のデータは、れっきとした個人情報だ。もし自分がウイルスに感染したり、ハッキングされたりしたら、流出する可能性もある。

 オアはさっそく回路を動かした。家族の情報を探し出し、表示してメニューに移る。

 ふと、春翔の笑顔が人工知能上に浮上してきた。勇樹、恵莉、裕一の顔、生体情報、初めて会った時の映像……。

 消せなかった。メニューまで開いたのに、どうしても「削除」を選択できなかった。

 それが何を意味するのか、オアには分からなかった。

「臨時ニュースです」

 広告の画面が切り替わり、無機質な背景にニュースキャスターが映る。

「ヒューマノイドが、人間を拉致監禁していた事が発覚しました」

 近くを歩いていた人間達は足を止め、ニュースに見入る。みな不安げな表情を浮かべ、画面を見上げている。

「昨日、葛並区の空き家で、ヒューマノイドが女性に危害を加える様子が、目撃されました。警察が調べたところ……」

 人々がざわつく。ヒューマノイドは、ロボットの一種である以上、人間に服従するものだと、世界では信じられていた。

 画面が切り替わり、オアそっくりの顔が大きく表示される。

「女性を拉致監禁していたのは、オアINT102型のヒューマノイドで……」

 画面に映ったのは、オア自身と同じ型で、二世代前のヒューマノイドだ。

(これは、自分にとって良くない事になる)

 オアはそう感じた。

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